此方様(読み)コナサマ

デジタル大辞泉 「此方様」の意味・読み・例文・類語

こな‐さま【×方様】

[代]《「こなたさま」の音変化》二人称人代名詞あなたさま。おまえさま。女性相手を敬い、または親しんで呼ぶのに用いる。
「―の評判いろいろに聞いた故」〈浄・曽根崎

こな‐さん【×様】

[代]二人称の人代名詞。「こなさま」のくだけた言い方。あんたおまえさん
「―の孝行の道さへ立てば、わしも心は残らぬと」〈浄・宵庚申

こなた‐さま【×方様】

[代]二人称の人代名詞。あなたさま。
「江戸元結屋の亭主は―の旦那と承りまして御座る」〈浮・好色盛衰記・五〉

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精選版 日本国語大辞典 「此方様」の意味・読み・例文・類語

こな‐さま【此方様】

〘代名〙 対称。主として女性が、敬意をもって目上に対して用いる。対称の「こなたさま」から生じた語。あなたさま。
※歌舞伎・夕霧七年忌(1684)「ナウこな様が請出して下さんしたか」
[語誌](1)室町時代末期、最高の待遇価値をもった対称代名詞「こなたさま」から変化した語で、近世に入り成立。「こなたさま」が男女共用だったのに対し、「こなさま」は近世初期上方語では遊女語であった。さらに、元祿期上方語では、一般女性も使うほか、少数ながら男性も使用するなど、使用者層の拡大化が見られる。
(2)派生語「こなさん」も、近世初期上方語においては遊女語であり、元祿期上方語では一般女性にも広がった点では「こなさま」と共通するが、専ら女性が使用したという点で「こなさま」とは異なる。「こなさん」は、近世前期末には床屋・侠客・関取など限定されてはいるが、男性も使うようになり、待遇価値は低くなった。それが近世後期上方語になると、さらに使用者層が広がり、一般の男性も広く用いるようになった。
(3)「こなさま」の派生語としては、「こなさん」の他、「こなっさん」「こなさあ」「こなさ」「こなん」「こなはん」などがある。

こちら‐さま【此方様】

〘代名〙 (「こちら」に尊敬接尾語「さま」を付けてさらに敬っていったもの)
① 対称。相手の家や家族をさしていう。お宅様。
怪談牡丹燈籠(1884)〈三遊亭円朝〉三「ヘイ番町の栗橋様か御当家様(コチラサマ)は、真影流の御名人と承りました故」
② 話し手側の人をさしていう(近称)。
大菩薩峠(1913‐41)〈中里介山〉お銀様の巻「此処であなたにお目にかからうとは思ひませんでした。如何(どう)して何時(いつ)頃から此方様(コチラサマ)におゐでなさいますの」

こなた‐さま【此方様】

〘代名〙 (「さま」は接尾語) 対称。相手を敬って呼ぶ語。あなたさま。近世では、主として女性、特に、遊女などが高い敬意をもって相手を呼ぶときに用いた。役者、遊里の客などに男性使用の例も見られるが、女性語的性格の強い語。
※虎明本狂言・萩大名(室町末‐近世初)「又ていしうなどか、こなたさまをおともいたひてまひったらば、うれしがって」
※歌舞伎・万歳丸(1694)二「ああ私は半左衛門でござりますが、此方様(こなたさま)はどなたでござりまする」

こな‐さん【此方様】

〘代名〙 対称。女性が目上に対して用いる。あなたさん。そなたさま。
※評判記・もえくゐ(1677)「頼りなき身ひとつは、こなさんならでは、たれかは」
[語誌]→「こなさま(此方様)」の語誌

こな‐さあ【此方様】

〘代名〙 =こなさ(此方様)
※浄瑠璃・傾城反魂香(1708頃)上「しかしぶすいなおかたには松と見られて嬉しうなし。杉といはれて腹立ず桑の木共ゑの木共。こなさあに似合たあほうの木とも見さんせ」

こな‐さ【此方様】

〘代名〙 (「こなさま」の変化した語) 対称。遊女が客に用いる。あなた。こなさあ。
※浄瑠璃・夕霧阿波鳴渡(1712頃)上「たまさかに逢ふてこなさに甘ようと思ふ所を」

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