条例理論(読み)じょうれいりろん(英語表記)teoria della statuta[イタリア]
Statutentheorie[ドイツ]

改訂新版 世界大百科事典 「条例理論」の意味・わかりやすい解説

条例理論 (じょうれいりろん)
teoria della statuta[イタリア]
Statutentheorie[ドイツ]

条例とはもともと,中世イタリア北部の自治都市が独自の立法権に基づいて制定した都市条例statutaのことを意味していた。この都市条例の適用をめぐる諸問題を研究したのが条例理論であり,その主たる課題は二つに大別できる。一つは,ヨーロッパに普遍的な立法権をもっていたローマ皇帝権力と,立法権を含む自治権を認められていた都市の権力との対抗関係の中で,皇帝法と都市法そのいずれを優先適用すべきかを論ずる,いわばタテの関係である。皇帝権力に対抗する都市権力の側から都市法が優先すべきことを,言い換えれば皇帝の立法権は限定せらるべきことを論証することに重きが置かれたため,この点だけを見ると条例理論はすなわち条例優先理論ともいえる。〈都市法は皇帝法を破る〉という法諺ほうげん)などとしてその成果が残っている。一般に,普通法に対する地方固有法の関係を論ずる後世のモデルとなり発展させられてきた。

 他方もう一つの問題は,いわばヨコの関係で都市条例相互の間の適用関係が論じられた。各都市の間の交易が興隆するにつれその間の渉外的取引が発展し,いずれの都市法に従うべきかが問題となったからである。ある都市の条例はその都市の域外にも及ぶか,みずからの域内にある他の都市の臣民をも拘束するか,こうした形で議論が始まり,条例の性質や目的を基準に,それが人・物そのいずれに関するかによって,あるいはみずからの臣民である限り域外にあっても適用されるとか(属人的域外適用),みずからの領域内にのみ適用範囲が限定されるが他の都市の臣民にも及ぶ(属地的域内適用)とか論じられた(バルトルスなど)。のちこれは人法statuta personaliaおよび物法statuta realiaのカテゴリーでとらえられ,双方の性質をもつかいずれとも決めがたいものは混合法statuta mixtaとされて適用関係では物法と同様に扱われるようになり(ダルジャントレ(1519-90)),ここに法を3種類に分ける理論が完成した。その後,この理論は都市法のみならず広く地方慣習法やより普遍的な法律についても一般化された。また分類のカテゴリーも比較的安定していた人法・物法のほか方式の法などさまざまな試みがなされ,法律の地域的な適用関係を取り扱う理論として19世紀前半ごろまで欧州学界を支配した。法律関係の複雑化・多様化に対応しきれなくなり分類の基準の客観的明確性にも欠けるようになって,サビニーの唱えた法律関係の本拠がどこにあるかを基準として,どの法律を適用すべきか,という方法に座を譲ることとなった。日本では主として国際私法の理論に与えた側面だけが紹介されたため,法則学説とか法規分類説あるいは法則区別説などと訳されてきたが,最近は,総合的研究も本格化しはじめている。
国際私法 →法の抵触
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世界大百科事典(旧版)内の条例理論の言及

【国際私法】より


[準拠法選定の方法]
 問題の解決基準として最もふさわしい法律(最適準拠法optimal law)の発見,これが当面の問題である。ところでいったい何をもって最適と考えるか,それに到達するのにいかなる方法によるのか,その方法は条例理論と法律関係本拠説とに大別できる。(1)条例理論 準拠法となる可能性のある法規から出発し,その解釈・構成をとおして,その趣旨・目的を明らかにし,法規の性質に応じた分類を施すなどを行い,もって当該問題に適用されるべきものか否かを決定する方法である。…

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