有用植物(読み)ユウヨウショクブツ(英語表記)useful plants
economic plants

デジタル大辞泉 「有用植物」の意味・読み・例文・類語

ゆうよう‐しょくぶつ〔イウヨウ‐〕【有用植物】

食用のほか建築・工芸・薬剤・園芸などに用いられて、人間の生活に役立つ植物。菌類まで含め、非常に多くの種類に及ぶ。

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精選版 日本国語大辞典 「有用植物」の意味・読み・例文・類語

ゆうよう‐しょくぶつ イウヨウ‥【有用植物】

〘名〙 食料、衣料、燃料、工芸、薬品、園芸などに用いられる植物。おびただしい数の種類が該当するが、地域、民族、歴史などにより種類を異にする。有用度の高いムギ、タバコ、ダリアなどでは、原産地から、広く世界各地へ移植されたものも多い。

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改訂新版 世界大百科事典 「有用植物」の意味・わかりやすい解説

有用植物 (ゆうようしょくぶつ)
useful plants
economic plants

現在,地球上には約30万種の植物が知られている。それらのうち人類の生活になんらかの関わりがあり,食料,香辛料,衣料,糸や籠の材料,住居の建築や木工細工,燃料,薬,さらには美的な観賞対象としての園芸植物にいたるまで,さまざまな形で利用されている植物は数万種にのぼるであろう。そのうち食用にされている植物だけでも,1万種以上もあることが知られている。

直接的に人間の生活に関係のある植物だけでなく,光合成を営んでいる緑色植物のすべては〈人類生存〉の基盤を形成している。人類は,石油や石炭などの化石燃料を最近では年間約40億t使用している。また焼畑などによる植物体の燃焼によっても,大量の炭酸ガスを排出していて,その総量は年間約150億tと推定されている。また最近の100年間には,4000億t以上の炭酸ガスが人類の活動の結果,空気中に放出されたと推定されている。そのため空気中の炭酸ガス濃度は年々上昇し,炭酸ガスによる〈温室効果〉により気温の上昇,さらには気候変動への影響が憂慮されている。この空気中の炭酸ガスを光合成によって有機物に固定する働きは緑色植物だけが行っていて,地球的な規模での生態系の物質循環のサイクルを考えたとき,すべての緑色植物は,人類にとって有用である。

 人類の農業生産活動の結果として,広大な陸地の植生が破壊され,土壌流亡が生じ,その結果として農業生産の効率が低下していることも注意されていることである。この土壌流亡を阻止し,農業の生産性を維持するには,土地の適切な利用,特に土地を被覆する植生の回復が必要である。

 また,人口が異常に集中した都市域での気候の変化--気温の上昇と湿度の低下(乾燥)--は,生活環境として好ましくない現象である。このようなヒートアイランド現象も,土地被覆としての緑地の破壊によることが知られていて,都市域における適切な緑地の配置が生活環境の維持に大切なことになっている。このようにすべての緑色植物は,人類生存の基盤を形成しているという点で,有用である。

人類が農耕を開始する以前,人類は野生の植物を広く採集利用していたにちがいない。農耕を知らなかったアフリカのピグミーやマレーシアの山地民の利用可能な植物についての具体的で詳細な知識体系は,農耕開始以前における人類の食用植物に対する知識の蓄積が,いかに多かったかを知らせてくれるものである。主食としての地下貯蔵器官(いも)の採集,若芽や葉,花序の野菜的な利用,各種の果実や種子の採取利用などが広く行われていたにちがいない。しかし加熱容器(土器)や石臼による粉砕加工がなければ,小さな種子(主としてイネ科)や硬くて食べにくい組織からなる植物体を食用に供することはむずかしかったであろう。これらの加工道具は,農耕の開始あるいはその直前に使用が始まった。この時期は人類がもっとも多くの植物を食用にしていた時代であろう。現在,われわれが食用としている1万種あまりの植物のうち,栽培されるのは数百種にすぎないし,それらのうちで重要な食用栽培植物は,パンコムギのように直接的な野生祖先種がなく,人類が栽培コムギの雑種から選択したようなものから,たとえ祖先種はあっても,利用部位が奇形的に肥大化したり,イネ科の穀類のように脱粒性をなくして,自然状態では正常に繁殖できないものに変えられている。

 そのような長い人類と植物との関係のなかから選択された,食用となっている栽培植物には,その利用型(方法),利用部位や成分,それに植物の生活形といった面で密接な相関が認められる。主食として,植物が貯蔵しているデンプンを利用するものとしては,種子(穀物)と地下貯蔵器官(いも類)とがある。前者はイネ科の一年草や二年草で,開花結実すれば養分を種子に転流しつくして枯死する生活形のものばかりである。いも類は逆に,次の生育のために地下に貯蔵した養分を利用するものだから,すべて多年草である。果実の果肉の部分を主食的に利用する例はごく少数で,パンノキとバナナ,それにカボチャ類がある。またマメ類にも,種子のデンプン含量の高いものは主食的に食用にされるものがあり,それらはほとんど一~二年草である。また開花前に,太い木質の茎に多量のデンプンを蓄積するサゴヤシも,マレーシア地域で重要な主食植物になっている。

 若芽や葉,地下部あるいは若い花序や果実を野菜のように利用しようとすれば,有毒で,ひどい味がしない,すべての植物が利用対象になりうる。日本でも山菜としてはいろいろな植物が食べられている。そのようなものから栽培化されたものは,ほろ苦さをもつキク科植物(チシャ類,ゴボウ),辛みを有するアブラナ科植物(アブラナ類,ダイコン),苦みと香りのあるウコギ科やセリ科の植物(ウド,ニンジン),粘液質のアオイ科植物(オクラ,アオイ類),それに味に特徴はないが生育が速く,やわらかい草本であるヒユ科やアカザ科の植物(フダンソウ,ホウレンソウ,ヒユ類,アカザ類)がある。多くのものが,味や香りにくせのある植物群であること,一,二年草が多いこと,また温帯のものには地中海地域が原産の二年草から改良されたものが多いことが目につく。また海藻も,日本では広く食用とされ,ワカメ,コンブなどその用途の多用なこと,産額の大きいことは他に比類がない。

 果実が食用とされている植物は多いが,この果実としての利用型には他の利用型に比較すると樹木の率が高い。ウリ科に見られるように一年草の果実が果物として利用されることはないわけではないが,栽培植物となった果実利用型植物のほとんどは多年草(イチゴ,バナナ,パイナップル)か,果樹と呼ばれるような木本植物である。主として木本植物の種子を食用にすることも広く見られ,ナッツ類としてまとめられる。それらはやや硬く,しばしば油を含む胚乳や子葉を食べる。草本でも,油を含む種子を食用にするラッカセイや,ヒマワリなどもナッツ類とされる。
栽培植物 →作物 →食用植物

植物では,種子や果実以外の器官に精油を含有することはあっても,食用とされる油脂を含有することはない。そのため油料植物は,種子や果実に油脂を貯蔵する植物群に限られ,キク科(ヒマワリ,ベニバナ),シソ科(エゴマ),ゴマ科(ゴマ),トウダイグサ科(ヒマ,アブラギリ),アオイ科(ワタ),アブラナ科(アブラナ類),マメ科(ダイズ,ラッカセイ),モクセイ科(オリーブ)などに多くの油料植物が見られるし,熱帯域ではヤシ科(アブラヤシ,ココヤシ)が最も重要である。またイネ科は,主としてデンプンを食用とする方向に利用が進められたが,油脂の含有量を高める方向に品種改良されたトウモロコシは重要な油料植物にもなっているし,精米の過程で出てくる米ぬかも,油脂原料となる。これらのうち,アブラギリやオリーブ,ヤシ科植物を除くと,ほとんどは種子への同化産物の転流率の高い一年生草本である。多年草や木本植物で,種子の貯蔵養分がもっぱら油脂であるものは多数あり,それらのなかには地方的に,あるいは特別な用途に利用されるものは多いが,生産量の多い重要な油料作物になったものはごく少ない。また果実の果肉部分に油脂が蓄積される植物は,果樹とされるアボカドのほかにはごく少数である。そのようなものから栽培化されたものとしては,アフリカ原産のアブラヤシがあり,熱帯域では最も生産性の高い油料植物となっている。単位面積あたりの生産性の高い油料植物の育成は,油脂が食料にとどまらず,エネルギー源としても重要な位置を占めるようになるだろうから,努力をはらわねばならない。
工芸作物

植物体は,成分的には多糖類である高分子化合物セルロースを骨格に形成され,やはり多糖類であるデンプンが貯蔵物質となっていることが多い。これらの高分子を分解すれば,ブドウ糖などの糖が得られるので,多くの植物は間接的な糖源植物になりうるし,この糖を発酵によってアルコールに変えることも普通に行われ,その点では多くの植物が間接的にアルコール源植物でもありうる。しかし,植物がブドウ糖や果糖,ショ糖などの水溶性の糖の形で糖類を貯蔵している例は,それほど多くはない。サトウキビ,テンサイなどは,そのようなものから糖の含有部分を肥大させ,含有量を高める方向に育成された栽培植物である。また植物では貯蔵デンプンが,生長部分に転流するときは水溶性の糖の形になる。このときの樹液を流出させて糖を採取することは,多年生の草本や木本で見られる。代表的なものにサトウカエデリュウゼツランサトウヤシ,ココヤシなどがあるが,この場合はしばしばアルコール発酵が伴い,テキーラやヤシ酒などアルコール飲料の醸造を伴うことが多い。果実の果肉部分に糖含有量が高いこともしばしば見られ,ナツメヤシやカキの皮のように糖源として利用されることがある。

 植物の花は,しばしば蜜(みつ)腺を有し,花蜜を分泌している。それらは,一つの花ではごく少量ずつであるので,人間が直接的に利用することはできない。しかし,ハナバチ類,とくにミツバチを利用して花蜜を集積し利用することは広く世界中で見られる。レンゲソウニセアカシアなどの良質の蜜を多量に分泌する植物は,特に蜜源植物と呼ばれる。しかし植物の種によっては,蜜が有毒(シャクナゲ類が有名)で食用にできない。

液体状の飲料として利用される植物にも,いろいろなものがある。その中で著しく目につくことは,重要な飲料の原料となるチャ(ツバキ科),コーヒー(アカネ科),ココア(アオギリ科),それに南米で地方的に利用されるマテチャ(モチノキ科)が,系統的には互いにまったく異なった植物であるにもかかわらず,どれもみな神経系を興奮させる作用をもつアルカロイドであるカフェインを共通して含有していることである。〈茶〉として飲料に供される植物は多いが,それらの中からカフェインを含有するものが,広く利用されるものとして選択されていることはおもしろいことである。

 ココヤシのように,果実の液状の胚乳部分を直接飲用にすることもあるが,多くの果実で搾り汁をジュースとして飲用にする。これはミカン,リンゴなど多汁で食用になる果実を産出する植物に広く見られる果実の利用形態であり,果実食と結びついたものである。しかし,糖質を含有する果汁は放置するとアルコール発酵を起こし,ブドウ酒で代表されるようなアルコール飲料となる。このアルコール飲料は果汁に限らず,サトウヤシのような樹液からも,またコメ,オオムギなどデンプン質を糖化発酵させても製造され,重要な発酵産業となっている。〈茶〉のように含有成分を浸出させて飲用に供することは,特有の芳香や味を有する植物(レモングラス,はぶ茶,ササ茶,麦茶等)の利用としていろいろ見られ,薬用的な利用と分けられない場合も多い。

煮たり,油で揚げたり,いためたりする調理方法の発達とともに,食物に好ましい味と香りを与える香辛料の使用が始まったのであろう。南米原産のトウガラシ,インドや東南アジアのショウガ科植物とコショウを中心としたカレーや有名なニクズクとチョウジ,それにヨーロッパで発達したセリ科やシソ科植物を中心にした香辛料は,現在では全世界で広く使用されている。これらはいずれも,独得の芳香精油成分や辛み成分を含有している。場合によると,香辛料植物と野菜利用型の食用植物とは,アブラナ科のカラシナ類,セリ科のセロリやパセリのように,区別しにくい場合がある。日本で栽培化された植物は数少ないが,そのうちフキ,セリ,ミツバ,ワサビはいずれも香りや辛みのある野菜であることは特徴的である。

食用に直接利用する植物だけでなく,ウシやウマなどの食用に利用する草食性家畜を飼育するための植物までも栽培化しているのは,人間の特徴であろう。このための飼料植物は栄養体をそのまま粗飼料として利用するものと,高カロリーの種子などを利用する濃厚飼料とがある。前者には年に何回もの刈取りに耐えられたり,単位面積あたりの収量のよいイネ科植物や,窒素分の少ない貧栄養土壌でもよく生育し,家畜の好むマメ科植物が多い。後者には光合成能率のよいイネ科のモロコシやトウモロコシが大量に利用される。また飼料には,人間が有用な部分を搾りとった粕(かす)(大豆粕,サトウキビの搾り粕など)も利用される。飼料は大きく見ると,自然草地を火入れなどの管理によって維持し利用するものまでをも含むことが可能であろうが,そこでは自然種が飼料として重要な役割を持ち,有害でない草地植物が広く利用されている。
飼料作物

藻類や菌類は,陸上緑色植物とおなじように食用にされるものもあるが,特異な成分の利用も発達している。とくに日本人は海藻類を多食することでは世界的に有名である。コンブ,ワカメ,アオサやアサクサノリなどは日本人の食生活に欠かすことのできない重要な食品になっている。これら藻類はヨードなどの微量要素を含み栄養的には重要なものであり,特別な風味や香り,あるいは粘液質が食用目的にされる。またテングサ類の寒天質を抽出して乾燥した寒天は食用だけでなく,微生物の培養基にも大量に用いられる。海藻類にはフノリのように糊料にされたり,マクリのように薬用にされたものもある。大型の褐藻類はヨード原料や肥料にされたが,最近はエネルギー危機が叫ばれ燃料のメタン製造などに利用することも研究されている。

 キノコ類には有毒な種も多い。しかしマツタケ,シイタケ,エノキタケ,ナメコ,マッシュルームなどの重要な食用種があり,営利的な栽培もなされている。また特異な生理的活性や抗菌作用を有する物質を生産する菌類は抗生物質をはじめ各種の医薬品の製造に利用される。アルコール発酵には酵母菌が,日本酒製造のデンプン糖化にはコウジカビが,乳酸飲料の製造には乳酸菌による乳酸発酵が,また大豆タンパク質を分解し納豆を作るのには納豆菌の発酵作用が利用されるように,多くの菌類が工業的生産に使われている。

腹のたしにはならないが,病気を治療したり,精神的な刺激や麻酔作用を楽しむ奇妙な植物を利用するのも,人間の特性の一つであるだろう。それらは,植物の特殊成分の生理的活性を利用している植物ともいえるので,ここでは薬理植物という名でまとめておく。直接あるいは間接的に食用に供している植物のなかにも,飲料や香辛料に利用する植物は薬理的に利用する植物と利用のしかたや,効用に一脈通じるものがあり,厳密な区別はしにくい。

古くから漢方として東洋医学独得の医療体系を発達させた中国では,知られている限り数千種もの植物が民間薬として利用されている。また,世界のどの民族をとりあげてみても,本当に薬効があるかどうかは別として,薬用にする生物,特に植物の体系的な知識の蓄積がみられる。正確な見積りはないが,民間薬として薬用にされる植物の種類は,食用にされるものよりも多いであろう。

 民間薬としての薬用植物の多くは,薬効成分がはっきりしなかったり,精神的おまじないとしか考えられないが,そのような民間薬から発見された重要な治療薬も数多い。中南米で使われていたマラリアの特効薬キニーネや,矢毒として使われていたクラーレが麻酔薬となった例などは,有名である。これらは生理的には毒性を示すことの多いアルカロイドを含有している。麻酔薬として有名なモルヒネやヘロインは,ケシから採れるアルカロイドである。また,ベラドンナ(アトロピン),コカ(コカイン),マオウ(エフェドリン)など,含有しているアルカロイドの生理活性を利用するものは多い。アルカロイドは,しばしば強い毒性を示し,ストリキニーネのように致死的毒物も多い。アルカロイドと同様,強い生理活性を有する配糖体を利用する薬用植物には,強心作用で有名なジギタリス(ジギタリン)がある。その他,ステロイド系ホルモンに似た成分(サポニン)を有し,性ホルモンやコーチゾンの合成原料とされるメキシコ産のヤマノイモ属植物などのように,最近は合成薬の材料としても薬用植物の重要性は高まっている。菌類からは,ペニシリン,ストレプトマイシンなどの抗生物質が発見され,それの分子構造の解析から多くの抗生物質が化学合成されるようになったのは,第2次世界大戦以降のことである。

 植物には人間の神経系に作用し,幻覚などの陶酔麻薬作用を有するものが多数あり,その作用の軽いものはタバコ(ニコチン)やコーヒー(カフェイン)のような飲用や吸引による利用が広く行われている。
薬用植物

薬用植物と有毒植物とは,多くの場合明確に区別しがたいものである。誤って食べると有毒な植物は多いが,そのような種であっても毒抜きをして食用にしたり(ヒガンバナ),あるいは少量を使用して薬用にする(トリカブト)例は多い。また,筋肉の弛緩に用いられるクラーレ(d-ツボクラリン)は,もともとは熱帯アメリカで矢毒として用いられていたものであり,トリカブトやアフリカのストリキノスのようなアルカロイド系の多くの矢毒が狩猟に用いられていた。

 魚を捕らえるのに魚毒を流すことも世界各地で行われ,そのうちマレーシア地域で使用されるマメ科のデリス(ロテノン)は殺虫剤としても有名である。最近はDDTやBHCのような有機塩素系の合成殺虫剤の残留毒性が問題となり,ジョチュウギク(ピレトリン)など植物性の殺虫剤が再評価されつつある。矢毒や魚毒,殺虫剤は植物が発展させた動物に対する有毒性を,人間がうまく利用しているものである。

芳香を有する精油を含有する植物も多い。それらから抽出された精油は,香水,セッケン,化粧品,菓子などに香りをつけるために広く利用されるだけでなく,ハッカのように薬用としても利用される。精油は通常,水蒸気蒸留によって集められる揮発成分で,テルペンやセスキテルペン,あるいはそれからの誘導体である。

 すでに述べた香辛料植物の多くは精油を含有しており,それぞれに特徴的な芳香を有しているが,他方では精油は炭化水素系の有機物で,あとで述べる石油植物,あるいはゴムや樹脂とも化学成分として共通性があり,注目されている。

直接,間接に人間の体内に摂取する形で利用する植物のほかに,人間の生活に必要な器物(住居,家具,運搬具,衣服,装飾品など),すなわち生活に必要な形あるものを作り出すのに利用される植物も,おびただしい数にのぼる。それは,植物には動物とは異なり,付加的生長の結果としてセルロースとリグニンを主成分とする硬い組織体である木材部分を形成するものが多いし,また木部繊維,靱皮繊維,あるいは種子の表面の毛など長い細胞によって作られる各種繊維を有するものも多く,それらを人間が多面的に利用しているからである。植物体に含有される樹液や乳液は,植物体が傷つき浸出したときに硬化し保護する働きをするものが多い。そのような樹脂,ロウやゴム質成分も,その特異な性質を利用し,種々な用途に利用される。植物体に含有される色素は,19世紀の合成染料の出現以前には重要な染料源であった。染料植物は特に衣服の加工や装飾に重要な役割を果たしていた。染料と同じような目的に多用されたものに,タンニンがある。これは特に動物の皮のなめしに重要な役割を果たしただけでなく,防腐用,表面保護用にも用いられた。

幹が太く,大型になるすべての樹木は,木材として利用される可能性を有しており,事実,多くの木本植物が,家,橋,機械,器具の製作に利用されている。しかし,木本植物の材は,植物の種によっても,生育地によっても多種多様であり,用途に応じた材質の選択が必要である。そうした点から重要な木材源植物は,用途に適した性質を有し,量的にもまとまるものである。木材は針葉樹から生産される軟材と,広葉樹から生産される硬材とに大別されるが,広葉樹にはバルサやキリのように軽軟な材質のものから鉄木類のように比重が1以上の重硬なものまでのいろいろな材があり,簡単に軟材と硬材とを区別しがたい。

 森林は地球上の比較的限られた地域に,それぞれ特徴的な型のものが分布をしている。そのため木材資源もかたよった分布をすることになる。重要なものは北方の亜寒帯に分布する針葉樹林から生産される北方材(軟材)と,熱帯降雨林域(マレーシア地域ではラワンなどのフタバガキ科が中心)からの南方材(硬材)である。温帯域は広葉樹材(ブナ科やクルミ科)が多く,針葉樹のマツが加わる。日本のようにスギ,ヒノキのような針葉樹が重要な植林樹種として育成された温帯域は珍しい。また熱帯域や東アジアでは,単子葉植物で木本性になるヤシ類やタケ類が,その独得の特性を建築や器具の作製にうまく利用されている。木材資源は,世界各地での森林の乱伐のため,急速に減少しつつあり,植林も含む森林の再生と,森林資源の高度な利用が必要とされる。現代の建築は,セメントや鉄材を利用することが多くなってはいるが,建築における木材の消費量は必ずしも少なくなったわけではない。また,家具材や器具材としての木材の特殊な利用は今後とも続くであろう。そうした点からは,再生可能な森林資源の育成はきわめて重要な問題となっている。

紙,衣服,マットや籠,あるいはロープなどの結束料として,植物繊維の利用は広範にわたっている。〈結ぶ〉ということがない人間文化は存在しえないだろうし,紙のない現代文明は想像できない。このどちらについても,植物繊維が重要な役割を果たす。セルロースを主成分とする細長い細胞である繊維は,植物体のいろいろな部分が利用される。つる性植物の茎や単子葉植物の平行した細い維管束を有する茎や葉は,結束やマットや籠を編むのに広く用いられる(サイザルアサ,マニラアサの葉の繊維,パナマソウの葉,タケやヤシ科のトウ(籐)類の細長い茎,タコノキ科の葉など)。

 双子葉植物では多くの植物で靱皮繊維の利用が見られる(イラクサ科のカラムシ,イラクサ,クワ科のコウゾ,カジノキなど,シナノキ科,アオイ科のイチビ,ジュートなど,ジンチョウゲ科のミツマタ,アマ科のアマ)。しかし靱皮繊維は収量が多くないので,工業的規模で利用されるのはジュートなど限られたものである。それに対して木材繊維をパルプとして利用することは,大規模な製紙工業として発展し,大量の北方針葉樹材がパルプ原料として利用されている。セルロースを成分とするパルプは製紙原料となるだけでなく,かつては人造繊維のレーヨン,フィルム製品のセロハン,セルロイドなどの原料になった。北方針葉樹林の乱伐による資源枯渇によって,パルプ資源植物を広葉樹やタケあるいは他の草本性植物に求めることが行われているが,質の点と資源量の点では問題が残されている。

 変わった,しかも成功した植物繊維の利用形態は,元来は種子分散の機能のために発達したと考えられる種子の毛の利用である。トウワタ,カポックなどは長くてほぼセルロースだけから成る種子の毛が利用されているが,ワタの種子の毛は,成熟するともともと円柱形だった細長い細胞が,側圧されて扁平化し,よじれるために,紡いで糸により合わすことができる。この性質のため,人類の衣料原料としてワタは他の植物繊維とはかけ離れた重要な位置を占めた。

靱皮繊維のように,植物の皮層の繊維を取り出して利用するだけでなく,植物の茎の皮層の部分,すなわち樹皮を直接的に利用している樹木も多い。日本では,ヒノキの繊維質の樹皮は耐水性や耐腐朽性があり,檜皮葺き(ひわだぶき)のように屋根材にされる。板状にはがれる樹皮を建築・構造物に利用したり,あるいは柔軟な樹皮をつめものにすることは,世界各地で行われている。さらに,木本性の植物の一部のものでは,樹皮のコルク形成層の発達により,厚いコルク質樹皮が作られるものがある。特に地中海沿岸のコルクガシが有名で,コルクは断熱性,耐薬品性にすぐれ,軽いため,各種の液体貯蔵瓶の口栓,断熱材,あるいは浮材(救命胴衣など)に多く用いられた。日本のアベマキからもコルク質樹皮は採取されるが,品質はよくない。

植物には,傷害を受けると樹液や乳液を出して傷害部位を保護するシステムがある。流出した樹液や乳液は,被覆固化して保護作用を発揮するのであるが,このような性質をうまく利用したのが,ゴム樹脂の利用である。隙間をつめたり,接着したり,あるいは器物に塗装し保護したりするほか,ゴムはその弾性を利用して各種工業製品に多量に用いられている。

(1)ゴム植物 炭化水素系の高分子化合物であるゴムは,各種の乳液を有する植物から採取されるが,そのなかで工業的に大量使用されるのはブラジル原産のパラゴムノキからのゴムである。現在では合成ゴムの出現によって,パラゴムノキから採るゴムの使用量は相対的には低下しているが,絶対量は必ずしも減少してはいない。東南アジアからマレーシア地域が最大の産地になっている。しかし,この地域のプランテーション栽培の始まりは19世紀末で,本格的な生産は20世紀になってからである。パラゴムノキ以外で知られているゴム原料植物にはトウダイグサ科のマニホットゴムノキ,クワ科のインドゴムノキ,キク科のコクサギスタンポポなどがあるが,いずれもパラゴムノキほどの大栽培にはなっていない。

 ゴムによく似ているが弾性がない乳液生産物は,無弾性ゴムとしてまとめられよう。アカテツ科でマレーシア地域産のグッタペルカや中南米産のサポジラ(チクル)はチューインガムや海底電線の被覆材として重要であるし,キョウチクトウ科でマレーシア地域産のジェルトンの乳液はチクルの代用品とされる。

(2)樹脂植物 樹液が固化した樹脂状のものでは,ペクチンに似た糖質のアラビアゴム系(英名gum)のものと,精油成分の酸化還元物である樹脂(英名resin)とが人間によって広く利用される。アラビアゴムは,マメ科のアカシア類から生産される樹脂で,接着や,その粘性を利用して織物,製菓に利用されるし,また薬用にもされている。よく似た樹脂は多数の樹木からも得られるが,アラビアゴムほどの重要性はない。

 精油系の樹脂は,針葉樹だけでなく,フタバガキ科,オトギリソウ科,マメ科,ユリ科など被子植物の種々な植物群からも生産されている。硬質の樹脂としては,コーパルとダマールが有名である。

 軟質の樹脂にはテルペン類やバルサムがあり,ペイント,ワニス,接着用に多く用いられているが,これらを採取する植物は針葉樹に限らず,広葉樹のいろいろな群の樹脂が含まれている。

 ウルシやそれに近縁の植物の乳液は酸化によって固化する性質があり,東アジア地域で漆塗りとして,また接着剤としても重要なものである。

天然染料は,動物や鉱物の例が少数あるが,その大部分は植物性である。きれいな色彩を有する植物の花や果実の色は,原始時代から人体を彩るのに利用され,織布の発明とともに,織物の染色に使われてきた。現在では合成染料が織布の染色に多用され,天然染料の使用は限られたものになってしまったが,合成染料の発ガン性の問題から食品の着色には植物性の天然染料が見直され,再び大量に利用されるようになりつつある。2000種をこえる化合物が染料として,花や果実からだけでなく葉,材,根など植物のいろいろな器官から抽出されていた。また,地衣類のリトマスから採取される色素は,酸性度を測定するリトマス試験紙にその名を残している。

多くの植物に含有されるタンニンはコルク形成に関与したり,植物体の保護の働きをしていると考えられる。このタンニンをとり出して,動物の皮をなめし,それを柔軟で強い性質に変えることに多く用いられている。また鉄塩と反応して暗青色となるので,インクの製造にも広く利用された。タンニンは植物のいろいろな器官に含まれてはいるが,タンニン原料となる植物はそれほど多くはない。カシやナラ類,ヒルギ類,アカシア類などの樹皮や材,それにヌルデの虫こぶなどが有名である。

石油,石炭,原子力といった,現代社会で多用されているエネルギー源は,いずれも再生不可能なものである。しかし,太陽エネルギーを光合成によって有機物に固定する植物の働きは,エネルギー源として消耗しつくされない重要な資源である。かつての植物性のエネルギー源は,もっぱら有機物の燃焼による熱や光エネルギーの利用であったし,現在でも,欧米や日本のような石油や石炭を多用する地域を除くと,家庭における熱源としては薪炭の占める割合は高い。石油や石炭資源が枯渇すれば,熱エネルギー源としての植物,特に木本植物の重要性は再び高まるであろう。また,炭化水素系の化合物である精油やアルコールと脂肪酸のエステルである油脂は,石油の代用品として内燃機関へ利用する研究が進められており,価格的にはまだ石油に代替できるまでには至らないが,その効率のよい生産についての研究は,当面するエネルギー問題にとって重要な問題の一つであろう。糖質の発酵によって生産されるアルコールは,すでにガソリンエンジン用燃料として,ガソリンと混合して使用することが始められている。

人間は,食用にも器物を製作するのにもなんら役に立たない植物を,〈美しい〉ということだけで栽培し,観賞するという奇妙な生物である。そのような美的関心や好奇心で栽培される植物をまとめて観賞植物という。観賞植物の栽培は,人間が都市を作って生活するようになった時点から始まったものであろう。それは一面では自然の一部を人間の居住空間に持ち込み,精神的安らぎと喜びを与えるものであっただろうし,またそれぞれの人間の社会的地位を表示するような役割を果たすものでもあっただろう。

 観賞植物は花や形が美しかったり,変わった形態をしているものであれば,あるいは異国の珍奇なものであれば,何でもよい,という特性をもち,実にさまざまな植物が栽培されている。また美しさだけでなく,都市的な環境でよく生育し繁殖するように品種改良が進められたものも多いが,他方では,誰もが栽培を失敗するようなものをうまく栽培したことに対する園芸家の喜びがあり,それが珍品を導入する重要な動機となっている。観賞用に栽培された植物の種は正確に算定はできないが,3万種をこえるであろう。

 観賞植物には,公園,街路,庭園などに森林的な景観を造る樹木や花木,それに付随した花壇に植えられる草本性の花卉園芸植物,さらに多くは室内の弱光の下で観賞される観葉植物,温度を制御した温室で栽培される温室植物といったいろいろな群に分けられるが,分類は観賞植物の多様さから便宜的なものである。また一年草,多年草,球根植物,多肉植物,樹木といった生活型を中心とした分類や,切花,鉢物といった栽培利用形態からも分類されている。
園芸

都市の公園や街路の森林的景観を造る植物は,見方を変えれば都市的環境を人間の生活を可能なものとする重要な環境構成植物であるし,芝生のような草原的自然の再構成も,そのようなものであろう。〈都市の中に自然の模写をする〉いいかえれば擬似自然を持ちこむことは,生物としての人間の生活の場に精神的・肉体的安らぎの場を構成するということで,今後ますます重要になってくるであろう。それとともに,防風林,山間地での土砂崩壊地の防砂林,道路切通し面の法(のり)面工作の植物の利用など,人間と自然との直接的な関係の発生している所で,植物を利用して環境を安定化することも,広く行われている。それがさらに大規模になったものに,〈砂漠の緑化〉〈森林の再生〉がある。生態学が明らかにした生態系の変動の理論や種の生活の法則性が活用されて,人間によって破壊された自然を復活させることは,今後の人類の生存にとって破壊されていない自然を保護することと並んで重要な問題となりつつあるし,そのときに,人間が意識的に利用する,生長の速い植物,窒素固定能力のある植物,根が深くはる植物,荒れ地でも生育する植物,といったものは,やはり広い意味での有用植物となるであろう。

現代は〈原子力の時代〉とも,〈宇宙時代〉ともいわれるが,人間が生物界の一員であることは変えようがないし,植物の生産した有機物を摂取して生きているということも変えようがない。原子力エネルギーは食べようがないわけである。この基本的な生物としての人間の特性からは,植物と人間とのかかわりあい,特に食料生産は人類の直面している最大の問題であろう。藻類,とくに緑藻類のクロレラや菌類の酵母などが,高い効率でエネルギーを有機物に変換したり,直接利用できない廃棄物を有用な物質に再合成する点から未来の食料として注目はされているが,味や好みからいえば,このような〈合成〉食品は一般的に普及し成功するとは思えない。将来的にも食料生産の中心になると考えられる穀物に関していえば,多収穫で耐病性,環境適応性などですぐれた品種を目ざして育種が進み,かぎられた種の広域栽培になっていくであろう。しかしトウモロコシやモロコシ類のような高温,強光で光合成能率の高いC4植物は,多収穫の点からは望ましい性質を有しており,これらの食味や成分をめぐっての品種改良が進めば,現在よりも重要な穀物となる可能性が高い。

 植物から抽出される化学物質も,現在は有機合成の原料となっている石油資源の枯渇を考えると,人間の生存にとって重要であろう。多くの民間薬とされる薬用植物の有効成分さえまだ十分に探索されておらず,未知の重要な化学物質が将来において植物から発見される可能性は高い。そのため現存する地球上の自然資源としての植物を,生態系としてまとめて保護,保全する緊急の必要性がある。

 植物についての人間の知識体系は原始の採集時代から,農耕を開始し多くの植物を栽培型に変化させ,生活に必要とする物質を得てきた過程で豊かになり,発展してきた。しかしまだ,人間は地球上の30万種以上もの植物のうちごく少数を利用し,またそのうちのごくわずかの種についてだけ,その生長や繁殖についてのまとまった科学的知識を手に入れただけである。現在でも多数の植物の種が人間によって調査研究がされないままに,絶滅させられている。そのなかには,人間にとって重要な有用性を有しているものがあったにちがいない。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「有用植物」の意味・わかりやすい解説

有用植物
ゆうようしょくぶつ

衣食住において人間生活に役だつ植物をいう。もっとも多く利用されるのは食用としてであるが、住居、衣服の原材料や燃料、薬用、観賞用とされるものも数多い。このように人間生活に対して物質的、精神的に役だつ有用植物は数万種にも及ぶといわれる。有用植物は、まず本能的、経験的に野生のものを採集、利用することに始まり、やがて、とくに利用価値の高いものが栽培されるようになった。有用植物の利用法はさまざまであるが、おもなものをあげてみる。括弧(かっこ)内は代表的な植物名。

 〔1〕食用植物(イネ、ダイズなど)、〔2〕香辛料植物(コショウ、トウガラシなど)、〔3〕薬用植物(ケシ、チョウセンニンジンなど)、〔4〕繊維植物(アサ、アマなど)、〔5〕嗜好(しこう)植物(コーヒーノキ、タバコなど)、〔6〕染料植物(アイ、コマツナギなど)、〔7〕住居、家具等の用材(カシ、ヒノキなど)、〔8〕飼料植物(トウモロコシ、サツマイモなど)。このほか、漆器の塗料とされるウルシ、弾性ゴムの原料となるパラゴムノキなども有用植物である。また、観賞用の園芸植物も有用植物といえる。一般に有用植物にあっては、それぞれの種が多目的に利用されることが多い。

[杉山明子]

『高崎四郎他著『有用植物 標準原色図鑑全集13』(1971・保育社)』『田中芳男他編『有用植物図説』(1982・科学書院)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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