日本大百科全書(ニッポニカ)「園芸」の解説
園芸
えんげい
農業の一部門で、園や畑または温室、フレームなどで、生活に必要な果樹、蔬菜(そさい)、花卉(かき)など栽培植物を生産、改良、加工し、さらには装飾の用などにも供するものである。広義にはこれらを総合したものとしての造園(庭づくり、都市づくり)が含まれる。
園芸に関する中国の農書としては『神農本草経集注(しんのうほんぞうきょうしっちゅう)』(502~556)、『新修本草』(659)、『農桑輯要(のうそうしゅうよう)』(1286)、『群芳譜(ぐんほうふ)』(1621)、『農政全書』(1639)、『秘伝花鏡(かきょう)』(1688)などがあり、園芸の源流と思われる字句がみられるのは『群芳譜』(灌園(かんえん)、芸蔬)や『秘伝花鏡』(鋤園(じょえん)、芸圃(げいほ))である。しかし、成語として園芸という語が使われたのは『英華辞典』(1866)が最初と思われる。これは1884年(明治17)に邦訳されている。日本の古い園芸書として著名なのは『花壇綱目』(1665)、『花壇地錦抄(ちきんしょう)』(1695)などであり、江戸時代初期から園芸が盛んであったことがうかがわれる。そのころには樹芸ということばが使われていた。園は垣で囲まれた土地を、芸は栽培・耕うんを意味する。英語ではhorticultureといい、園はラテン語のホルトスhortusが、芸はクルトラcultraが語源である。庭園的な意味ではガーデニングgardeningであるが、これも語源としては囲む意味のギルドgirdから出ている。
[川上幸男]
分類
園芸学は園芸の理論と技術を学ぶ農学の一分科ということができる。園芸学の一般的分類は次のようになる。
[川上幸男]
果樹園芸
果実の生産、利用を目的とし、主として対象となる木本植物の栽培、品種改良を行う。
[川上幸男]
蔬菜園芸
いわゆる野菜であるが、大別して葉を目的とする葉菜、根を目的とする根菜、果実を目的とする果菜に分けられる。これらの主として有用草本植物の栽培、品種改良、利用を行う。
[川上幸男]
加工園芸
農産製造工業の一部門であり、農芸化学の一分野でもある。ジャム、マーマレード、ケチャップなど園芸生産品の加工を行うのが主目的である。
[川上幸男]
造園
園芸の分野だけでは掌握しきれない面があるが、狭義には園芸の一分野といえる。いわゆるガーデニングのことで、園をつくることが目的であるが、近来はランドスケープ・アーキテクチュアlandscape architectureといわれていて、直訳すれば「風景を建築する」ということになり、建築、土木などのほかの科学分野とのかかわりが深く、都市づくり、環境づくりなどの重要な役割をもっている。
以上は学問的分類である。次に栽培形態からみてみよう。
[川上幸男]
生産園芸
営利栽培ともいう。園芸を職業としている人たちが、高度の品質、多収穫、耐病性の優秀品種を選んで能率生産を目的とするもの。消費者に果実、蔬菜、果樹などの食品、花卉、花木、観賞用樹木、観葉植物、地被植物などの装飾品や実用品を、市場を通じて供給する。
[川上幸男]
趣味園芸
家庭園芸がこれで、果樹、蔬菜、花卉や造園を通じて特色ある品種を多角的に集めて栽培し、観賞をおもな目的とする。園芸の発達はこの趣味園芸が大きく力になっていたといえる。とくに江戸時代における武士や町人の趣味園芸が今日のわが国特有の花卉をつくったといっても過言ではない。それらはアサガオ、イワヒバ、ウメ、オモト、カエデ(モミジ)、カンアオイ、キク、サツキ、セキショウ、ツツジ、ツバキ、東洋ラン、ナデシコ、ナンテン、ニホンサクラソウ、ハナショウブ、ハラン、フクジュソウ、フジ、ボケ、ボタン、ユキワリソウなどである。
さらに施設などを使う意味合いでの見方として次のようなものがある。
[川上幸男]
温室園芸
主として熱帯・亜熱帯植物の果樹、蔬菜、花卉を暖室を含めた温室(ガラス、「ファイロン」、ビニル)で栽培するもの。栽培の形態は地植え、床植え、鉢植えなどがある。
[川上幸男]
鉢物園芸
果樹、蔬菜、花卉、造園用樹木、地被植物などを鉢または鉢に準ずる容器で栽培利用する分野。温室、暖室、圃場(ほじょう)の営利分野から趣味園芸の領域に至る広い範囲で栽培される。栽培鉢、装飾鉢の進歩改善、用土の改善から水耕・礫耕(れきこう)材料などの開発も急速に進められている。
[川上幸男]
盆栽
鉢物園芸とは違った意味での特殊な分野で、長い年月を一定の鉢の中で栽培し、独特の美的効果を表すもの。日本や中国での発達が著しいが、近年は欧米各国における栽培熱の向上が目だつ。
[川上幸男]
組織培養
今日では遺伝子工学の進歩発達による組織培養の分野も、専門の営利、生産の範囲のみならず趣味園芸、一般園芸への浸透が活発に行われている。
[川上幸男]
『浅山英一著『原色図譜園芸植物・露地編』(1980・平凡社)』▽『浅山英一著『原色図譜園芸植物・温室編』(1980・平凡社)』▽『鶴島久男著『花卉園芸ハンドブック』(1983・養賢堂)』