早期栽培(読み)そうきさいばい

精選版 日本国語大辞典 「早期栽培」の意味・読み・例文・類語

そうき‐さいばい サウキ‥【早期栽培】

〘名〙 人工的な方法により育苗、植え付けを早め、生育時期を繰り上げる稲の栽培法。風水害・旱害・塩害などをさけるために行なわれる。

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改訂新版 世界大百科事典 「早期栽培」の意味・わかりやすい解説

早期栽培 (そうきさいばい)

主として日本の水稲作にみられる栽培法の一つで,普通期の栽培と比較して1~2ヵ月早く播種し,作期を早めにずらせるものをいう。地域によって差はあるが,播種は3月中・下旬から4月上旬にかけて行い,8月中かおそくも9月上旬には収穫に至る。1950年代の半ばころに始まって西南日本の暖地を中心に普及し,関東地方でも千葉県で広く実施されている。使用される品種はそれぞれの地域の普通期栽培のものとは異なり,穂が早く出る東北地方の品種が用いられる。

 早期栽培は水稲の発育を阻害する次の2要因の影響を軽減する目的をもって実施される。その第1は台風害で,水稲の開花期前後の台風は稔実障害をひき起こし,また登熟期の台風は作物体の倒伏をまねき,いずれも収量に多大の影響をおよぼす。早期栽培は台風の最も頻繁に襲来する9~10月を作期からはずすことにより,その被害を軽微におさえる利点をもっている。第2は夏季の高温時に,土壌中に生成される有害物質の影響である。湛水たんすい)下の水田土壌中では,夏季,地温の上昇にともなって微生物の活動が促進され,著しく発達する還元条件の下で,硫化水素など水稲根に有害な各種の物質が生成される。根腐れを生じた水稲は後期の発育がおさえられ,いわゆる〈秋落ち〉となって収量の低下をまねく。早期栽培は作期を早めにずらせることによって,水稲の生育の大半を高温期前に経過させ,有害物質の阻害程度を軽減するのに役立っている。早期栽培の普及している前記の地域は,いずれも気象的ならびに土壌的に,これら阻害要因の発現しやすい条件下にあり,早期栽培がこれら地域の水稲の収量の向上に寄与したところは大きい。

 早期栽培は春先の寒冷な時期に播種を行うことから,その普及のためには保護苗代の発達が前提となっている。第2次世界大戦後に普及するようになった保温折衷苗代をはじめとして,ビニル資材などを利用した各種の保護苗代は,発根力の強い健全な苗を寒冷時に育成することを可能にし,早期栽培の普及に大きく寄与している。このように早期栽培は各種の難点を解消した注目すべき栽培法であるが,春早くから水田を水稲作のために利用するため,裏作ムギ類の作付けは困難となり,耕地の高度利用という点からみれば問題を残すものである。また盛夏の収穫というきびしい農作業も,問題の一つとされるだろう。

 なお早期栽培と対比していわれる栽培法として晩期栽培がある。普通期栽培に比べて作期を遅らせる方式であり,サンカメイチュウの被害を回避するために行われた熊本県の晩化栽培は,その著名な一例である。一般には病虫害の回避のほかに,前作物との組合せの関係で作期を遅らせる場合が多い。
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