育苗(読み)いくびょう(英語表記)raising of seedling

精選版 日本国語大辞典 「育苗」の意味・読み・例文・類語

いく‐びょう ‥ベウ【育苗】

〘名〙 作物の苗を育てること。

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デジタル大辞泉 「育苗」の意味・読み・例文・類語

いく‐びょう〔‐ベウ〕【育苗】

[名](スル)苗を育てること。

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改訂新版 世界大百科事典 「育苗」の意味・わかりやすい解説

育苗 (いくびょう)
raising of seedling

農林業においてまたは苗木を一定場所に集め,保護・育成することをいう。一般に発芽直後の植物は雨・風などの気象変動に弱く,病気・害虫などの被害も受けやすい。そこで,この時期の植物を集約的に管理し,保護・育成することが農作業上重要な意味をもつ。育苗には作業者が管理しやすく,苗の生育に適した場所を選定し,必要な環境づくりをすることが重要である。育苗の場を苗床苗圃(びようほ)という。水稲では苗代といい,畑作物などでは苗畑ともいう。育苗後の苗は本田・本畑に移植するのが普通である。

育苗には多くの労力,特殊な技術,資材を要するが,つぎのような利点がある。(1)幼植物を気象変動・病害虫から守る。また生育に好適な環境をつくり,作物の生育を促進させる。生育不良な個体,病気にかかった個体などを除去し,生育を斉一にすることによって,移植後の栽培管理を容易にする。(2)苗床・苗圃での育苗中,移植予定の田畑に他の作物を栽培できるので,田畑の利用度を高めることができる。(3)水稲・野菜などの温室育苗,保温苗代による育苗など,直まきに比べ生育時期が早まり,生育期間が長くなるため,収穫時期の促進や収量の向上に有効である。(4)栄養繁殖植物では,サツマイモの塊根からの萌芽促進,イチゴの匍匐(ほふく)枝(ランナー)の生長促進,イグサの分げつ促進など,個体数の増加に有効である。また果樹,花木の挿木の発根促進・定着に有利である。

最近,種まき機,土つめ機,灌水器具,暖房器具などの開発に伴い,育苗の省力・機械化が急速に進みつつある。とくに水稲や一部の野菜では,育苗用機械を配備した育苗施設によって,大量育苗が行われ集団育苗が多くなってきている。育苗施設は作業室,催芽室,ガラス温室によって構成されているのが普通である。作業室では育苗箱・ポットへの土つめ・播種(はしゆ)作業を行い,催芽室では出芽までの管理,ガラス温室では出芽以後の育苗を行う。育苗資材の開発も育苗の機械化とともに急速に進んできた。ビニルなどの保温資材,各種の育苗箱(枠),育苗ポット,土に代わる苗床資材などである。施設育苗の普及によって,育苗は個別農家の手をはなれ,農協や一部の農家が請け負うというケースが多くなってきた。このように大量の苗が集団育苗されるためには,品種・作期などの統一が前提となる。このため,単に育苗だけにとどまらず,稲作・野菜作などの全作業(施肥・移植・水管理・病害虫防除・収穫など)を地域内で統一的かつ集団的に行うことが可能となり,集団栽培・集団生産組織の普及のきっかけとなった。

水稲は最も古くから移植栽培が行われていた作物で,育苗の歴史もまた長い。明治以前には農家の庭先などに場所を固定し,落葉などを通年施用した〈通し苗代〉で育苗した。明治後期以降は水田または畑に短冊型のまき床を作る短冊苗代で育苗してきた。昭和40年代の田植機の開発は育苗箱を利用した室内育苗と結びついたものである。機械移植時の苗を苗の大きさによって稚苗(本葉2~3枚,育苗日数15~20日),中苗(本葉3~4枚,育苗日数20~30日),成苗(本葉4枚以上,育苗日数30日以上)という。

ナス,ウリ類,ネギなどの野菜類は江戸時代から露地育苗が行われていた。また早出しのために障子を苗床にかけた温床育苗のはしりの記録もある。明治時代になると促成栽培がさかんになり,温床育苗が普及した。昭和30年代以降,ビニルフィルムなど各種の育苗資材が開発されるに及び,電熱利用による床温調節,人工光による補光育苗,炭酸ガス施用育苗,各種の鉢育苗が普及してきた。また土を用いず,苗を培養液によって育苗する養液育苗もメロン,トマト,キュウリ,スイカなどで普及している。
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普通には実生苗が使われるが,スギ,ヒノキ,ヒバ,一部の広葉樹では挿木苗も使われる。林業用苗木の育成における最も特徴的な作業は床替えである。実生苗の場合には播きつけの,挿木苗の場合には挿しつけの翌年の春に,苗木を掘りあげ根を切りつめて別の苗床に間隔を広げて植えかえる作業で,根の発達をよくするとともに,枝をよく張ったじょうぶな苗木を育てることが目的である。樹種の特性や育て方によっては床替えを行わないで山出し(林地に植えつける)することもあり,また同じ苗床に2年またはそれ以上据えおくこともある。同じ苗床においたまま機械などで根切りを行い,床替えに代える技術も普及している。日本では苗床で育てた苗木がほとんどであるが,きびしい気象条件下での山出しのため,また規格の揃った苗木の量産化をはかるため,ポリエチレン,ビニル,ピートなどのポットで苗木を育てる方式もある。また一部の広葉樹(代表的なのはチーク)では,苗床で育てた苗木の幹,根をそれぞれ5~10cm,10~20cmに切りつめた根株苗として植える方式も定着している。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「育苗」の意味・わかりやすい解説

育苗
いくびょう

苗を育てること。苗は、畑や水田などに移植することを前提とした作物の幼植物のことで、比較的高い密度で、集約的に育成される。作物の幼植物は、気象や雑草、病気などの環境の影響を受けやすいので、田畑に直接種子を播(ま)いて栽培するよりも、育苗し、ある程度大きくしてから移植したほうが有利な場合が多い。また、田畑に他の作物が栽培されている時点から育苗を始め、収穫後すぐに移植すれば、土地の有効利用もできる。さらに、保温や加温をして早くから育苗を始め、外で生育できる気温になった時点で苗を移植すれば、早期の収穫が可能となる。

 育苗の方法は作物の種類によって異なるが、歴史は古く、稲作の場合、奈良時代には苗を育て、田植をする技術が一般化していた。現在では、田植機の普及や田植作業の変化に伴い、育苗器を使っての箱育苗が中心となっている。箱育苗で稚苗(ちびょう)育苗の場合、1箱(30×60×3センチメートル)当り7000個体という高い密度の育苗が可能である。果樹では挿木(さしき)や接木(つぎき)によって苗を育てることが多く、またスイカ、カボチャなど果菜類でも接木で苗を育てる技術が発達し、普及してきている。

[星川清親]

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