新設学部の動向(読み)しんせつがくぶのどうこう

大学事典 「新設学部の動向」の解説

新設学部の動向
しんせつがくぶのどうこう

学部は大学の最も基本的な組織単位の一つであり,とくに日本では教育や研究の単位としても,教員の所属単位としても大きな重要性をもってきた。したがって学部設置の動向は,大学の変化をみることと少なからず重なるといってよい。以下では日本の大学学部の設置状況を歴史的に概観する。

[旧学制期の学部]

1877年(明治10)に日本最初の近代的大学として東京大学が創設された際に置かれたのは文,理,法,医の4学部である。1886年の帝国大学発足とともに工科大学(以後学部に相当するものは分科大学となる)が加わり,1890年には農科大学も設置される。以後ほぼ30年間にわたって,分科大学の種類はこれら6種に限られた(ただし,京都帝国大学に理工科大学が一時存在した)。大正期には大学令(1919年施行)により,分科大学はふたたび学部へと名称が変更され,その種類に経済と商が加わって「法学医学工学文学理学,農学,経済学及商学」の8種類となり,さらに「特別ノ必要」がある場合に「前項ノ学部ヲ分合シテ学部ヲ設クルコトヲ得」ることが明記された。旧学制期末期の1948年(昭和23)に「分合」学部は法文,文理,政治経済,理工の4種類であった(それ以前には法経,商経,経商といった学部も一時存在した)。このように旧学制期に学部の種類は増加傾向にあったとはいえ,せいぜい十数種類にとどまり,基本的にはオーソドックスな学問分野を基盤とした学部に限定された時代であった。

[新学制期の学部―1970年代まで]

新制大学の発足とともに若干状況が変わってくる。大学基準協会による大学基準(1947年)では,大学令と同じく8種類の学部が例示されるとともに,「その他学部として適当な規模内容があると認められたもの」も加えられ,さらに従来と同じくそれらの学部の「分合」もあり得るとされた。新学制期に入った直後の1950年においてすでに,「その他」の学部として「歯」「学芸」「教育」「外国語」「商船」「経営」「鉱山」「電気通信」「薬」「園芸」「獣医」「水産」「芸術」「美術」「音楽」「家政」「社会」「体育」「神」「仏教」「教養」といった多数の新しい種類の学部が設立され,その数は合計で50種に達していた。この背景には,多様な専門分野をもつ専門学校レベルの旧制高等教育機関が新制大学化され,そのために旧学制期には認められなかったさまざまな学部が一挙に設立されたという事情が働いている。その後,1956年の大学設置基準で,学部の例示に「歯学」が加わる。以後,1991年(平成3)の大学設置基準改定で学部種類の例示が削除されるまで,その内容は変わらなかった。

 1950年代は,引き続き新制大学の設立が続く中で学部数は増加したが,学部の種類はほとんど増えていない。福祉系学部がこの時期に初めて登場するが,当時はまだ広がりをもたなかった。1960年代は大学の大拡張時代となり,学部数の増加は著しいが,学部の種類は50年代に続いてあまり増えず,理工系拡充策を受けての工学部や,文や経済などの旧学制期以来の伝統的学部の新設が大半を占めた。1970年代はその半ばから始まる大学規模の抑制政策によって,設立される学部数の増加にブレーキがかかった。この時期に目立ったのは,「無医大県解消政策」(一県一医大政策)による医学部設置などの医歯薬系の学部新設である。他方,学部の種類は以前の時期よりも増加傾向を見せた。とくに国立の新構想大学(筑波大学など)での新学部・学群設置や教養部改組による学部設置などがなされたからである。そしてまだ少数とはいえ,国際・環境・情報を冠する学際学部も私立大学を中心に登場し始めた。

[1980年代以降]

1980年代前半は70年代の延長にあったが,後半には18歳人口増への対応のため規模の抑制から拡張へと政策が転換され,学部新設がふたたび活発になり,学部の種類も増え始める。その特徴は前述した学際学部の増加であった。この傾向がさらに顕著に現れるのは続く1990年代以降である。前掲の国際・環境・情報のみならず,生活・文化・総合・人間・政策といった語を用いた学部が大きく増加し,医療・福祉分野の学部も増え始めた。いわゆる大学設置基準の大綱化(日本)(1991年)に伴って,前述のように学部の例示が削除される。同時期から学部名称の種類はさらに急激に増加し始めた。1990年代のみで,その種類は2.5倍も増え,その勢いは2000年代も変わらない。学部名称と伝統的学問分野との距離は決定的に大きなものとなっていった。

 1992年(平成4)以降の18歳人口減少期(日本)においては,原則的には学部の新増設は抑制されるはずであった。しかし情報,社会福祉,医療技術などの分野は人材ニーズが高いとされ,例外扱いとなった。加えて18歳人口増加への対応として時限的に認められた定員増が,私立大学関係者の強い要請を受け,私立大学ではその半数まで恒常定員化できることが認められた。さらに総合規制改革会議答申(日本)(2001年)などの規制緩和策を受け,2003年に新増設の抑制政策は一部の例外分野(医師,歯科医師,獣医師,教員,船舶職員)を除いて撤廃され,また学問分野を大きく変更しない学部等の設置が認可制から届出制に変更され,さらに設置審査の簡素化・準則化もなされることになる。2006年度開設分からは教員養成学部の抑制も撤廃された。このように学部設置を大きく後押しする諸政策によって,2000年代半ばまで学部設置がきわめて活発になされた。しかしその後は,新たに抑制の撤廃がなされた教員養成やスポーツに関わる学部新設が目立つとはいえ,今後さらに進展する18歳人口減を見越してか,また政府がいったん緩めた規制をふたたび強める傾向をみせつつあることも影響してか,全体としての新設数は減少傾向にある。
著者: 伊藤彰浩

参考文献: 大川一毅「1989年以降の日本における大学学部の新増設動向について」『早稲田大学人間科学研究』第8巻第1号,1996.

参考文献: 大川一毅「大衆化過程における学部設置動向」,天野郁夫・吉本圭一編『学習社会におけるマス高等教育の構造と機能に関する研究』放送教育開発センター研究報告91,1996.

参考文献: 黒羽亮一『大学政策 改革への軌跡』玉川大学出版部,2002.

参考文献: 寺裏誠司「全国・大都市圏・ローカル別20年間のマーケット・トレンドと学部・学科開発」『カレッジマネジメント』179号,2013.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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