形無(読み)かたなし

精選版 日本国語大辞典 「形無」の意味・読み・例文・類語

かた‐なし【形無】

〘名〙 (形動)
本来の姿が、そこなわれてしまって、あとに残らないこと。また、そのさま。形跡もないこと。あとかたなし。
当世書生気質(1885‐86)〈坪内逍遙〉二「小倉の袴の膝のあたり白やかになりて、ひだの形(カタ)なしになりたるを」
② そのもの本来の価値がそこなわれること。また、そのためにみじめな状態になること。さんざんなこと。面目を失うこと。また、そのさま。
※河霧(1898)〈国木田独歩〉「必ず多少の成功はあるべく、以前のやうな形(カタ)なしの失敗はあるまいと」
③ そのものの持っていた効果が発揮されないままになってしまうこと。むだになること。かいがなくなること。また、そのさま。
※二人女房(1891‐92)〈尾崎紅葉〉四「いくら大事にしても寝たら形(カタ)なしさ」
夜行巡査(1895)〈泉鏡花〉三「お前にわけもなく断念(あきら)めて貰った日にゃあ、吾が志も水の泡さ、形(カタ)なしになる」
④ (「かた」は魚形のことをいう) 釣りで、全然釣れないで終わることをいう。形見ず。
仮名草子仁勢物語(1639‐40頃)上「をかし、男、銭撰りける女に云へりけり。うしろめたくや思ひけん、我ならで異銭撰るなかたなしやころか欠取らぬ法度なりとも」

かた‐な・し【形無】

〘形ク〙
① 本来あるべき形や価値がない。
(イ) 姿かたち、容貌がみにくい。きたない。
書紀(720)景行四年二月(北野本訓)「形姿(かをすがた)穢陋(カタナシ)
(ロ) 身分気持などが劣っている。いやしい。
※大唐西域記長寛元年点(1163)七「我が身卑く劣(カタナク)して」
② そのもの本来の姿や価値が、そこなわれてしまってあとに残らない。あとかたもない。また、効果がない。むだである。
※続詞花(1165頃)物名「大垣はさねばかりこそ残りけれ方なしとてもいへはあらじな〈心也〉」

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