仁勢物語(読み)ニセモノガタリ

デジタル大辞泉 「仁勢物語」の意味・読み・例文・類語

にせものがたり【仁勢物語】

仮名草子。2巻。作者未詳。寛永17年(1640)ごろ成立伊勢物語をもじって、当時の世相風俗を滑稽に描いた。

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精選版 日本国語大辞典 「仁勢物語」の意味・読み・例文・類語

にせものがたり【仁勢物語】

仮名草子。二巻二冊。作者未詳。寛永一六~一七年(一六三九‐四〇)頃成立。流布本伊勢物語」の一二五段を逐語的にもじった作品。王朝的な雅の世界を、近世初頭の世相・風俗をとり入れつつ俗な世界に転換して、滑稽を生み出している。近世における「伊勢物語」のパロディーとして先駆的なもの。

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改訂新版 世界大百科事典 「仁勢物語」の意味・わかりやすい解説

仁勢物語 (にせものがたり)

仮名草子。作者不明。寛永年間(1624-44)の刊行。2巻。《伊勢物語》を逐語的にもじった小説で,《伊勢物語》を滑稽化している。たとえば〈むかし男ありけり〉を〈をかし男ありけり〉,〈かきつばた〉を〈かきつへた〉というふうにもじり,新しい近世の風俗を取り入れて,卑俗な滑稽文学に仕立てたものである。古典をもじるという基盤には,当時《伊勢物語》など古典の流行があったのであり,これを近世化することで近世文学創始をはかったとも言うことができる。これをきっかけに《枕草子》《徒然草》《源氏物語》などをもじった文学が現れ,柳亭種彦の《偐紫(にせむらさき)田舎源氏》にも及んでいる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「仁勢物語」の意味・わかりやすい解説

仁勢物語
にせものがたり

仮名草子。作者不詳。上下二巻。1638年(寛永15)から1640年までの成立刊行。書名の「仁勢」(似せ)が示すように流布本『伊勢(いせ)物語』125段のことごとくを逐語的にもじったパロディーである。雅語を俗語に置き換えたり、古典の世界を当時の世相、風俗に絡ませたりするなど、卑俗化することによって滑稽(こっけい)をねらっている。近世古典享受の一面であり、近世人の知性と感覚、機知諧謔(かいぎゃく)の精神を示したものといえる。広く読まれ、後続の擬物語の系譜に多大な影響を与えた。

[坂巻甲太]

『市古貞次・野間光辰編『鑑賞日本古典文学26 御伽草子・仮名草子』(1976・角川書店)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「仁勢物語」の意味・わかりやすい解説

仁勢物語
にせものがたり

仮名草子。作者未詳。烏丸光広の作とも伝えられるが疑わしい。2巻。寛永年間 (1624~44) 刊。書名は『伊勢物語』のもじりで,にせ (偽) の意をも含んでいる。「むかし男」を「をかし男」に変えるなど『伊勢物語』の本文をもじり,当代化した戯文。『枕草子』をもじった『尤草紙 (もっとものそうし) 』や『犬枕』,『徒然草 (つれづれぐさ) 』をもじった『犬つれづれ』など,江戸時代前期に多く出た擬古典物の一つ。

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