居住制限法(読み)きょじゅうせいげんほう(英語表記)Law of Settlement and Removal

改訂新版 世界大百科事典 「居住制限法」の意味・わかりやすい解説

居住制限法 (きょじゅうせいげんほう)
Law of Settlement and Removal

居住地法,定住法,居住法とも訳されている。イギリスおよびアメリカの救貧法史上に現れた立法で,イギリスにおける1662年法以降の一連の法律が有名である。この立法の背景には,すべての住民は法的にいずれかの教区に所属し,住民は教区に対して各種の義務を負うが,災害貧困という事態に際しては所属する教区からの保護を期待しうるという伝統的な考え方がある。このような教区と住民との関係を維持するために,教区に貢献していないにもかかわらず救済を必要とする貧民や,救済対象となる可能性のある労働者の移動に法的な制限を設け,各教区に新しい移住者を拒否する権限を付与したのが,この一連の立法である。この法は18世紀後半の経済自由主義の発展期まで機能しつづけた。自由主義経済の使徒アダム・スミスは,居住制限法は自然的自由と正義に対する明らかな侵害であり,この法によって自由な労働市場の形成が妨げられたと批判した。このような批判にもかかわらず,この法が維持されつづけたのは,救貧税の増大と貧民の増加に反対する中産階級と各教区とが示した自己中心的な態度と,本法が地主や借地農家に対しては農業労働力を自己の教区に引き止めるという利益をもたらしていたことによる。イギリスにおいては,全人口の90%に影響を及ぼしたとされる居住制限法も,実際にはすべての地域で実施されたわけではない。多くの労働力を必要としていた新興工業都市では,貧民の移住には寛大であった。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報