外国人労働者
がいこくじんろうどうしゃ
自国以外で就労する人。移住労働者、移民労働者とよばれることもある。外国人労働者は大きく合法就労者と不法就労者とに分けられる。合法就労者とは、入国時に必要な身分や就労範囲を示す就労ビザ(在留資格)を得た人である。日本の合法就労者は、永住者や日本人の配偶者などの「身分に基づく在留資格」、大学教授や医師などの「専門的・技術分野」、途上国への技術協力を目的とした「技能実習」、外交官のコックなどの「特定活動」、留学生が学業の妨げにならない範囲でアルバイトなどを行う「資格外活動」、の五つに分類される。「身分に基づく在留資格」があれば、業種にかかわりなく、報酬を受ける労働につくことができる。一般に「専門的・技術分野」「技能実習」「特定活動」は就労範囲が限られている。不法就労者は、密入国者などの不法入国者のほか、在留資格で定められた範囲以外の仕事につく者が該当する。日本政府は単純労働を対象とした在留資格はないと説明しているが、技能実習や留学などの資格で未熟練労働に従事する外国人が多数存在するのが実態である。日本の合法就労者数(2018年10月末時点)は約146万人で、法務省が確認できた不法就労者が約6万6500人(2018年1月1日時点)いる。日本政府は「特定技能」という在留資格を新設し、2019年から5年間で、さらに約34万人の合法的就労者を受け入れる計画である。
外国人労働者が生まれる要因として、国・地域間での経済格差、人口増加と減少地域の偏在、高所得国での単純・危険労働の忌避傾向などがあげられる。外国人労働者には、労働力不足を補い、低賃金により労働コストを圧縮できるほか、専門知識・技術をもった外国人(高度人材)の受入れで生産性が向上するといった利点がある。一方、外国人労働者の受入れは、治安の悪化、不法低賃金労働の発生、言語・慣習の違いによる文化摩擦などを招くほか、外国人労働者の家族を含めた社会保障・教育対策が必要になるなどの問題もある。このため第二次世界大戦後の日本は「出入国管理及び難民認定法」(昭和26年政令第319号、略称「入管法」「入管難民法」)で、外国人の就労を専門的・技術的能力や外国人固有の能力に着目した人材登用のみに限定し、単純労働に従事することを厳格に排除してきた。
しかし近年、グローバル化の進展のほか、バブル景気や日本の人口減少による人手不足に対応するため、外国人に就労の門戸が徐々に開放されている。1989年(平成1)改正で、在留資格に医療、教育、法律などを加えて受入れを拡大し、ブラジルなどの日系人が単純労働に従事することを認めた。2009年(平成21)改正では、外国人登録制度を廃止し外国人への在留カード交付を始めた。2012年改正では、高度専門職を対象に高度人材ポイント制度を導入し、学歴や年収などに応じて一定以上のポイントを取得した者に永住権を認めるなどの優遇措置を設けた。2018年改正では、外国人就労者を「特定技能1号」として農業、漁業、建設業、造船・舶用工業、介護、飲食料品製造、外食、宿泊業など14業種へ、「特定技能2号」として建設業と造船・舶用工業の2業種への受入れを想定している。
[矢野 武 2019年6月18日]
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「外国人労働者」の意味・わかりやすい解説
外国人労働者【がいこくじんろうどうしゃ】
国境を越えて就労する労働者。出稼ぎ労働者や季節移民労働者も含むが,移住先に定住して定住外国人(英語でデニズンdenizen)となる場合も多く,これは移民労働者と同義である。外国人労働者は出身国と受入れ国の双方から統制を受ける。1950年代半ばからの西ドイツにおけるガストアルバイター(1973年まで)や中東産油国への周辺国からの労働力移動のように〈契約労働者〉の類型もあるが,やがて家族呼び寄せから定住化へ移行することが多い。西欧諸国は不況のため外国人労働者受入れを中止したが,その状況下で〈非合法労働者〉(いわゆる不法就労者)が増加しており,またメキシコから米国へ越境入国する〈ブラセロ〉の多くは非合法である。日本では1980年代後半から外国人労働者が増えており,政府は〈出入国管理および難民認定法〉の改正法施行(1990年)により,〈単純労働〉については従来どおり外国人の入国・滞在を不許可とし,雇用主罰則規定が新設されたが,現実には数十万人の不法就労者がいる。その後1997年12月の閣議決定でも〈専門的,技術的分野の労働者は可能な限り受け入れることとするがいわゆる単純労働者の受け入れについては…十分慎重に対応する〉姿勢をとっているが,2000年3月に法務省は第2次出入国管理基本計画(第1次は1992年)で,少子・高齢化の進行など社会構造の変化を踏まえ,〈積極的に社会のニーズに応じた円滑な受入れを図っていく必要〉を提示している。現代の先進諸国は大量の定住外国人を擁しており,外国人参政権や市民権の問題が課題となる一方,外国人排斥を叫ぶ右翼的政党が各国で台頭している(フランスの国民戦線(1972年結成)やドイツ共和党(1983年結成)など)。
→関連項目移民|日本
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外国人労働者
がいこくじんろうどうしゃ
foreign worker
一般には外国籍を持つ労働者のことをいう。日本企業の活動の国際化に伴い,日本に入国・在留する外国人労働者の増加傾向が見られ,1989年の就業目的を持った新規入国外国人は7万 1978人であった。これら外国人労働者について第6次雇用対策基本計画では,「いわゆる単純労働者の受け入れについては,日本の経済や社会に及ぼす影響等にもかんがみ,十分慎重に対応する」一方,「専門的・技術的な能力や外国人ならではの能力に着目した人材の登用は,日本の経済社会の活性化・国際化に資するものでもあるので,受け入れの範囲や基準を明確化しつつ可能なかぎり受け入れる方向で対処する」としている。 90年6月には,在留資格の整備,在留資格認定証明書制度の導入など入国審査手続きの簡易・迅速化,また雇用主に対する罰則規定を設けるという不法就労外国人対策を内容とした出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律が施行された。
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外国人労働者
経済のグローバル化、各国からの労働市場の解放要求などを背景に、日本で働く外国人労働者の数は年々増え続けています。一方で、日本語や日本の労働慣行に習熟していないことなどから、その就労にあたってさまざまなトラブルも生じています。事業主には外国人労働者に対する適切な雇用管理が求められます。
(2005/3/7掲載)
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がいこくじんろうどうしゃ【外国人労働者】
もっぱら高賃金の取得という経済的理由にもとづき国外から移住してきた出稼労働者をその受入国で呼ぶ名称。滞在は短期であることが原則で,滞在が恒久的であり,究極的には国籍の変更を伴う移民とは,いちおう区別される。また政治的理由により移住する難民や亡命者とも異なる。農業労働のように繁忙期にごく短期間,移入し雇用される季節労働者や国外に居住し日々,国境を越えて通勤するいわゆる国境労働者Grenzgängerもこれに含まれるが,量的に多くかつ近年重要なものは,当該国に移住し,1年以上にわたって常用される外国人の場合である。
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知恵蔵
「外国人労働者」の解説
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世界大百科事典内の外国人労働者の言及
【移住労働者の権利条約】より
…〈すべての移住労働者とその家族の権利保護に関する条約International Convention on the Protection of the Rights of All Migrant Workers and Their Families〉の通称。国連人権委員会は,外国人労働者の権利保護を1970年代後半から行うようになり,1985年に〈外国人市民の権利宣言〉を制定し,次いで90年12月18日に国連総会でコンセンサス方式により,この条約が採択された。 条約は,人権を(1)人間であれば誰にでも保障される権利,(2)正規の在留・就労資格の保持者の権利,(3)特別の就労許可を得ている者の権利に分類して,広く保障した。…
【国際労働力移動】より
…(3)しかし,資本主義世界経済の発展過程でかなり普遍的にみられるのは,すでに農村人口比率が低下している中枢部諸国で経済成長の速度が高まったとき,労働力不足が生じ,外国から労働力を導入するというタイプである。とりわけ,第2次大戦後の国際労働力移動のなかで主流を占めてきたのはこの第3類型であり,西欧諸国,アメリカ合衆国,そしてかなり遅れて日本においてみられた外国人労働者の大量流入は,これに属するといってよい。もっとも,労働力不足といっても,それはすべての産業部門で均等に生ずるものではなく,特定の,本国人労働者によっては満たされないような就業分野(日本で〈3K職種〉と呼ばれているような分野)に集中して現れるのであり,こうしたところに不熟練・低賃金労働力として外国人労働者が導入されるのである。…
※「外国人労働者」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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