回虫症(読み)かいちゅうしょう(英語表記)Ascariasis

六訂版 家庭医学大全科 「回虫症」の解説

回虫症
かいちゅうしょう
Ascariasis
(感染症)

どんな感染症か

 回虫は、もともと世界中どこにでもいる虫で、日本でも年齢や性別、住んでいる場所に関係なく感染することがあります。感染は、食べ物といっしょに回虫の卵を飲み込んで起こります。

 卵は小腸孵化(ふか)し、出てきた幼虫は腸の粘膜にもぐり込んで、血液やリンパ液の流れに乗って肝臓、そして肺にたどり着きます。そこから気管をさかのぼって今度は小腸におりてきて、そこで成熟します。

 感染してから2~3カ月で、便のなかに卵が排出されます。十分に成熟した成虫は長さが20~30㎝、太さが0.5㎝ほどで、メスのほうが大きくなります。寿命は1~2年です。

症状の現れ方

 回虫は、線虫類のなかでは巨大といってもいい大きさですが、小腸のなかでおとなしくしているうちはあまり症状はありません。ただし時々、胆管膵管のなかに入り込むことがあり、この時は突然の激しい腹痛に襲われます。

 また、何の症状もなかったのに、突然、口から回虫を吐き出したり、お尻から回虫が出てくることもあります。

検査と診断

 胃や十二指腸の内視鏡検査で偶然、回虫を発見することが多くなっています。虫を吐き出したり肛門から排出した時は、虫の形態で回虫と診断します。胃や腸のなかから、うっすらと紅い乳白色でミミズのような大きな虫が出てきた時には、まず回虫と考えて間違いありません。

 また、健康診断などの血液検査で偶然、好酸球(こうさんきゅう)という白血球が増えていることがわかった時には、抗体と便の検査を行います。ただし、最近は回虫が1匹だけという例が増えており、検便しても卵を検出できないことが多くなっています。

治療の方法

 内視鏡で虫をつまみ出したら、それで診断と治療を兼ねることになりますが、基本的に駆虫薬(くちゅうやく)(コンバントリン)の内服で治ります。

病気に気づいたらどうする

 回虫卵は便とともに排出されても、すぐには感染能力がありません。卵は暖かく湿った環境で2~4週間かけて、感染可能なまでに成熟します。ヒトからヒトへ直接伝染することはないので、排泄物の処理などに気を使う必要はありません。

 ただし、同じ食事をしている人は、同様に感染している可能性があります。同居の家族も内科を受診し、血液や便を検査して感染の有無を確かめることが必要です。

丸山 治彦

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「回虫症」の解説

回虫症(線虫症)

 回虫(Ascaris lumbricoides)は人糞を肥料として使用している地域に分布している.世界では10億人以上が感染していると推定され,日本でも以前は国民の80%以上が感染していたが,現在では非常にまれである.
 成虫は15~35 cmと大型で,消化管内で1~2年間生存する.虫卵はヒトの糞便とともに排泄され,ヒトに経口摂取される.虫卵は肺を経て消化管に至る.成虫の大部分は十二指腸に存在するが,ほかの消化管やまれに消化管以外の臓器に移動する場合もある.患者あたり数百の虫体が存在し,雌は毎日20万個の虫卵を産生する.
 回虫症は基本的には無症状であるが,以下の症状を伴う場合がある.①Löffler症候群は幼虫が肺組織内に存在する過程で発症する.症状は乾性咳,血痰,瘙痒感,発熱,肺雑音,喘息症状を伴うが,胸部X線では変化はなく,症状は5~10日で消失する.②腹部違和感,悪心,下痢など非特異的な症状が認められ,多量の虫体は消化管閉塞の原因となる.③成虫は肝・胆・膵,口腔,鼻腔,涙管,臍,鼠径管などに迷入して症状を発症する.④低栄養・成長障害との関連が指摘されている.
 診断の基本は便の虫卵検査である.受精卵楕円形で長径50~70 μm,金平糖のような凹凸を示す.また排泄された虫体で診断されることも多い.
 治療では下記薬剤が選択され,90%以上の治療効果が期待されるが,内視鏡的摘出術や外科的処置の併用が必要となる場合もある.薬剤は虫卵には無効であり便検査での虫卵消失の確認が必要である.①パモ酸ピランテル10 mg/kg(単回服用).保険適応有.②メベンダゾール200 mg(分2)3日間.保険適応外.
 感染は経口感染(虫卵で汚染された土壌や野菜を介して)である.日本では有機農法作物,開発途上国での長期滞在などがリスクとなる.[立川夏夫]
■文献
Farid Z, Patwardhan VN, et al: Parasitism and anemia. Am J Clin Nutr, 22: 498-503, 1969.
Stolk WA, de Vlas SJ, et al: Anti-Wolbachia treatment for lymphatic filariasis. Lancet, 365: 2067, 2005.

回虫症(胆道寄生虫症)

(1)回虫症【⇨4-16-1)】
病態生理
 経口摂取された回虫幼虫包蔵卵は,消化管で幼虫となり,小腸壁を貫通し,小静脈やリンパ管を経て心肺に至り,再び小腸に到達して成虫となる.総胆管や肝管への迷入が多いが,胆囊や膵管へ迷入することもある.
臨床症状
 胆道炎症状(発熱,腹痛,悪心・嘔吐など)を呈する.成虫の胆管内移動により胆管閉塞機転に伴う反復性腹痛を呈することがある.黄疸を呈することは少ない.
診断
 検便による虫卵の確認を行う(迷入例では確認不能).腹部超音波により胆道内の音響陰影を伴わない索状エコー像や無エコーの内管を有する2本の線状エコー像(inner tube sign)(図9-26-1),横断像では周囲高エコーで内部低エコーを示す輪状エコー像(bull’s eye echo)がみられ,運動性が確認されれば確実に診断できる.内視鏡的逆行性胆管造影検査(ERC)では虫体が透亮像として認識される.
経過・予後
 胆道内に迷入した成虫は数日以内に死亡し,吸収される.雌の寄生の場合は虫卵のみが残存し,肝臓に異物肉芽反応を伴う膿瘍を形成することがある.
治療・予防
 虫体を把持し,内視鏡的摘除術を行う.ウログラフィンの刺激により回避行動をとり,自然排泄されることもある.[河上 洋]
■文献
生田修三,水口泰宏,他:駆虫剤の経皮経肝的胆囊内注入が有用であった胆囊内回虫迷入症の1例.日消誌,107: 768-774,2010.
大前比呂思,千種雄一:肝外胆道寄生虫症.別冊日本臨牀 肝胆道系症候群(Ⅲ 肝外胆道編),第2版(井廻道夫,他編集),pp489-496,日本臨牀社,東京,2011.所 正治:寄生虫性肝胆系疾患.肝胆膵,57: 565-570,2008.

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家庭医学館 「回虫症」の解説

かいちゅうしょう【回虫症 Ascariasis】

[どんな病気か]
 野菜などの食品についている回虫の卵(感染型成熟卵)を摂取することでおこります。温暖地域に多くみられます。
 日本でも昔は非常に多い病気でしたが、近年は少なくなりました。しかし最近、有機栽培(ゆうきさいばい)野菜や輸入野菜の増加で、増える傾向がみられます。
[症状]
 主症状は上腹部の鈍痛(どんつう)です。感染初期には、幼虫による一過性の肺炎がおこります。そのほか、胃けいれんのような症状や、回虫が胆嚢(たんのう)、脳、虫垂(ちゅうすい)などへ迷入することによってさまざまな症状があります。
 糞便(ふんべん)検査で虫卵(ちゅうらん)が見つかることで診断がつきます。
[治療]
 パモ酸ピランテルを1回内服すれば治ります。ほかにチアベンダゾールなども用いられます。
[予防]
 し尿肥料で栽培した野菜などを生(なま)で食べるときは、流水でよく洗うことです。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「回虫症」の意味・わかりやすい解説

回虫症
かいちゅうしょう
ascariasis

腸内に回虫が寄生した状態をいう。最も多い症状は腹痛で,そのほか倦怠感,貧血,食欲不振,吐き気,異味症などが起る。糞便中の虫卵を検出し,サントニン,カイニン酸などで駆虫する。糞便を肥料として用いたり,地表に放置するところで多発するが,日本では近年,下水道の普及と人糞処理の合理化によって,ほとんど姿を消した。

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世界大百科事典(旧版)内の回虫症の言及

【カイチュウ(回虫)】より

…不受精卵には幼虫が形成されない。
[回虫症]
 カイチュウがヒトに感染した場合,幼虫が肺に侵入することにより回虫性肺炎をおこすことがある。とくに一時に多数の虫卵が摂取されると,感染後3日目ころから発熱し,しだいに高熱となり,頭痛,咳,痰,呼吸困難などの症状が出る。…

※「回虫症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」