感染(読み)かんせん(英語表記)infection

翻訳|infection

精選版 日本国語大辞典 「感染」の意味・読み・例文・類語

かん‐せん【感染】

〘名〙
① 病原体が、体内に侵入すること。病気がうつること。伝染。〔医語類聚(1872)〕
② 他のものの風習にそまること。他人の考えなどの影響をうけて、それにそまること。
※偽悪醜日本人(1891)〈三宅雪嶺〉悪「効果ある商賈の徒と好で交を結び、自から其の風に感染せらるるを致せり」
[語誌]①は近代、中国で漢方をはじめ英華辞書類や西洋医学の漢訳書で使用され、日本でも明治以降用いられて現代に至っている。

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デジタル大辞泉 「感染」の意味・読み・例文・類語

かん‐せん【感染】

[名](スル)
病原体が体内に侵入すること。特に、そのために種々の病態が起こること。「結核に感染する」「新型ウイルスが人に感染する仕組みを解明する」
影響を受け、それに染まること。「過激な思想に感染する」
コンピューターシステムに不具合を起こすコンピューターウイルスが、ファイルに組み込まれること。
[類語]伝染

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改訂新版 世界大百科事典 「感染」の意味・わかりやすい解説

感染 (かんせん)
infection

病原微生物がヒト,動物,植物の組織や体液に侵入し,あるいは表面に定着して増殖する状態になるのを感染という。微生物が体内に入っても,すぐに死滅してしまったり,素通りしてしまう場合は感染とはいわない。感染の結果,生体が全身性あるいは局所性に異常を生じてくることを発病といい,その病的状態を感染症infectious diseaseと呼ぶ。感染が成立しても,まったく病的状態が起こらないで,健康にみえる場合を無症状感染あるいは不顕性感染といい,症状をあらわす場合を顕性感染と呼ぶ。病原微生物を大別すれば,真菌,細菌,スピロヘータ,マイコプラズマ,リケッチアクラミディア,ウイルスとなり,最も大きいものは原虫である。微生物のほうから感染の目的をみると,生体に感染して疾病を起こし,あるいは生体の生命を奪うことが目的なのではなく,微生物の種の保存のために増殖しているといえる。したがって,これらには,宿主となる各種属に対して病原性があるもの,あっても弱いもの,病原性がないものなど,種特異性がある。また,元来は他の動物の病気の病原体で,たまたまヒトが感染して病気になるという人獣共通感染症(例,オウム病,トキソプラズマ症日本脳炎など)もある。病原微生物の多くは生体に侵入し増殖して直接に疾病を引き起こすが,なかにはジフテリアや破傷風のように,病原菌は侵入個所にとどまって,菌の増殖の結果,放出する菌体外毒素が体内をめぐって筋や神経を障害し疾病を引き起こすものもある。また,生体がある病原体に初めて感染する場合を初感染,同一病原体に再び感染する場合を再感染,同一生体に2種以上の病原体が同時に感染するときは混合感染,1種の病原体による感染が成立したのちに,他種の病原体の感染が加わったときは二次感染という。たとえば,小児が麻疹ウイルスに初感染し,麻疹として経過しているとき,化膿菌の二次感染を起こして中耳炎や肺炎を合併することがある。

日本では,これまで感染と伝染との区別があいまいで,同義語として用いられることが多かった。しかし厳密には,病原微生物が生体に感染して疾病を起こし,その経過中(潜伏期,回復期,病後を含む),感染生体からの分泌物や排出物とともに病原体が出て,接触または媒介によって他の生体を感染させる場合を伝染といい,とくに伝染力の強い感染症を伝染病と呼んできた。旧来の法定伝染病(コレラ,赤痢,腸チフスパラチフス,痘瘡(とうそう),発疹チフス,猩紅(しようこう)熱,ジフテリア,流行性脳脊髄膜炎,ペスト,日本脳炎)や麻疹(はしか),百日咳,急性灰白髄炎,水痘,風疹などが好例である。一方,生体が感染症に罹患しても病原体が排出されないか,または排出されても他の生体を感染させにくいものは非伝染性感染症といい,破傷風,虫垂炎,瘭疽(ひようそ),毒素型食中毒などは伝染病とはいわない。ところが日本では,広義の伝染が感染と同義に用いられているところから,届出伝染病の規定には破傷風も含まれている。

 しかし,1996年の腸管出血性大腸菌感染症(O157)の流行やエボラ出血熱など海外の感染症が国内に持ち込まれる危険性の増大などが指摘される状況を背景に,98年,感染症法が施行された。なお,これに伴い,伝染病予防法,性病予防法などが廃止された。

 感染に引き続いて発病するかどうかは,病原微生物の種類,量,その他の感染関与因子と,生体側の感受性,免疫,その他の感染抵抗因子,すなわち微生物と生体とのバランスによって決まる。ヒトに対して,麻疹,水痘などはほとんど顕性感染となり,日本脳炎,急性灰白髄炎などは不顕性感染がきわめて多い。麻疹はサルもかかるが,ヒトよりも軽症であり,不顕性感染が多く,ヒトとサル以外の動物にはかからない。

病原微生物が生体に侵入する経路を感染経路route of infectionという。感染経路は,感染源から直接に伝染する直接感染と,排出された病原微生物が媒介物を介して間接に伝染する間接感染とに大別される。直接感染には,接触により直接に伝染する接触感染と,病原体を含んだ気道分泌物や唾液が飛沫となって,患者の咳やくしゃみによって飛び散り,これを他の生体が吸い込んで伝染する飛沫感染があるが,飛び散った飛沫が空気で運ばれたのちに,他の生体に伝染する場合は空気感染と呼ぶ。間接感染には,飲食物,水,衣類・器物,塵埃(じんあい)などを介して感染する場合があるほか,カ,ハエ,シラミなどの媒介動物によって感染するものもある。

 病原体が生体に感染する侵入門戸は皮膚,粘膜であるが,健常な皮膚はワイル病を除いて一般の病原体は侵入しがたい。皮膚からの侵入を経皮感染というが,これには,傷からの化膿菌,カによる日本脳炎,イヌの咬傷による狂犬病などがある。しかし,粘膜からは感染しやすく,呼吸器,消化器,眼,泌尿生殖器などの粘膜から,各種の病原体が侵入する。このうち,消化器から侵入するものを経口感染という。

従来,病原性が弱く,あるいはほとんど病原性がないとされ,正常な抵抗力をもつ宿主では感染を起こさなかった微生物が,生体の抵抗力の低下(白血病,悪性腫瘍,原発性または続発性免疫不全症候群,免疫抑制剤使用,放射線大量使用,未熟児,高齢者)や抗生物質大量使用による菌交代症などの状況下にある生体に起こす感染を日和見感染という。この病原体として,細菌では緑膿菌,霊菌,表皮ブドウ球菌,リステリアノカルジアプロテウス,非定型抗酸菌があげられ,ウイルスではサイトメガロウイルス単純ヘルペスウイルス,水痘・帯状疱疹ウイルス,真菌ではカンジダ,クリプトコックス,アスペルギルス,ムコールなど,原虫ではニューモチスチス・カリニ,トキソプラズマなどが知られる。

感染の有無を知るには,感染症として発病した場合には困難でないが,発病前や不顕性感染の場合には現在でも容易ではない。第1は病原体の発見に努めることであり,第2は,2回以上の採血を行って免疫血清学的検査をし,前血清に比べ後血清中に産生された抗体価が高値であることを確認することである。したがって,微生物が発見される以前は,人々は感染についてさまざまな考え方をした。ギリシア時代には,ヒッポクラテスをはじめとして,伝染病の流行は気候や風土の変化による空気の汚染が重視され,汚れた空気(ミアスマmiasma,瘴気(しようき))によって流行が起こると考えられていたが,中世になると,ペストの大流行やアメリカからの梅毒の伝播と猖獗(しようけつ)を経験して,コンタギオンcontagion説が有力となり,それぞれの伝染病には生きた感染源の存在が推測されるようになった。17世紀になると,A.vonレーウェンフックにより顕微鏡が発明され,多くの細菌が発見された。近代微生物学の基礎は19世紀になって,L.パスツールとR.コッホによって築かれたが,各種病原微生物の発見,パスツールによる加熱滅菌法と液体培養法,コッホによる固形培地,伝染病の病原体を特定するためのコッホの3原則など偉大な業績を残した。コッホの弟子E.A.vonベーリングや北里柴三郎はジフテリア抗毒素を発見して免疫血清療法を創案した。予防接種はE.ジェンナーの種痘法の発見に始まるが,パスツールは炭疽病,狂犬病,丹毒などに対するワクチンをつくり,免疫学の基礎を築いた。現代では,組織培養法,電子顕微鏡の応用からウイルス学の長足の進歩をもたらした。一方,免疫学は,20世紀後半になって液性免疫,細胞性免疫の解析が急速に進んでいる。
医学

感染の予防対策は,感染源対策,感染経路対策,個人予防対策および集団予防対策に分けられる。

 感染源対策としては感染源となる患者を早期に発見・隔離し,汚染物を消毒すること。これについては,感染症法によって疾患により,入院などの措置が義務づけられている。学校では感染機会の多い小児が集まるところから学校保健安全法によって,届出と感染期間を考慮した登校停止規準が示されている。外来感染症に対しては海港および空港での検疫が行われ,検疫感染症が指定されている。

 感染経路対策としては経路を遮断することで,直接感染をさけるには患者との面会を制限し,病室別換気・消毒,予防着やマスクの着用(過信できない),手洗いなどを十分に行う。間接感染防止には汚染物の消毒がたいせつで,伝染病の種類によって病原体の排出経路が決まっているので,適応した消毒処置をとる。飲食物による感染防止には,その貯蔵,製造,調理の指導,衛生知識の普及が重要である。水道水による感染予防には上下水道の整備や塩素消毒を行うことで可能であり,井戸水を使用するところでは汚水の流入を防止する。昆虫媒介による感染予防には,ハエ,カ,シラミ,ダニ,ノミなどの駆除をはじめとし,環境を清潔にする環境衛生の向上が基本である。

 個人予防対策としては,健康状態の調整と予防接種による特異免疫の賦与が必要であり,集団感染防止は衛生知識の普及と集団の予防接種率の向上によって達せられる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「感染」の意味・わかりやすい解説

感染
かんせん
infection 英語
Infektion ドイツ語

病原微生物や小動物が人体または動物体に侵入し、臓器や組織中で増殖することをいう。感染によっておこる疾患を感染症といい、感染症をおこす病原微生物や小動物を病原体という。病原体にはウイルス、クラミジア、リケッチア、細菌、真菌(カビ)、スピロヘータ、原虫、寄生虫などが含まれ、病原体の種類によって、その感染症の病態がそれぞれ異なる。これは、病原体そのもの、あるいは病原体から出る体外毒素による。

 感染すればかならず発病するとは限らない。たとえば日本脳炎ウイルスが感染すると、高熱、頭痛、意識障害、けいれんなどの症状を呈する人もあるが、大多数の人は体内でウイルスが増殖してもその程度が少なく、発熱などの症状もなく発病しない。このように、感染を受けて発病する場合を顕性感染、発病しない場合を不顕性感染または潜伏感染という。この両者の差は自覚的に症状が現れるか否かであり、病的変化があるか否かの絶対的差異ではない。つまり両者の差は病変の量的差異といえる。なお、感染を受けた者のうち、発病する者の割合を感染発症指数または感受性指数といい、感染症とくに呼吸器感染症ではほぼ一定している。これによると、麻疹(ましん)(95%)や百日咳(ぜき)(60~80%)などでは大多数の人が発病するし、逆にジフテリア(10%)や日本脳炎(0.2%以下)などでは大多数の人は発病しない。

 また、感染を受けて発病する場合、その個体はその病原体に対して感受性があるといい、発病しない場合には感受性がないという。感受性は逆の立場からいえば個体の病原体に対する抵抗性を意味する。生体が病原体に対して感受性をもたないか、あるいは感受性が減弱された状態にあることを免疫という。

 感染の源となるもの、すなわち患者や保菌者、そのほか感染動物や媒介する動物、あるいは病原体を含んだ排出物やそれらによって汚染されたものなどを感染源といい、これらの感染源から直接または間接に生体内へ病原体が侵入する道筋を感染経路という。これには排出、伝播(でんぱ)、侵入の3経路がある。病原体の排出は、呼吸器(咳、痰(たん)、鼻汁)、消化器(唾液(だえき)、糞便(ふんべん)、吐物)、泌尿器(尿)、生殖器(分泌液、胎盤)、眼(分泌液)、皮膚(膿(のう)、痂皮(かひ))から行われるが、血液やリンパ液中に存在する病原体は、媒介する節足動物(カ、シラミ、ノミ、ダニ、サシバエなど)が体外に出す役割を果たす。排出された病原体、あるいは食品や土の中で増殖していた病原体が新しい感受性のある生体に到達する伝播経路としては、空気感染、接触感染、水系感染のほか、媒介者である節足動物に刺されることによるものがある。またハエやゴキブリ、ネズミなどによる運搬もある。侵入経路としては、経気道、経口、経皮および経胎盤がある。経気道感染は空気感染によるものであり、経口感染は、一般に消化器から排出された病原体が飲食物に混じって摂取され消化器から侵入することによる。経皮感染は、節足動物の刺咬(しこう)、あるいは汚染された注射針によることもあるが、肉眼では見えないような皮膚や粘膜の創傷(そうしょう)から侵入する場合は、接触感染のときにみられる。経胎盤感染は、妊婦が感染したとき、病原体が胎盤を通過して胎児に侵入し、感染するもので、垂直感染ともいう。

 このほか感染の様式や経路として、「混合感染」「血行感染」「自己感染」「水平感染」「集団感染」「院内感染」「日和見(ひよりみ)感染」などの用語があるが、これらはそれぞれの項目を参照されたい。

[柳下徳雄]

『中原英臣・佐川峻著『感染するとはどういうことか――「感染」と「発病」の間に起きていること』(1995・講談社)』『清水喜八郎監著、山口恵三・岩本愛吉著『だれでもわかる感染症』(1999・へるす出版)』『『感染症ファイル――しのびよる病原体』(2000・竹内書店新社)』『本田武司・飯島義雄著『あなたを狙う感染症』(2000・小学館)』『相川正道・永倉貢一著『現代の感染症』(岩波新書)』『井上栄著『感染症の時代』(講談社現代新書)』

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百科事典マイペディア 「感染」の意味・わかりやすい解説

感染【かんせん】

微生物がその寄主(宿主)である生体に寄生し,その中で増殖するに至る一連の過程。一般に寄主は多細胞生物だが,細菌にバクテリオファージ(細菌ウイルス)が感染するという例もある。感染しても寄主の正常な生理機序が,認められるほどの変化をせず,共生状態になることもあるので,発症(発病)とは区別され,発症しない感染を不顕性感染という。この場合も寄主の免疫反応は起こる。

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ASCII.jpデジタル用語辞典 「感染」の解説

感染

ネットワークやフロッピーディスク、CD-ROMなどを通じてコンピューターに入り込んだウイルスが、ソフトウェアに組み込まれること。多くのウイルスは、ウイルスに感染されたアプリケーションを起動すると活動を始める。この状態を発病という。

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IT用語がわかる辞典 「感染」の解説

かんせん【感染】

コンピューターウイルスをはじめとするコンピューターに被害を与える不正プログラムがファイルに取り込まれること。

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普及版 字通 「感染」の読み・字形・画数・意味

【感染】かんせん

うつる。

字通「感」の項目を見る

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栄養・生化学辞典 「感染」の解説

感染

 寄生虫,細菌,ウイルス,カビなどが生体内や体表面に定着して,増殖するきっかけができた状態.

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世界大百科事典(旧版)内の感染の言及

【感染症】より

…病原微生物がヒトおよび動物の体に侵入し,定着,増殖して感染をおこすと組織を破壊したり,また,病原微生物が毒素を出して体に害を与えると,一定の潜伏期をへた後に病気となる。この病気を感染症という。…

【伝染病】より

…昔から〈はやり病(やまい)〉〈疫病〉として人から恐れられてきた病気のことで,病原微生物の感染によって発病する。日本では,感染と伝染の区別があいまいで,この二つは同義語のように用いられることが多いが,感染infectionとは病原微生物が生体に侵入して増殖し,生体に害を与える場合(この病的異常状態が感染症infectious disease)をいい,伝染とは感染症の経過中,感染生体から分泌物や排出物とともに病原体が出て,それが接触または媒介によって他の生体を感染させる場合をいう。…

※「感染」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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