日本大百科全書(ニッポニカ) 「感染」の意味・わかりやすい解説
感染
かんせん
infection 英語
Infektion ドイツ語
病原微生物や小動物が人体または動物体に侵入し、臓器や組織中で増殖することをいう。感染によっておこる疾患を感染症といい、感染症をおこす病原微生物や小動物を病原体という。病原体にはウイルス、クラミジア、リケッチア、細菌、真菌(カビ)、スピロヘータ、原虫、寄生虫などが含まれ、病原体の種類によって、その感染症の病態がそれぞれ異なる。これは、病原体そのもの、あるいは病原体から出る体外毒素による。
感染すればかならず発病するとは限らない。たとえば日本脳炎ウイルスが感染すると、高熱、頭痛、意識障害、けいれんなどの症状を呈する人もあるが、大多数の人は体内でウイルスが増殖してもその程度が少なく、発熱などの症状もなく発病しない。このように、感染を受けて発病する場合を顕性感染、発病しない場合を不顕性感染または潜伏感染という。この両者の差は自覚的に症状が現れるか否かであり、病的変化があるか否かの絶対的差異ではない。つまり両者の差は病変の量的差異といえる。なお、感染を受けた者のうち、発病する者の割合を感染発症指数または感受性指数といい、感染症とくに呼吸器感染症ではほぼ一定している。これによると、麻疹(ましん)(95%)や百日咳(ぜき)(60~80%)などでは大多数の人が発病するし、逆にジフテリア(10%)や日本脳炎(0.2%以下)などでは大多数の人は発病しない。
また、感染を受けて発病する場合、その個体はその病原体に対して感受性があるといい、発病しない場合には感受性がないという。感受性は逆の立場からいえば個体の病原体に対する抵抗性を意味する。生体が病原体に対して感受性をもたないか、あるいは感受性が減弱された状態にあることを免疫という。
感染の源となるもの、すなわち患者や保菌者、そのほか感染動物や媒介する動物、あるいは病原体を含んだ排出物やそれらによって汚染されたものなどを感染源といい、これらの感染源から直接または間接に生体内へ病原体が侵入する道筋を感染経路という。これには排出、伝播(でんぱ)、侵入の3経路がある。病原体の排出は、呼吸器(咳、痰(たん)、鼻汁)、消化器(唾液(だえき)、糞便(ふんべん)、吐物)、泌尿器(尿)、生殖器(分泌液、胎盤)、眼(分泌液)、皮膚(膿(のう)、痂皮(かひ))から行われるが、血液やリンパ液中に存在する病原体は、媒介する節足動物(カ、シラミ、ノミ、ダニ、サシバエなど)が体外に出す役割を果たす。排出された病原体、あるいは食品や土の中で増殖していた病原体が新しい感受性のある生体に到達する伝播経路としては、空気感染、接触感染、水系感染のほか、媒介者である節足動物に刺されることによるものがある。またハエやゴキブリ、ネズミなどによる運搬もある。侵入経路としては、経気道、経口、経皮および経胎盤がある。経気道感染は空気感染によるものであり、経口感染は、一般に消化器から排出された病原体が飲食物に混じって摂取され消化器から侵入することによる。経皮感染は、節足動物の刺咬(しこう)、あるいは汚染された注射針によることもあるが、肉眼では見えないような皮膚や粘膜の創傷(そうしょう)から侵入する場合は、接触感染のときにみられる。経胎盤感染は、妊婦が感染したとき、病原体が胎盤を通過して胎児に侵入し、感染するもので、垂直感染ともいう。
このほか感染の様式や経路として、「混合感染」「血行感染」「自己感染」「水平感染」「集団感染」「院内感染」「日和見(ひよりみ)感染」などの用語があるが、これらはそれぞれの項目を参照されたい。
[柳下徳雄]
『中原英臣・佐川峻著『感染するとはどういうことか――「感染」と「発病」の間に起きていること』(1995・講談社)』▽『清水喜八郎監著、山口恵三・岩本愛吉著『だれでもわかる感染症』(1999・へるす出版)』▽『『感染症ファイル――しのびよる病原体』(2000・竹内書店新社)』▽『本田武司・飯島義雄著『あなたを狙う感染症』(2000・小学館)』▽『相川正道・永倉貢一著『現代の感染症』(岩波新書)』▽『井上栄著『感染症の時代』(講談社現代新書)』