唾液腺炎(読み)だえきせんえん(英語表記)Sialadenitis

六訂版 家庭医学大全科 「唾液腺炎」の解説

唾液腺炎
だえきせんえん
Sialadenitis
(のどの病気)

どんな病気か

 唾液腺とは、味覚刺激などにより唾液をつくり、口のなかに分泌をする腺のことです。唾液は、食べた物をひとかたまりにして飲み込みやすくしたり、でんぷんの消化にはたらいたり、口のなかの殺菌や会話時の舌の動きをよくする潤滑油のはたらきをしています。

 唾液腺は大唾液腺小唾液腺に分けられます。大唾液腺には耳下腺(じかせん)顎下腺(がっかせん)舌下腺(ぜっかせん)の3種類が、それぞれ左右に一対ずつあります。耳下腺は耳の前から下のほうに、顎下腺下顎の内側に、舌下腺は舌と下顎の間にあります(図21)。小唾液腺は、口の粘膜のいたるところにあります。これらの腺に何らかの原因で炎症を生じた場合を、唾液腺炎といいます。

原因は何か

 ウイルスによるもので最もよく知られているのが流行性耳下腺炎、すなわちおたふくかぜです。しかし、唾液腺炎を起こすウイルスには、おたふくかぜを生じるもの以外にもあることがわかっています。

 細菌による唾液腺炎はもともと唾液腺に何の病変もない人には生じにくいものですが、小児にみられる唾液管末端拡張症(だえきかんまったんかくちょうしょう)という腺そのものの異常や、唾石(だせき)などによる唾液の分泌障害がある時、または全身の抵抗力が落ちている時の水分補給が不足した場合などに生じます。

 唾液腺炎は、梅毒(ばいどく)結核(けっかく)などにより生じることもあります。さらに自己免疫疾患シェーグレン症候群という唾液腺に慢性炎症を生じる病気もあります。

症状の現れ方

 急性の炎症では、炎症を生じた腺のところに痛み、発熱などが起こります。すべての腺が炎症を起こすウイルス感染症やシェーグレン症候群では、唾液の分泌障害が生じ、口の乾燥感が現れます。

 唾液管末端拡張症は小児慢性再発性耳下腺炎ともいわれ、小児にみられる特殊な病気で、急性耳下腺炎を反復します。当初は流行性耳下腺炎と誤診されやすく、反復することにより疑いをもたれ、診断されることがほとんどです。

検査と診断

 はれているのが唾液腺かどうかを確認する必要があります。耳下腺や顎下腺では、リンパ節炎とまぎらわしいことがあります。流行性耳下腺炎をはじめ耳下腺に炎症があれば、血液検査アミラーゼの値が高くなります。ただし、これが高いからといってそれぞれの疾患を確定診断することはできません。そのほかには一般的な血液検査が必要です。

 ウイルス性か細菌性かは、問診や局所所見、血液検査で判断されます。流行性耳下腺炎は、流行状況の把握とウイルスの抗体価を測ることにより確定診断されます。唾液管末端拡張症の確定診断には、唾液腺造影検査が必要です。

治療の方法

 細菌性の炎症では、抗生剤の投与が必要です。急性炎症が落ち着いたら、唾石など治療の必要な疾患がある場合はそれぞれの治療を行います。

病気に気づいたらどうする

 唾液腺の部位に生じるはれや痛み、口の乾燥感などがあれば、耳鼻咽喉科を受診する必要があります。

谷垣内 由之


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「唾液腺炎」の意味・わかりやすい解説

唾液腺炎
だえきせんえん
sialoadenitis

唾液腺の炎症。急性のものはおもに耳下腺に起り,流行性と化膿性に分けられる。流行性耳下腺炎はおたふくかぜともいわれる。化膿性耳下腺炎は,重い全身性疾患のときや手術後に急激に起り,高熱と食事も飲み込めないほどの激痛が現れる。治療は,抗生物質を投与し,膿瘍が生じたら切開排膿する。一方,慢性のものは顎下腺と舌下腺に多く,耳下腺はまれである。唾石などによって軽い圧痛のあるしこりができ,圧迫すると少量の膿が出る。治療には原因を取除き,化学療法を行うが,ときに外科的治療も必要となる。

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