人が自分がどのように生まれてきたか(出自)を知る権利。人工授精や体外受精などの生殖補助医療が著しい進歩を遂げたことで、精子や卵子を第三者から提供された場合や、代理出産によって子をもうけたりした場合に、遺伝上の親はだれかという事実を、生まれてきた本人に対して知らせるべきかどうかという倫理的問題が生ずる。たとえば、非配偶者間人工授精(AID)は、無精子症などの男性不妊が原因で子のできない夫婦が、第三者から精子の提供を受けて子供をもうける手段であり、この方法によれば、不妊夫婦のみならずシングルマザーとして子供を希望する人や、同性カップルなどにも妊娠の可能性が生まれる。一方で、現状では精子提供者(ドナー)は匿名が条件となっており、提供者をはじめ施術を担当した医療関係者によって、提供者がだれであるかが知らされることはない。また、代理出産の場合には、卵子提供者ではなく、出産した女性が母親として認められて戸籍に登録されるため、法律上の両親などによる積極的開示がなければ、子供が自分の遺伝上の親を知る手段はない。
先進国においても、親が子にその出自について開示する比率は低いレベルにとどまっている。しかし、親の遺伝情報を知らされないために子の健康が侵害されたり、近親婚の可能性を確認できないなどの問題が発生することも否定できない。こうしたなか、ヨーロッパなどでは、ドナーの住所や氏名などの情報にまでアクセスできる権利を認める国も増えてきており、日本でも出自を知る権利の法制化が検討されている。
[編集部]
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