冬虫夏草(読み)トウチュウカソウ

デジタル大辞泉 「冬虫夏草」の意味・読み・例文・類語

とうちゅう‐かそう〔‐カサウ〕【冬虫夏草】

地中にいる昆虫子嚢菌しのうきんなどが寄生し、地上キノコ子実体しじつたい)を生じたもの。セミタケアリタケクモタケなど。冬は虫であるが夏には草に変わるという意からの名で、中国ではヤガ幼虫に生じるものを薬とする。

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精選版 日本国語大辞典 「冬虫夏草」の意味・読み・例文・類語

とうちゅう‐かそう ‥カサウ【冬虫夏草】

〘名〙 子嚢菌類なかで昆虫やクモなどに寄生して糸状や棍棒状の大きな子実体を生じるキノコの総称。冬は虫で夏には草になると考えられたところからの名。中国では、この仲間一種を強精薬とし、乾燥したものを指すことが多い。種類は多く、セミタケ・ハチタケ・トゲアリタケ・クモタケ・サナギタケなど。〔世界奇観(1924)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「冬虫夏草」の意味・わかりやすい解説

冬虫夏草
とうちゅうかそう

この語には三つの意味があるため、それぞれ順を追って説明する。(1)中国の四川(しせん)、雲南チベットなどに産する鱗翅(りんし)目ヤガ科のガの幼虫の頭部から生ずる棍棒(こんぼう)状の子実体(キノコ)を、虫体とともにとって乾燥した生薬(しょうやく)。不老長生の精力剤として珍重された。精を補い、髄を益し、肺を保ち、腎(じん)を益し、血を止め、痰(たん)を化し、癆嗽(ろうそう)(咳(せき)込み)を止めるという。このキノコはノムシタケ属の一種Cordyceps sinensisである。夏季に胞子から生じた発芽管がガ、とくに冬虫夏草ガHepialus armoticanusの幼虫に寄生し、土に潜った幼虫は、やがて死んで体内が菌核化する。次の夏季に、これからキノコが生じてくる。名の由来は、このキノコを草とみたことによる。(2)虫生菌のうち、昆虫類、クモ形類に寄生して著しい子実体(キノコ)を形成する菌類。この菌類には子嚢(しのう)菌類中の核菌類バッカクキン目のノムシタケ属(コルジセプス属)に属するものが多い。キノコの形、大きさ、色はさまざまである。宿主の生活の場や習性によって、地上や落枝上、落ち葉間、コケ類の間、樹皮下などでみられる。子実体は、一般に頭部と柄(え)からなっており、頭部の表層には多数の被子器が一つの層をなして並んでいる。各被子器は、造嚢器と造精器の接合、あるいは造嚢器の単為発生を経て形成され、形はとっくり状で、その口を外に開き、その内底には子嚢が一つの層をなして形成される。各子嚢は円柱形で、先端に微小な頂孔がある。子嚢は成熟すると長く伸び、その先端部が被子器の口から突き出て、頂孔から糸状の子嚢胞子8個を一つずつ射出する。空(から)になった子嚢は収縮して崩壊し、次の子嚢が伸びる。子嚢胞子は多室になっているが、のちにばらばらに分離する。代表種には、ハチタケ、アリタケ、アワフキムシタケカメムシタケ(ミミカキタケ)、ガの幼虫に生ずるサナギタケなどがある。

 冬虫夏草のなかには、被子器を形成しないで、無数の粉状分生子を表面に生ずる子実体もある。ツクツクボウシタケは樹枝状に分かれた枝が白粉状の分生子で覆われ、トタテグモに生ずるクモタケは、棍棒状の長い頭部が淡紫紅色の粉状分生子で覆われる。これらの分生子型(不完全型)子実体を生ずるものは、不完全菌類のクモタケ属(イサリア属)に含まれる。(3)虫生菌の子実体をキノコに限定せず、また、宿主をもっと広義に解釈した菌類。クモ類の胸部・腹部の表面に菌糸層をつくり、その表面に卵形の被子器を密生するコエダクモタケ(トルビエラ属)や地下生子嚢菌類ツチダンゴ属の球状子実体から地上数センチの子実体を生ずるハナヤスリタケ(ノムシタケ属)がこれに含まれる。

[寺川博典]

『清水大典著『冬虫夏草』(1979・ニュー・サイエンス社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「冬虫夏草」の意味・わかりやすい解説

冬虫夏草 (とうちゅうかそう)
vegetative wasp
plant warm
Cordyceps

虫に寄生した菌類が虫からキノコを生やしたもの。昔は虫と菌類を同一体と考え,冬は虫の姿をしていて夏は変じて草となると信じられていた。中国原産の菌類が芋虫に生えたものに,最初にC.sinensis Sacc.と学名がつけられた。現在では,子囊菌類バッカクキン目Cordyceps属の昆虫寄生菌に対する総称となっている。

 冬虫夏草の菌の生活とキノコは次のようにしてできる。まず,昆虫(幼虫,成虫)やクモなどの体内に入った菌は菌糸をのばして生長し,やがて虫の体内を完全に占領する。このときに虫はすでに死んでいる。虫の体はあまり崩れていないが内部にはえた菌糸は密に固まって硬い菌核という組織になり,やがて温度,湿度などの条件が良ければ,この菌核組織からキノコが発生する。この姿が虫から草が生じたように見えるわけである。キノコは種類により異なるが,多くは細くのび上がり,先は少々ふくらみ,小さいいぼ状突起でおおわれる。目だちやすい黄,赤などが多い。このいぼ状突起は菌の子囊殻で,成熟すると先端から胞子がおし出され,その胞子はまた新しい虫について寄生する。代表的なものにセミタケC.sobolifera B.etBr.,サナギタケC.militaris Link.(鱗翅(りんし)類のサナギに寄生),ミミカキタケC.nutans Pat.(カメムシの成虫に寄生),ハチタケC.sphecocephala Sacc.,アワフキムシタケC.tricentri Yasudaなどがある。

 例外的に地下にできるキノコのツチダンゴElaphomycesに寄生するハナヤスリタケC.ophioglossoides Fr.やタンポタケC.capitata Cesati et Not.,タンポタケモドキC.japonica Lloydもある。いずれも寄主はほとんど地中にあり,棍棒状の菌の部分だけが地上に出ているので,採集は簡単でない。

 古来,不老不死の妙薬とされ,強壮剤として,現在も中国では珍重され,市販されているが薬効はなお不明であり,現代でも薬理的な証明は難しいとされている。ただ,冬虫夏草には今までのところ毒タケはまったくないとされている。煎じて飲んだり,鴨料理に加えたり,焼酎を加えて冬虫夏草酒とするなど,いろいろな食べ方がある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「冬虫夏草」の意味・わかりやすい解説

冬虫夏草
とうちゅうかそう
vegetative wasps; plant worms

子嚢菌類バッカクキン目の虫生菌類の一群をさす。おもな属はノムシタケ属 Cordycepsとも呼ばれる。サナギタケ (蛹茸)ウスキサナギタケ (淡黄蛹茸)などはガ類の蛹につき,セミタケ (蝉茸),アブラゼミタケ (C. nipponica) ,オオセミタケ (C. heteropoda) などはセミ類の幼虫に,アリタケ (C. japonensis) ,ツノアリタケ (C. unilateralis var. clavata) はアリ類の成虫に,ハチタケ (C. sphecocephala) ,トガリスズメバチタケ (C. oxycephala) はハチ類に,アワフキムシタケ (C. tricentri) はアワフキムシに,ミミカキタケ (耳掻茸)はカメムシに,ケラタケ (C. gryllotalpae) はケラに,オニグモタケ (C. arachneicola) はクモ類に寄生する。これらの菌は宿主体内に菌糸を伸ばし,宿主を殺してミイラ状にしてそれより棍棒状,円筒状の子実体を出す。子実体の先端近くの表面組織内に埋没して被子器を生じる。なお,ノムシタケ属中には地生菌類ツチダンゴ (Elaphomyces) を宿主とするタンポタケ,ハナヤスリタケ (C. ophioglossoides) などがあり,またこの種の菌類の不完全世代として知られたものにハナサナギタケ (花蛹茸),ミンミンゼミタケ (Isaria oncotympanae) ,クモタケ (蜘蛛茸)などがある。冬虫夏草の名は冬季は虫であるものが夏季には植物になると解釈してつけられた。

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百科事典マイペディア 「冬虫夏草」の意味・わかりやすい解説

冬虫夏草【とうちゅうかそう】

菌類のうちで虫に寄生していろいろな形の子実体(キノコ)をつくる菌の総称。昔は菌類と虫を同一体とみなし,冬は虫で夏に草になるという意味の中国名に基づく。子嚢菌類バッカクキン目に属し,セミ,アリ,ハチ,カメムシ,甲虫類の幼虫や成虫の体内に菌糸を充満,外に棍棒(こんぼう)状,角状,糸状等の子実体をつくり,その表面に被子器をつけ,無数の胞子を生ずる。長さ数mmから10cmに及び,日本にはセミタケ,サナギタケ(鱗翅(りんし)類のサナギに寄生),ミミカキタケ(カメムシに寄生)など数十種がある。中国産の冬虫夏草は強精剤として有名。

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動植物名よみかた辞典 普及版 「冬虫夏草」の解説

冬虫夏草 (フユムシナツクサタケ)

学名:Cordyceps sinensis
植物。バッカクキン科の子嚢菌類,薬用植物

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