胞子(読み)ほうし(英語表記)spore

翻訳|spore

精選版 日本国語大辞典 「胞子」の意味・読み・例文・類語

ほう‐し ハウ‥【胞子】

〘名〙 生物の生殖細胞の一つ。単独で発芽して新しい個体になる。陰花植物と、原生動物の一部に作られる。鞭毛・繊毛などの運動性のある遊走子と、それのない不動胞子に分けられる。〔植物小学(1881)〕

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デジタル大辞泉 「胞子」の意味・読み・例文・類語

ほう‐し〔ハウ‐〕【胞子】

シダ植物コケ植物藻類菌類などに形成され、単独で新個体となりうる細胞。ふつう単細胞で、有性生殖後にできるものや、無性器官内にできるもの、栄養体の一部が分裂してできるものなどがある。→芽胞

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改訂新版 世界大百科事典 「胞子」の意味・わかりやすい解説

胞子 (ほうし)
spore

胞子体上にできる無性生殖のための小さい単一の細胞で,発芽,生長して別個体になる。胞子は藻類,菌類では栄養細胞または単細胞性の胞子囊の中に,コケ植物,維管束植物では多細胞からできた胞子囊の中につくられる。藻類と菌類の一部,コケ植物,維管束植物では胞子母細胞が減数分裂して単相の胞子ができ,その他の場合では体細胞分裂によって単相または複相の胞子ができる。世代交代を行う植物では胞子体から胞子を経て配偶体に交代するが,胞子を経ずに無胞子生殖aposporyによって胞子体の一部が配偶体になる場合もある。またアポガミー無配生殖)を行う植物では,胞子がつくられるとき減数分裂しないか,しても染色体の倍化も起こり,胞子体と同じ核相をもつようになり,それからできる配偶体も同じ核相である。種間の交雑によってできた雑種が不稔の場合は,それからできる胞子はふつう形は異常かつ不定形で,発芽能力も著しく低い。

胞子には鞭毛をもった運動性の動胞子planosporeと,鞭毛をもたない非運動性の不動胞子aplanosporeがある。動胞子はふつう遊走子とよばれ,緑藻,褐藻,藻菌類などにみられる。藻類の遊走子はふつう眼点をもち走光性があり,藻菌類の遊走子は走化性がある。遊走子の形,鞭毛の型・数と付着位置は配偶子と同様,植物群によって一定していて,これらを分類する上で重要な形質の一つである。不動胞子は藻類,菌類,コケ植物,維管束植物に広くみられ,一般に動胞子から由来したと考えられる。動胞子は形態やでき方が特徴的であって,紅藻類では果胞子carpospore,四分胞子tetraspore,子囊菌類では子囊胞子ascospore,担子菌類では担子胞子basidiosporeなどとよばれる。コケ植物や維管束植物では単に胞子とよばれる。アキネートakineteは胞子に似た無性生殖のための特殊な細胞である。つくられる細胞がすべて同形のものを同形胞子homospore,大きさによって2種類ある胞子を異形胞子heterosporeといい,大きい方の胞子を大胞子megaspore,小さい方の胞子を小胞子microsporeという。異形胞子は単に形の大小だけでなく,性のちがいとも一致しており,大胞子は生長して雌性配偶体に,小胞子は雄性配偶体になる。異形胞子はコケ植物とシダ植物の一部,裸子植物と被子植物のすべてにみられる。裸子植物と被子植物の小胞子は花粉とよばれ,成熟した花粉はすでに細胞分裂し,雄性配偶体ができている。

藻類の胞子は水中に放出,散布されるので,胞子壁は厚くないが,コケ植物や維管束植物など陸上生活を営むものでは,胞子は乾燥に耐えられるように,多層からなる厚い胞子壁でおおわれ,さらに周皮によって包まれている場合もある。胞子壁はスポロポレニンsporopolleninとよばれる物質からできている。トクサ植物の胞子の表面には胞子壁の肥厚によってできた2本の弾糸がまきつき,周囲の乾湿によってほどけたり,まきついたりするので,胞子の放出に役だっている。同様に,コケ植物では蒴(さく)中にできる不稔の細胞である弾糸によって胞子が放出される。胞子は,減数分裂における分裂面の位置によって,条溝の数に違いが生じ,一稜形と三稜形に分かれ,その形は二面体形,球形,四面体形などさまざまである。胞子壁の表面模様は種によってきまっている。

 陸上植物の胞子は空中散布するので,乾燥のほか,低温,放射線などに対して強い抵抗性があり,葉緑体をもち短命な胞子(ゼンマイなど)を除くと,ふつう数ヵ月から数年の長い寿命をもつことが実験的にも確かめられている。胞子は適当な温度,湿度,光の条件下で発芽する。胞子によって発芽に光を要するものや,一定の暗黒期間を要するものがあり,胞子中にあるフィトクロームのような色素が光受容体として発芽に重要な役割を果たしていることがわかってきている。また,胞子繁殖するコケ植物やシダ植物では,胞子の分散はその分布と密接な関係がある。

 それらは一般に種特有の分布域をもち,種の分布は胞子の分散・発芽能力と他の要因(温度・湿度・土壌などの無機環境要因,植生・競争などの生物的要因,地史的要因)によって規定された複雑な現象であるといえる。胞子壁をつくるスポロポレニンは,化学的にきわめて安定した物質であるので,胞子は化石として残りやすい。そのため,埋土した胞子を調査研究する花粉分析は,陸上植物の起源,系統進化などを解明する上で有効な方法である。それによって,最初の陸上植物の胞子は同形胞子,三稜形で単純な表面模様であったこと,コケ植物やシダ植物あるいはその片方が,その大型化石が発見されていない古生代の中部シルル紀(4億1500万年前)にはすでに存在していたこと,中部デボン紀にはすでに異形胞子に分化していたことなどがわかっている。また,地史的にみて新しい新生代(6500万年前以降)の地層からでる胞子を現生植物の胞子と比較して,当時の植物の分布,植生,古環境の変動なども明らかにされてきている。
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胞子(暗黒星雲) (ほうし)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「胞子」の意味・わかりやすい解説

胞子
ほうし

生物が無性生殖の手段として形成する細胞で、単独で発芽して一般に新個体となる。胞子を形成する世代は、植物類では胞子体(造胞体)といわれる。胞子嚢(のう)や菌糸の中に形成されるものは内生胞子、体外に分離されてできるものは外生胞子、厚壁を生じて休眠するものは休眠胞子という。胞子が形成されるときに減数分裂があるかどうかが注目され、真正胞子と栄養胞子に二大別される(休眠性接合子を胞子とよぶ場合もある)。

[寺川博典]

栄養胞子

減数分裂を経ないで、体の一部が分裂して形成される胞子をいい、核相は単相か複相、菌類ではまれに重相である。菌類のほか、植物類では藻類でみられる。栄養胞子には次のような区別がある。(1)分裂子(分裂胞子・分節胞子) 成長した菌糸体の菌糸が寸断してそれぞれが丸まり、一列の連鎖状に形成される。真核菌類の一部のものと放線菌類でみられる。(2)厚壁胞子(こうへきほうし)(厚膜胞子) 単に外壁が厚いというだけではなく、その形成法が重要である。菌糸の内容がところどころで緻密(ちみつ)になって丸まり、遊離細胞として菌糸内に胞子が形成される。また、菌糸内だけではなく、細菌類の桿(かん)菌の細胞内に一個できる休眠胞子も厚壁胞子である。(3)分生子(分生胞子) 菌類において、分生子柄(へい)の先端部で体細胞核分裂がおこり、その嬢(娘)核を含む外生胞子として形成される。分生子柄は菌糸体の枝が胞子を生ずるように分化したもので、胞子を1、2個、ないし一列の連鎖状に生ずる。子嚢菌類ではとくに一般的であって、大分生子と小分生子の2種を生ずるものや、各種の菌糸組織の表面やフラスコ形菌糸組織の内面に分生子柄を密生するものもある。(4)胞子嚢胞子 胞子嚢母細胞内で体細胞核分裂が繰り返し行われて多核になり、さらに細胞質体が分裂して形成される内生胞子である。接合菌類や原生子嚢菌類は不動胞子を生じ、緑藻類のコナミドリムシや卵菌類、ツボカビ類は鞭毛(べんもう)のある遊走子を生ずる。この胞子嚢は遊走子嚢ともいわれる。ツボカビ類のカワリミズカビの遊走子は真正胞子として形成される場合もある。

[寺川博典]

真正胞子

複相核の減数分裂を経て形成される単相の胞子である。この複相核をもつ細胞は、接合子またはそれから生じた複相の胞子体、あるいは接合子に相当する子嚢母細胞や担子器母細胞である。(1)子嚢胞子と担子胞子 子嚢菌類は子嚢内に一般に8子嚢胞子を内生する。担子菌類は担子器上に一般に四担子胞子を外生する。(2)真正胞子嚢胞子 接合菌類のケカビなどは菌糸体から生じた胞子嚢柄の先の胞子嚢内には栄養胞子を生ずるが、休眠性の接合子(接合胞子)が発芽してできる胞子嚢内には真正胞子を生ずる。卵菌類の休眠性接合子(卵胞子)が発芽すると遊走子嚢ができて真正遊走子を生ずるといわれる。前記のカワリミズカビでは、複相菌糸体上の薄壁の遊走子嚢には栄養胞子(複相遊走子)を生じ、厚壁の遊走子嚢には真正胞子(単相遊走子)を生ずる。

 植物類の胞子は、ほとんどが真正胞子である。紅色植物のテングサや褐色植物のアミジグサは、胞子体上に不動の4分胞子を形成し、コンブやムチモでは遊走子を生ずる。緑色植物のコケ類、シダ類も不動の真正胞子を生ずる(同型胞子)。しかし、ヒカゲノカズラ類や水生シダのサンショウモは、異型胞子(大胞子と小胞子)を生ずる。

[寺川博典]

胞子の散布と発芽

胞子は、水、気流、動物などによって母体から離されたり、あるいは母体が崩壊して遊離されるほか、胞子嚢から特別な仕組みによって緩やかに放出されたり、さらに、激しく飛ばされることもある。しかし、その後の散布は受動的である。散布された胞子が適当な環境条件で発芽すると新個体が生ずる。遊走子の場合は、静止して細胞壁を生じてから発芽する。新個体は、もとの胞子の核相に従って、複相か単相、または重相である。菌類では発芽条件の不明な胞子も多い。また、胞子が発芽すると別の型の胞子を生じ、これが新個体になることもある。

[寺川博典]

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百科事典マイペディア 「胞子」の意味・わかりやすい解説

胞子【ほうし】

芽胞とも。シダ植物,コケ類,藻類,菌類などの繁殖細胞。単独で新個体となることができる。有性生殖の結果できるもの,無性器官内にできるもの,栄養体の一部が分裂してつくられるものなどがある。ふつう単細胞であるが,多細胞のものもある。形や大きさはさまざまで,表面に特殊な模様のあるものなどがあり,色も黒,褐色など,さらに葉緑素,カロチンを含むものもある。同一種で種々の型の胞子をつくるもの(銹(さび)菌),雌雄の大きさの異なる胞子をつくるもの(イワヒバ),1〜2本の毛を備えて水中を泳ぐもの(遊走子という。下等菌類,藻類など),また厚い膜をかぶって長く生きているもの(厚膜胞子という。コケ,シダなど)などがある。
→関連項目シダ(羊歯)植物

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「胞子」の意味・わかりやすい解説

胞子
ほうし
spore

無性生殖の一つの方法として植物体に生じる生殖細胞。これらの細胞は単独で発芽して新個体となり,配偶子のように融合,合体は行わない。藻類では鞭毛によって遊泳を行う遊走子というものが特に発達している。菌類においてはその形,色,発生的な生じ方などにすこぶる種類が多く知られている。紅藻類の四分胞子,子嚢菌類の子嚢胞子,担子菌類の担子胞子およびシダ類の胞子とそれと相同の被子植物の花粉とではいずれもその形成直前に減数分裂が起る。特に子嚢と担子嚢内における胞子の形成ではその直前に親の核の合体が起り,引続いて減数分裂を行なって子嚢胞子および担子胞子が形成されるという特徴がある。これら核相が単相の胞子を真正胞子といい,銹菌 (さびきん) の冬胞子などのように体の一部がそのまま分裂してできる複相の栄養胞子と区別することもある。

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栄養・生化学辞典 「胞子」の解説

胞子

 菌類や植物が無性生殖のために作る細胞.一般に熱などの耐性が通常の細胞に比べて大きい.

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世界大百科事典(旧版)内の胞子の言及

【グロビュール】より

…グロビュールは星の胞子と呼ばれたりするが,明るい星野や散光星雲を背景に黒く浮かび上がる暗黒星雲の一種である。暗黒星雲には大きさも形もさまざまのものがあるが,グロビュールは比較的小さく,また,円形に近いもので,低温の宇宙塵が集合して遠方の恒星や散光星雲の光を遮っている場所である。…

【花粉分析】より

…地層中に埋もれた過去の植物の花粉pollenおよび胞子sporeをとり出し,それらを識別・鑑定するとともに,そのおのおのの量的な分布を調べるまでの一連の操作をいう。その結果は,地質学,古生物学,考古学,林学などに利用される。…

【花粉分析】より

…地層中に埋もれた過去の植物の花粉pollenおよび胞子sporeをとり出し,それらを識別・鑑定するとともに,そのおのおのの量的な分布を調べるまでの一連の操作をいう。その結果は,地質学,古生物学,考古学,林学などに利用される。…

【休眠】より

…休眠する発育段階は種により一定していて,内分泌機構(脳・前胸腺・アラタ体など)によって調節されている。【正木 進三】
[植物の休眠]
 植物では種子,休眠芽,球根,胞子に休眠現象がみられる。種子はふつう成熟と同時に休眠状態に入り,外側を固い種皮によって保護される。…

【コケ植物(苔植物)】より

…生殖器官が多細胞で,受精卵が母体内にとどまり,その後の発生も母体から養分を吸収して行われる点で,藻類と異なる。また,配偶体が生活史の主体を占め,胞子体は構造が単純で配偶体に寄生し,維管束を欠く点で維管束植物と異なる。最古の化石は上部デボン紀にさかのぼるが,その後の化石はわずかで古生物学的に進化の跡づけを行うことは困難である。…

【生殖】より

…繁殖という語は家畜学などの分野で,また増殖という語は水産学の分野で,ほぼ同じ意味に使われている。
[植物の生殖]
 植物の生殖は,体の一部または無性の生殖細胞である胞子から新しい個体ができる無性生殖と,性的に異なる2種の配偶子が合体する有性生殖の二つに大別される。 栄養体(葉状体,根,茎など)の一部から新しい個体の生まれる栄養生殖は無性生殖の一つであり,例えばオニユリやヤマノイモなどの側芽は多肉化して〈むかご〉になる。…

※「胞子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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