日本大百科全書(ニッポニカ) 「寄生」の意味・わかりやすい解説
寄生
きせい
ある生物がほかの生物の体内または体表を生息場所とし、おもに栄養面においてその生物に依存して生活することをいう。寄生する生物を寄生生物または寄生者、寄生される生物を宿主(しゅくしゅ)または寄主(きしゅ)という。共生の一形態であるが、両方が利益を受け合う相利共生や、一方だけが利益を受ける片利共生とは、宿主が多少とも有害な影響を受ける点で区別される。寄生者による障害としては、組織が破壊されたり、各種の腸、口腔(こうこう)、鼻腔などを詰まらせたりする器械的障害のほか、寄生者がなんらかの物質を出して宿主に有害な作用を与える化学的障害、宿主のアレルギー反応による障害がある。障害の程度は、寄生生物の種類、個体数、個体差などによって異なり、ときに宿主の死を招くことがある。しかし、寄生は原則的に宿主を生かしたまま利用する生活様式であり、捕食などとは異なる。モンシロチョウの幼虫に寄生するアオムシサムライコマユバチなど昆虫に寄生する寄生バチでは、最終的に宿主を食べ尽くしてしまうため、とくに捕食寄生とよぶ。この場合も、寄生者が発育を完了するまで宿主は生存し、宿主の死亡は二次的なものである。寄生はおもに宿主の栄養を直接吸収するものであるが、動物のなかには宿主の労働に依存して生活するものがあり、それを社会寄生または労働寄生とよぶ。
クリに寄生して虫こぶをつくるクリタマバチに、クリタマヒメナガコバチが寄生するというように、寄生生物にさらに寄生する二次寄生、三次寄生の現象もある。また、動物のなかには、その発生段階に応じて2種以上の異なる宿主を必要とするものがあり、この場合には成体が寄生する宿主を終宿主、幼生が寄生する宿主を中間宿主とよぶ。
寄生と宿主の関係は、基本的には生きている生物間にみられる現象であるが、ときに宿主の死体や排出物からの栄養摂取をも含めることがあり、後者を死物寄生(腐生)、前者を活物寄生とよんで区別することもある。さらに、草食動物はすべて植物に寄生し、肉食動物はほかの動物に、植物は太陽の光に寄生していると広く解釈する人もいるが、この考えは明らかに行きすぎである。
[近藤高貴]
寄生動物
寄生生活をする動物の大部分は、原生動物、扁形(へんけい)動物、袋形(たいけい)動物、節足動物の4部門に属している。一般に、宿主に付着するために、鉤(かぎ)、つめ、吸盤などが発達しているが、感覚器官、運動器官、消化器官は退化、消失する傾向にある。また、多産性であり、生殖器官が著しく発達しているものが多い。
寄生動物は、体内に侵入して寄生する内部寄生、宿主の体表面に付着して寄生する外部寄生に分けられる。内部寄生をするものには、人畜の体内に寄生して宿主の病気の原因となっているものが多い。人体に寄生するおもなものは、回虫、肺吸虫、肝吸虫、鉤虫(こうちゅう)、条虫、日本住血吸虫などで、ほかに中間宿主をもつものが多い。なかには、マラリア病原虫のようにヒトを中間宿主とし、カを終宿主とするものもある。外部寄生をするものには、ノミ、シラミ、ダニのように一時的に寄生するもの、一生を寄生して過ごすものなどがある。また、動物の雄のなかには同種の雌に寄生するものがおり、寄生雄とよばれる。ボネリムシやアンコウの一種では、雌の腹部に雄が付着しているが、これらの雄では精巣以外はほとんど退化して、体も雌の何十分の1にすぎない。
社会寄生には、宿主が採集した食物を横取りする盗み寄生または栄養寄生、宿主を奴隷として使役する奴隷制などがある。盗み寄生するものには、トウゾクカモメのように自分で魚を捕まえることができるのにほかの海鳥から食物を奪うものや、ブラジルにすむヌスミハリナシバチのように自分では花から蜜(みつ)や花粉を集めることができなくて、ハナバチの巣に侵入して食物を盗むものなどがいる。また、ホトトギスやカッコウのようにほかの鳥に子供を養育してもらう托卵(たくらん)も盗み寄生に含まれる。奴隷制をもつことで有名なものは、日本ではサムライアリである。サムライアリの働きアリは隊列をつくってクロヤマアリの巣を襲い、卵、幼虫、蛹(さなぎ)を奪って自分の巣に運ぶ。サムライアリの巣内で羽化したクロヤマアリの働きアリは、サムライアリの巣の拡張や食物の採集などを行う。サムライアリの働きアリは奴隷狩り以外には巣の外へ出ることはない。
[近藤高貴]
寄生植物
植物についてみると、光合成、独立栄養が通例の種子植物中にも、寄生栄養を営む変わり者がある。これらは寄生植物または活物寄生植物(かつぶつきせいしょくぶつ)とよばれ、死物寄生(腐生)植物とともに従属栄養植物を構成する。かつては菌類の寄生菌を、寄生植物に含める場合もあったが、現在では、菌類は独立した一つの生物界(菌界)となっている。栄養法から寄生植物を分けると、自らも光合成を行うが宿主から水分、無機塩類などをとる混合栄養の半寄生のものと、葉緑素をもたず栄養分を全部宿主に依存する全寄生のものとになる。類縁的にも、種子植物中の特定の分類群に寄生植物が集中していることは興味深い。
半寄生植物には、ヤドリギ科のヤドリギ(おもな宿主はエノキ、サクラ、ミズナラ、ブナの枝)、オオバヤドリギ(シイ、カシの枝)、ビャクダン科のツクバネ(種々の木の根)、カナビキソウ(陽地の草本の根)、ゴマノハグサ科のコゴメグサ(イネ科草本の根)、ママコナ(ハシバミの根)などがある。
全寄生植物には、ヒルガオ科のネナシカズラ(ヨモギ、ヤブガラシの茎、ヌルデの枝)、マメダオシ(ダイズ、ヨモギ、ミゾソバの茎)、ヤッコソウ科のヤッコソウ(シイノキの根)、ツチトリモチ科のツチトリモチ(ハイノキの根)、ハラウツボ科のハマウツボ(カワラヨモギの根)、オニク(ミヤマハンノキの根)、ナンバンギセル(ススキ、サトウキビ、ミョウガの根)、ヤマウツボ(シデ、カバノキ、クリの根)などがある。
常緑のヤドリギは山野の樹上にみられるが、寄生根を宿主の通道組織にまで通じて水分、無機質を吸収する。雌雄異株で、花期は2月から3月ごろであり、淡黄色球形の実を結ぶ。川原や路傍の草本に絡むネナシカズラは、不定根を宿主に差し込み、盛んに生育するので、しばしば宿主を枯らす。この際の2ミリメートルほどの鱗片(りんぺん)状の葉は機能をなしていない。根につく寄生植物では、宿主への依存度に強弱の違いがみられる。ツクバネ、コゴメグサなどは緑葉で普通の植物と一見変わるところがない。しかし、根の発達が悪く、一部の根は宿主の根に接着して養分の補給を受ける。ママコナは寄生しないでも生えるが、やはり生育は格段に劣る。一方、ヤッコソウをはじめ全寄生のものは、寄生の程度が強く、器官の退化も著しく、形状、色などもかなり独特である。
寄生植物も宿主を選択するが、両者の組合せは細胞の生理的条件や必要とする化学物質の有無などが関係するとみられている。ネナシカズラ属と宿主のマメ類との間では、宿主の細胞液の水素イオン濃度(pH)や糖分量がかかわっており、その価の低い種類は寄生者の侵入を許さない。根につく寄生植物の種子の発芽は宿主の根の近くでのみおこり、根からの分泌物が発芽を促進する。ワタやトウモロコシに害を与えるマホウグサwitchweeds(ゴマノハグサ科、熱帯産)の種子は、ワタの根からのストリゴールという物質で活性化される。
寄生植物が宿主に及ぼす生物学的な害は、一部の例を除けば致命的にはならない。しかし、農林業上はヤドリギやネナシカズラも被害を与える寄生性種子植物として扱われる。帰化植物であるアメリカネナシカズラも、近年は作物に害を与えるほど広まっている。
[斎藤 紀]