日本大百科全書(ニッポニカ)「棍棒」の解説
棍棒
こんぼう
打撃を加えることで対象物を殺傷するもっとも原始的な武具、狩猟具。東アジアの新石器時代にみられる環状石斧(せきふ)、朝鮮や日本の多頭環状石器、内モンゴル(中国)の多頭塊状石器もこれに属する。南米のアンデス地帯でも先史時代に、環状、星状の石を冠した棍棒が武器として用いられた。
現代諸民族の間でも広く分布し、形状も多様である。とくにオセアニアで発展を遂げた。ミクロネシアのギルバート諸島(キリバス)の棍棒は、硬木を剣状に削り、両側にサメの歯を埋め込んで、これをヤシ縄で固定している。またパラオ諸島で報告されているプロットとよばれる短棍棒は、握りが細く、六角柱の胴部に人面、シャコガイ、サメの歯などの彫刻が施されている。メラネシア地域でも木片を削ったものが一般的である。ニュー・カレドニアの棍棒は、握り部分が太く、頭部は鳥やキノコの形状をなしている。
これに比べニュー・ヘブリデス諸島(バヌアツ)のものは、長さも重さも増し、把握側の末端が段をなして膨らんでいる。これは、棍棒が手元を離れないように取り付けられた紐(ひも)が抜けるのを防ぐためのくふうである。片手で握れる短棍棒は、パプア・ニューギニア東部、ソロモン諸島に広がり、先史時代の遺物として触れた、環状、星状、パイナップル状の石がつく型は、パプア・ニューギニア北東部で知られている。このほか北米先住民(ネイティブ・アメリカン)のスー人の社会では、頭部にとげを植えた棍棒を、またアフリカでも先端にこぶのあるものを使っている。
さまざまな報告書によって、これらの棍棒が武具として用いられたことには疑いの余地がないが、他の用途がなかったわけではない。たとえば、アメリカ北西海岸のアザラシ猟、オヒョウの漁に従事する人々が、気絶したり、すでに突き刺された獲物にとどめを刺す目的で使用していることも知られているし、既述のニュー・カレドニアの鳥頭棍棒と同じ型のものは、農耕用の鋤(すき)として役だっているものもある。しかし、なにより装飾や形状に技巧を凝らしているものは、非日常的な性格が付随していると考えるべきである。ポリネシアのマオリ人のパトゥーと称せられる小型棍棒は、人間の頭部を打つ武具といわれている。しかし、まさかりのように扁平な打撃部分は、しばしば鳥や人間とマオリ特有の文様とが組み合わさった細かい彫刻で埋められ、実用具としてより、主権者のシンボルとして機能していた。また、パトゥーキとよばれる、やや長めで櫂(かい)の形状をもった棍棒も、儀礼的な踊りの場面で重要な役割を果たしている。このほかメラネシアでも、豚の儀礼との関連が指摘されているし、神話的宇宙観を表現した棍棒もみつかっている。
[関 雄二]