写・映(読み)うつす

精選版 日本国語大辞典 「写・映」の意味・読み・例文・類語

うつ・す【写・映】

〘他サ五(四)〙 (「移す」の意から転じたもの)
① 元の物に似せて別の物をつくる。
(イ) 文字、絵、図などを見て、それに似せ、またはそのとおりに別に書きとる。模写する。書き写す。〔新撰字鏡(898‐901頃)〕
日葡辞書(1603‐04)「ヒトノ カタチヲ vtçusu(ウツス)〈訳〉人をありのままにえがく」
(ロ) 実物の形にまねて作る。模造する。
※仏足石歌(753頃)「釈迦(さか)の御足跡(みあと)(いは)に宇都志(ウツシ)置き敬ひて後の仏に譲りまつらむ捧げまうさむ」
今昔(1120頃か)六「我は此、地蔵菩薩也。汝京城(みやこ)に有りし時、我が形像(ぎゃうざう)一躯を摸(うつ)したりき」
(ハ) 音、ことば、人の性格、物事の状態ややり方などをもとのものとそっくりにあらわす。模倣する。まなぶ。
源氏(1001‐14頃)乙女「節会の日、内の儀式をうつして、昔のためしよりも事そへて、いつかしき御有様なり」
※十訓抄(1252)一〇「水の底に琴をひく音あり。師涓と云ふ人を召して、此声を琴の音にうつし給ふ」
② 見聞したり考えたりした物事を、絵や文章にかく。描写する。
※今昔(1120頃か)二五「高名の絵師有り、物の形を写す、少も違(たが)ふ事无(な)かりけり」
小説神髄(1885‐86)〈坪内逍遙〉上「世の人情と風俗をば写(ウツ)すを以て主脳となし」
③ 写真や映画にとる。撮影する。
※安愚楽鍋(1871‐72)〈仮名垣魯文〉二「むかふの写真屋〈略〉げいしゃとも七人いちどにガラス一枚へうつさして」
※春泥(1928)〈久保田万太郎〉夕焼雲「活動をうつしに来たんだ、活動を」
④ (映) 物の影や光などが他の物の上に現われるようにする。
(イ) 鏡、水、障子などに姿や影が現われるようにする。
※宇津保(970‐999頃)春日詣「とほき山は、雪のみねをうつす」
※拾遺(1005‐07頃か)秋・二〇三「水うみに秋の山べをうつしてははたはり広き錦とぞみる〈観教〉」
(ロ) 映画、スライドなどで、映像がスクリーンに現われるようにする。映写する。
邪宗門(1909)〈北原白秋〉魔睡・邪宗門秘曲「かの美(は)しき越歴機(えれき)の夢は天鵞絨(びろうど)の薫(くゆり)にまじり、珍らなる月の世界の鳥獣映像(ウツ)すと聞けり」

うつし【写・映】

〘名〙 (動詞「うつす(写)」の連用形の名詞化)
書画などを見て、それに似せ、またはそのとおりに別に書きとること。模写。また、その書画。
※今鏡(1170)五「朝隆の中納言は、行成の大納言消息、ゆゆしくうつしにせられたるとぞ聞え侍める」
② 書類などの控えとして、そのとおりに書きとった、または、器械で複製した文書。謄本。副本
※西国立志編(1870‐71)〈中村正直訳〉四「久しくこれを学びたれば、この謄本(〈注〉ウツシ)を読ましめたり」
③ もとになるものに似せて、それとそっくりに作ること。また、その物。
※どちりなきりしたん(一六〇〇年版)(1600)七「ゆへいかんとなれば人はみなでうすの御うつしにつくり玉へばなり」
④ (人名などの下に付けて) その人のことば、態度、やり方などを、まねてすること。
※末枯(1917)〈久保田万太郎〉「はじめのうちは、柳朝うつしの人情噺(ばなし)のたんねんのところが評判になったが」
⑤ 写真や映画にとること。また、映画などで、映像がスクリーンに現われるようにすること。「二重うつし」「大うつし」などのように造語要素として使う場合が多い。
⑥ 「うつしぞめ(写染)」の略。

うつり【写・映】

〘名〙 (動詞「うつる(写)」の連用形の名詞化)
① 物の姿や影などが他の物の上に現われること。また、その現われぐあい。「うつりのいい鏡」
② 光が当たって照り輝くこと。また、その光。
※浮世草子・好色一代男(1682)二「あかねさす日のうつりを見て、夜があけたと思ひ」
③ 物事のつりあい。また、色と色との取り合わせ。調和。配合。
※浄瑠璃・聖徳太子絵伝記(1717)一「南天の心、正真の紫苑(しをん)、龍胆(りんどう)のあしらい。胴に伊吹のうつりのよさ」
※二人女房(1891‐92)〈尾崎紅葉〉中「容色(きりゃう)の揃はない夫婦は照応(ウツリ)が悪いと」
④ 写真、テレビ、映画などで、映像が現われること。また、その現われぐあい。
※雪中梅(1886)〈末広鉄腸〉下「写真の写りが悪いせいか」
⑤ 下の文字や絵が、紙などを通してすけて見えること。「うつりのよい紙」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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