事無(読み)ことなし

精選版 日本国語大辞典 「事無」の意味・読み・例文・類語

こと‐な・し【事無】

〘形ク〙
支障波乱心配事、変事などが起こらない。何事もない。平穏無事である。
万葉(8C後)七・一三二八「膝に伏す玉の小琴の事無(ことなく)はいたくここだくあれ恋ひめやも」
② 心の中に、こだわりや心労がない。
源氏(1001‐14頃)若菜上「事にふれて心ぐるしき御けしきの、したにはおのづから洩りつつ見ゆるを、ことなく消ち給へるも、ありがたくあはれにおぼさる」
③ これといってなす事もない。大した用事もない。無為である。
落窪(10C後)一「帯刀(たちはき)捕へて、『雨ふる夜なめり。一人な寝そといひつれば、いざ給へ』といへば、女わらひて『そよ』と『ことなかり』といへど」
④ 困難や面倒がない。たやすい事である。
徒然草(1331頃)一八九「わづらはしかりつる事はことなくて、やすかるべき事はいと心ぐるし」
⑤ 非難すべき点がない。欠点がない。非のうちどころがない。→事もなし
※万葉(8C後)一一・二七五七「大君の御笠に縫へるありま菅ありつつみれど事無(ことなき)吾妹(わぎも)

こと‐なし【事無】

〘名〙 (形動)
① 何事も用事がないこと。なすこともなく過ごすこと。無為。
※後撰(951‐953頃)夏・二〇〇「常夏の花をだに見ばことなしにすぐす月日も短かりなん〈よみ人しらず〉」
男女近くにいながらまじわりを交わさないこと。
※源氏(1001‐14頃)須磨「ことなしにて過ぐしつる年ごろもくやしう」

ことなしび【事無】

〘名〙 何でもない様子をすること。なにげないふりをすること。
※後撰(951‐953頃)雑三・一二二五・詞書「まうできたりけるを、程へて後にことなしびにこと人に名たつとききしは誠なりけりといへりければ」

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