日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ルメートル(ベルギーの数学者、宇宙物理学者)
るめーとる
Abbé Georges Édouard Lemaître
(1894―1966)
ベルギーの数学者、宇宙物理学者、カトリックの司祭。シャルルロアで生まれる。1911年にルーフェン(ルーバン)・カトリック大学に入学するが第一次世界大戦中は陸軍に志願し兵役につく。戦後、復学して物理と数学を学び、1920年に数学で博士号を取得。神学校に入学し、1923年に司祭に叙される。1923年より1925年までケンブリッジ大学、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学へ留学。1925年にベルギーに戻り、ルーフェン(ルーバン)・カトリック大学の講師になり、1927年天体物理学教授になる。1936年、ローマ教皇庁立科学アカデミー(Pontifical Academy of Sciences)の会員に選出。1934年ベルギーで科学分野の功績に与えられるフランキ賞を受賞。1953年にはイギリス王立天文学会のエディントン・メダルの最初の受賞者となる。
最大の功績は一般相対性理論に基づく宇宙膨張モデルを提唱し、フリードマンとともにビッグ・バン宇宙論を創始したことである。1927年に発表したフランス語の論文ではじめて膨張する宇宙というアイデアを論じた。その後1931年にこの論文は英語に翻訳され、その際に「創生の瞬間に宇宙卵(Cosmic Egg)が爆発した」という表現でビッグ・バンを表した。彼の予想した膨張する宇宙は、1965年に宇宙背景放射として観測され、実証された。
近年(2011年)、1931年に発表された英訳には、1927年に発表した論文にあった「銀河の赤方偏移と距離のデータからハッブル定数を求めた部分」が削除されていたことが判明した。削除された経緯を調べた結果、英訳する段階でルメートル自身が、1929年に発表されたハッブルの論文に記載された内容と同じことを再掲する必要はない、と判断したことがわかった。このことから、現在、「ハッブルの法則」として知られている法則を、ルメートルがハッブルの発見より2年も早く見出していたことが判明した。これらのことから、2018年10月の第30回国際天文学連合総会で「宇宙の膨張を表す法則は今後『ハッブル-ルメートルの法則』とよぶことを推奨する」という決議がなされた。
[編集部 2023年6月19日]