マツ材線虫病(読み)まつざいせんちゅうびょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マツ材線虫病」の意味・わかりやすい解説

マツ材線虫病
まつざいせんちゅうびょう

8~10月にマツ樹冠の針葉全体が急速に水分を失って赤褐色となり枯死する萎凋(いちょう)性の病気。従来は松くい虫と総称される昆虫類の食害といわれていたが、1970年(昭和45)に真の病原マツノザイセンチュウという線虫の一種であることが明らかにされた。マツノザイセンチュウは、枯死木中で越冬後6月に羽化するマツノマダラカミキリ成虫の体に入って伝播(でんぱ)される。マツノマダラカミキリが、健全なマツの樹冠上で食害する間に、線虫はカミキリの体から出て、食害痕(こん)からマツ樹体内に侵入する。線虫の侵入加害によって枯死したマツには媒介昆虫であるマツノマダラカミキリが集中産卵し翌年の伝染源となる。

 過去の被害発生記録や海外での分布などから、本病は明治時代に北アメリカから持ち込まれた導入病害との見方が強い。日本のアカマツクロマツリュウキュウマツは本病に非常に弱いが、第二次世界大戦後の徹底した駆除により被害はいったん減少した。ところが燃料革命によって薪炭の需要が減少し枯損マツ樹(伝染源)が放置されるようになったため、1970年代以降ふたたび流行病的に広がり、広域的なマツ林の壊滅林野荒廃を招き、社会問題となっている。

 防除には伝染期の6、7月に空または地上からマツ樹冠に薬剤を予防散布するのがよい。被害木駆除には剥皮(はくひ)焼却、薬剤散布、チップ化、炭化ガス燻蒸(くんじょう)などの処理があり、単木予防法として薬剤の樹幹注入や土壌処理がある。抵抗性のマツの選抜と検定による抵抗性育種の研究と事業化が進み、アカマツ、クロマツあわせて100個体余りの抵抗性マツ選抜クローンの接木(つぎき)増殖による採種園造成が行われ、抵抗性マツ苗木の供給が開始されている。また中国産の馬尾松(ばびしょう)とクロマツの交配から抵抗性の和華松(わかまつ)が生まれ、各地で植栽されている。

[小林享夫]

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