日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒヒ」の意味・わかりやすい解説
ヒヒ
ひひ / 狒々
baboon
哺乳(ほにゅう)綱霊長目オナガザル科のうち、サハラ砂漠以南のアフリカ全域とアラビア半島の一部に分布するヒヒ属とゲラダヒヒ属に含まれる動物の総称。日本語の狒々は年を経た大きなサルを意味する語で、のちにアフリカ産のヒヒにあてられたものであろう。ヒヒ属Papioのうち、ギニアヒヒP. papio、ドグエラヒヒP. anubis、キイロヒヒP. cynocephalus、チャクマヒヒP. ursinusの4種はサバンナ性で、森林地帯を除く全域を四分して分布し、森林性のマンドリルP. sphinxとドリルP. leucophaeusはカメルーン、ガボン、コンゴの多雨林に、マントヒヒP. hamadryasはエチオピアとアラビア半島の半砂漠に、ゲラダヒヒ属TheropithecusのゲラダヒヒT. geladaはエチオピアの高地草原にすんでいる。サバンナ性の4種を一括してサバンナヒヒとよんで1種P. cynocephalusとする考えや、森林性の2種をマンドリル属Mandrillusとしてヒヒ属から独立させる考え方もある。
オナガザル科のなかでは大形のサルで、雄は体長70~80センチメートル、体重20~30キログラムに達し、がっしりとした体格をもつが、性差が著しく、雌は小形である。森林性の2種の尾は短く、10センチメートル程度であるが、他は体長の80%程度の尾をもつ。いずれも鼻口部が突出し、独特の顔つきをもつ。地上性の傾向が強く、とくにサバンナ性の種の生態は、初期人類の生活を考える場合重要視される。ヒトの進化において、サバンナへの適応が重要な意味をもつと考えられるからである。またマントヒヒとゲラダヒヒは、基本的社会単位の上位、下位にも集団構造が認められ、ヒト以外の霊長類ではまれな重層社会をもつ点で注目される。
[川中健二]