ハイトラー(読み)はいとらー(英語表記)Walter Heitler

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハイトラー」の意味・わかりやすい解説

ハイトラー
はいとらー
Walter Heitler
(1904―1981)

ドイツ物理学者カールスルーエ生まれ。ベルリン大学、ミュンヘン大学で学び、1929年からゲッティンゲン大学私講師。ナチスに追われてイギリスに渡り、1933年からブリストル大学で研究した。1945年ダブリン大学教授、1949年チューリヒ大学教授となる。おもな研究は、量子化学荷電粒子制動放射量子論中間子論宇宙線などの分野である。原子が結合して分子をつくる力を解明するため、1927年にF・ロンドンと、構造が判明してきた水素分子量子力学を適用し、化学結合の量子理論の基礎を確立。こうしてアボガドロの分子仮説以来の課題が基本的解決をみた。1948年よりロンドン王立協会会員。

[藤井寛治]

『ハイトラー著、沢田克郎訳『輻射の量子論』上下(1958/オンデマンド版・2000・吉岡書房)』『ハイトラー著、杉田元宜訳『思索と遍歴 科学と哲学の接点に立って』(1975・共立出版)』

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改訂新版 世界大百科事典 「ハイトラー」の意味・わかりやすい解説

ハイトラー
Walter Heitler
生没年:1904-81

ドイツ生れの理論物理学者。カールスルーエ工科大学,ベルリン大学で学んだ後,ミュンヘンのA.J.ゾンマーフェルトの指導を受け,さらにN.ボーア,M.ボルンの下で研究をした。1929年ゲッティンゲン大学の私講師となるが,その後ナチスの台頭によってドイツを追われ,ブリストル大学研究員,ダブリンの高等学術研究所教授を経て,49年以後チューリヒ大学教授を務める。量子力学の基礎が確立された後,1927年,F.ロンドンとともに水素分子の化学結合を量子力学的に解明した(ハイトラー=ロンドンの理論)。このほかにも量子力学的な方法を放射と宇宙線に適用し,そのシャワー現象を彼のカスケード理論で解釈することにも成功しており,また核力や中間子論の研究も行っている。《放射の量子論》(1936)のほか,晩年には《科学と人間》《思索遍歴》などの自然哲学に関する著作もある。53年京都で開かれた国際理論物理学会に来日している。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハイトラー」の意味・わかりやすい解説

ハイトラー
Heitler, Walter Heinrich

[生]1904.1.2. カルルスルーエ
[没]1981.11.15. チューリヒ
ドイツの理論物理学者。カルルスルーエ,ベルリン,ミュンヘンの各大学で学び,A.ゾンマーフェルトに師事。ゲッティンゲン大学私講師をつとめた (1927~33) が,ナチスに追われてアイルランドに渡り,ダブリンの高等研究所教授となり,同研究所所長 (46~49) ,チューリヒ大学教授 (49) 。 1927年 F.ロンドンとともに水素分子の結合エネルギーを量子力学によって計算したが,これはハイトラー=ロンドンの理論として著名である。引続いて化学結合について多くの研究を行なった。ほかに荷電粒子の制動放射の理論,宇宙線におけるカスケードシャワーの理論,中間子論などについての研究がある。

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百科事典マイペディア 「ハイトラー」の意味・わかりやすい解説

ハイトラー

ドイツの物理学者。ユダヤ系。ミュンヘン大学でゾンマーフェルトに学ぶ。ナチスに追われて渡英,ダブリンの高等学術研究所教授を経て,1949年スイスのチューリヒ大学教授。F.ロンドンと協力し量子力学に基づく水素分子の化学結合の理論(ハイトラー・ロンドンの理論)を展開(1927年)。他に宇宙線,場の量子論,中間子論等の研究がある。

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367日誕生日大事典 「ハイトラー」の解説

ハイトラー

生年月日:1904年1月2日
ドイツの理論物理学者
1981年没

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世界大百科事典(旧版)内のハイトラーの言及

【化学結合】より

…水素原子の電子軌道はHeと同様2個の電子で安定な配置になるので,2個の原子が1個ずつの電子を出し合って共有することによって結合が形成される。このことを量子論を用いて定式化したのはハイトラーWalter Heitler(1904‐81)とロンドンFritz London(1900‐54)である(1927)。いま2個の水素原子をa,b,電子を1,2と記号づけ,水素原子aの電子軌道の波動関数をψaと表し,1番の電子がこの軌道にあるときψa(1)のように記す。…

【原子価結合法】より

…電子のこのような波動性は波動関数によって説明される。1927年,ハイトラーWalter Heitler(1904‐81)とロンドンFritz London(1900‐54)は,波動関数を用いて水素分子の結合機構を明らかにした。これが原子価結合法と呼ばれるもので,VB法と略称される。…

【化学結合】より

…水素原子の電子軌道はHeと同様2個の電子で安定な配置になるので,2個の原子が1個ずつの電子を出し合って共有することによって結合が形成される。このことを量子論を用いて定式化したのはハイトラーWalter Heitler(1904‐81)とロンドンFritz London(1900‐54)である(1927)。いま2個の水素原子をa,b,電子を1,2と記号づけ,水素原子aの電子軌道の波動関数をψaと表し,1番の電子がこの軌道にあるときψa(1)のように記す。…

【原子価結合法】より

…電子のこのような波動性は波動関数によって説明される。1927年,ハイトラーWalter Heitler(1904‐81)とロンドンFritz London(1900‐54)は,波動関数を用いて水素分子の結合機構を明らかにした。これが原子価結合法と呼ばれるもので,VB法と略称される。…

※「ハイトラー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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