ナラ王物語(読み)ナラおうものがたり

改訂新版 世界大百科事典 「ナラ王物語」の意味・わかりやすい解説

ナラ王物語 (ナラおうものがたり)

古代インドの叙事詩マハーバーラタ》(第3巻50~78章)に語られる美しい夫婦愛の物語。サンスクリット原名は《ナローパーキャーナNalopākhyāna》。もと,叙事詩第3巻は王国を追われた悲運の王子の森林生活を描くため,一時的に不幸に襲われても必ず最後に幸福が訪れる古譚を語って,仙人たちが王子を激励する物語が繰り返され,ナラ王物語もこの種の物語の一環をなすが,内容の興味と描写の美しさから,つとにインドの内外で愛好されている。若くして武術に令名を馳せた美貌の王子ナラ王と隣国王女ダマヤンティーは,ハンサ鳥の取りもつ縁で相思相愛の間がらとなり,神々の試練を経てめでたく結婚し,1男1女をもうける。しかるに賭博悪魔カリに取り憑かれ,弟のプシュカラとの賭博に敗れて王位を追われ,愛妻とともに山野を流浪する。妻の行末を案じたナラ王は彼女を生家に帰らせるため一大決心をして,あえて彼女を捨て,二人はそれより離れ離れになって艱難辛苦の4年を過ごす。ダマヤンティーは,素姓を隠してある宮廷侍女となり,ナラ王は醜い男に変身させられて,別の宮廷に馬丁となるが,気丈な妻のひたすらの探索の結果,両人は再び結ばれてもとの王位を回復し,幸せになる。花鳥を交えたインドの風物詩を背景に,神々,仙人,悪魔,蛇などが登場し,王女の婿選び儀式,悪魔の乗移り,蛇の呪力による変身など,往時の風俗,習慣,俗信を織りまぜた,美しい愛情物語の佳編である。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ナラ王物語」の意味・わかりやすい解説

ナラ王物語
ナラおうものがたり
Nalopākhyāna

古代インドの物語。サンスクリット大叙事詩『マハーバーラタ』に含まれる一編。ニシャダ国王ナラと妃ダマヤンティーの数奇に満ちた運命を描いた物語で,『マハーバーラタ』のなかでも特に有名な挿話の一つ。

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