ナツミカン(読み)なつみかん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナツミカン」の意味・わかりやすい解説

ナツミカン
なつみかん / 夏蜜柑
[学] Citrus natsudaidai Hayata

ミカン科(APG分類:ミカン科)の常緑小高木。別名をナツダイダイ(夏橙)、ナツカン(夏柑)ともいう。江戸中期(1700ころ)に、山口県仙崎の海岸(現在の長門市仙崎大日比(おおひび))に漂着した果実の種子を播(ま)いて得られたものといわれ、原木1本が現存している。文化(ぶんか)年間(1804~1818)には萩(はぎ)地方に伝わった。秋に熟した果実は酸味が強く、食酢として利用するか子供の玩具(がんぐ)にしかならず、あまり普及しなかったが、1877年(明治10)には「児玉蜜柑(こだまみかん)」として発表され、晩生柑橘(おくてかんきつ)として普及した。

 樹勢が強く、枝は開張性で枝張りが強く大木となる。葉は楕円(だえん)状披針(ひしん)形で長さ10センチメートル、幅5センチメートル内外、翼葉はほとんどない。花は頂生または葉腋(ようえき)につき、主として単生する。花径約3センチメートル、花弁は白色で5枚、雌しべ1本、雄しべ30本内外。果実は扁球(へんきゅう)形で400~500グラム、果面は粗く橙黄(とうこう)色で、果皮は7~8ミリメートルでややむきにくい。袋は11~13あり、果肉はやや粗くて硬く、配糖体の一種ナリンジンを含み、すこし苦味がある。酸味は強いがさわやかな味が親しまれる。種子は20~30、胚(はい)は多胚で白色から淡緑色である。氷点下の低温にあうと果肉の一部が脱水褐色化する「すあがり現象」をおこし、苦味も増し、落果も増える。耐寒性は温州(うんしゅう)ミカンより劣り、よい品質の果実を生産する適地は限られ、愛媛、熊本、和歌山、鹿児島、静岡県などの暖地で生産される。

 ナツミカンには突然変異によって枝の一部の性質が変わる枝がわりが多くみられる。昭和10年ころ、大分県津久見(つくみ)市で発見されたカワノナツダイダイ(川野夏橙、甘夏ともよばれる)も枝がわりによる品種で、果実はやや小さいが早生(わせ)で甘く、1950年(昭和25)に種苗名称登録された。酸の強い普通系のナツミカンにかわり、急激に増えた。このカワノナツダイダイからはさらに多くの枝がわりを生じ、なかでも果面の美しいニューセブン(新甘夏)、立花(たちばな)オレンジ、果皮が紅橙(こうとう)色で糖度の高まったベニアマナツ(紅甘夏)などが登録された。これらのほか普通系からの枝がわり細辺夏橙(ほそべなつだいだい)、種子の少ない山路夏橙(やまじなつだいだい)、種なしの土屋無核夏橙(つちやむかくなつだいだい)などが知られ、サンフルーツの名で売られている。2015年(平成27)の栽培面積は1725ヘクタール、収穫量は3万6500トン。

[飯塚宗夫 2020年10月16日]

食品

果実はビタミンCに富み、多量のクエン酸を含む。生食のほか、ジュース、スカッシュ、ゼリーなどに加工され、缶詰、瓶詰にされる。また、果実酒もつくられる。袋から出した果肉を重曹で中和し、砂糖とウイスキーをかけて食べるのも美味である。皮は可溶性ペクチンに富むのでマーマレードに加工し、糖菓として食べる。皮の厚いことを利用して果肉を取り除き、フルーツバスケットなどにもされる。若い果実や落果をクエン酸原料とする。

[飯塚宗夫 2020年10月16日]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「ナツミカン」の意味・わかりやすい解説

ナツミカン (夏蜜柑)
Citrus natsudaidai Hayata

春から初夏に消費される爽快な味のかんきつ類。山口県の萩の武家屋敷の庭先栽培が普及の発端。ナツカン(夏柑),ナツダイダイ(夏橙)ともいう。甘夏はその一系統群。高さ3mあまりになる常緑果樹で,枝にはとげがほとんどない。葉は比較的小さく,翼葉も小さい。果実は黄橙色,扁球形,300~400g。果面は粗く,不明りょうな凹環がある。室は11~13。瓤囊(じようのう)はやや硬い。ナリンギンnaringinを含み少し苦い。凍結すると苦みを増すうえ,す上がりを起こす。ブンタンの血をひく自然雑種(タンゼロ)から起源したと考えられる。ナツミカンの基本になった普通夏は18世紀初頭,現山口県長門市仙崎(青海島)の海岸に漂着した果実を拾ってその種子をまいたものが原木で,現存する。江戸時代には,すっぱいので子どもの玩具や食酢に代用されたが,夏に食べておいしいことが発見されて以来,栽培が広がった。とくに,明治時代に禄をはなれた武士の救済策としてその栽培が奨励された。

 次のような普通夏から突然変異で生じたいくつかの系統がある。(1)甘夏 普通夏に比べ酸濃度が1~2%低く1.5%ほどだが,糖分は同程度。外観では普通夏と判別できない。一般に甘夏と呼ばれている川野なつだいだいのほか,果面が滑らかなもの(新甘夏。ニューセブン,立花オレンジ,甘夏つるみともいう),果面の橙色が濃いもの(紅甘夏),果皮色素がいっそう紅色に変異したもの(サマーレッドなど)がある。(2)晩夏(おそなつ) 夏までに果実に緑色が残り,す上がりしにくい系統(田島晩夏)。(3)無核夏 種子がないもの(土屋系,山路系)。

 甘夏は昭和の初期,大分県津久見市の川野豊の果樹園で発見された。原木は80年生余で現存。昭和40年代に甘夏生産量が急増するに伴い,前述のような新系統が発見されている。日本での生産量は1955年に10万t,65年に20万t,69年に30万tをこえたが,85年以降30万tを割り,95年には11万tにまで下がった。75年まで普通夏が多かったが,76年以降甘夏の生産量が多くなった。大部分は生食用となるが,約2万tが果汁にされ,ウンシュウミカン果汁の風味改善に利用される。一部は缶詰にされる。マーマレードにもよい。果皮は健胃生薬になる。ナツミカン風呂は血行をよくし,疲労回復に効く。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

栄養・生化学辞典 「ナツミカン」の解説

ナツミカン

 →ナツダイダイ

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のナツミカンの言及

【かんきつ類(柑橘類)】より

… ミカン類はその利用を中心に熟期(可食期)による分類,産業的重要度による分類,用途による分類もされる。熟期ではウンシュウミカン(以下ウンシュウ)のように秋から正月ころに食用にされる早生種,ハッサクのように2月から4月ころに食用にされる中生種,ナツミカンのように4月以降に食用にされる晩生種と3群に大別される。しかし,早生種のウンシュウやネーブルオレンジ(以下ネーブル)でも3~4月ころまで貯蔵して出荷されることがある。…

※「ナツミカン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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