果物(読み)くだもの

日本大百科全書(ニッポニカ) 「果物」の意味・わかりやすい解説

果物
くだもの

広義では木や草の果実食用となるものの総称である。狭義では「木の物」、つまり「木のなり物」の意で、木本性植物の果実で食用となるものをいう。慣用的には「木のなり物」と、草本性植物のバナナやパイナップルなどのほか、園芸上は蔬菜(そさい)として扱われるメロン、スイカ、イチゴなども含む。

[飯塚宗夫]

分類

果物は花の一部が成長、発達し変化してできたもので、発生的にみると、食用となる部分は果物の種類によって異なる。成長に伴う花から果実への変化は、一般に花柄(かへい)は果柄になり、花弁や雄しべ、雌しべの柱頭や花柱などは結実後に落下する。萼(がく)は落下するものと残存するものがある。雌しべの基部の子房や花柄の先端の花托(かたく)が果実となる。子房の中に胚珠(はいしゅ)があり、胚珠は卵細胞と極核をもち、これらは、受粉により花粉管によって送り込まれる二つの精核とそれぞれ受精し、発育して種子となる。この種子の成長に伴って子房壁が肥厚し食用となる果実を真果といい、モモ、スモモ、アンズ、ウメ、カキ、ブドウ、柑橘(かんきつ)類などがこの類に入る。これらのうち、モモ、スモモ、アンズ、ウメなどは、子房の中果皮が肥厚して食用となり、内果皮は成長につれて硬化し、堅い核をつくり、その中の種子を保護している。カキやブドウでは中果皮と内果皮が肥厚して食用部となる。柑橘類では、中果皮は綿状で、内果皮から生じた毛に液をためて食用となる。花托が肥厚して果実となったものを偽果(ぎか)といい、リンゴ、ナシ、ビワ、イチジクなどはこの類に入る。

 見かけ上の状態によって果物を分類する呼び方に乾果(かんか)と液果(えきか)がある。乾果は乾燥状態にある果実で、クリ、クルミなどがある。液果は果肉に水分を多く含むもので、ブドウ、ミカン、モモなど多肉果を総称する場合と、中果皮が多肉化したブドウなどをとくにさす場合とがある。

 果物のなかには、種子のあるものとないものがある。無種子性は、胚が発育することなく子房が肥厚してできる果実にみられ、このような果実の発育現象を単為結実(単為結果)とよんでいる。温州(うんしゅう)ミカン、カキのヒラタネナシ、ブドウのトムソンシードレス、種子(たね)なしのバナナなどがある。単為結実をおこす原因は異なっていても、いずれも遺伝的形質として種子なし果実を生じるので、利用の立場としては好都合である。これに対し、種子なしデラウェア、種子なしスイカ、一部の種子なしナツミカンなどは、それぞれがもっている単為結実性を利用して、人為的に種子なし果実を誘発させたものである。受粉、受精をしないで発育する果実には、まれではあるが種子を含み、その種子が半数性胚(染色体数が普通の半分)をもっていることがある。半数性胚から発育する個体は、その染色体を倍加することによって、純粋の二倍性個体が得られ、育種上貴ばれる。

[飯塚宗夫]

歴史のなかの果物

中国の歴史のなかで果物の利用はきわめて古く、原始的な農耕が行われていた新石器時代に、生食ばかりでなく、加工品としてジャムや酸梅(ソワンメイ)(烏梅(うばい))の利用が行われていた。上古には、黄河流域に五果(桃(タオ)、梨(リー)、梅(メイ)、杏(シン)、棗(ツァオ))のほかにカキ、クリ、ハシバミなどの栽培が進み、果物の利用は広まった。秦(しん)のころには北方に香瓜(シャンコワ)(メロン)、白菓(パイクオ)(ぎんなん)、榧子(フェイツ)(カヤの実)、棗(ナツメ)、獼猴桃(ミーホウタウ)(中国のサルナシ)、梨(ナシ)、桃(モモ)などが、南方では柑橘類、竜眼(りゅうがん)などがあった。『詩経(しきょう)』『爾雅(じが)』『山海経(せんがいきょう)』を経て『斉民要術(せいみんようじゅつ)』(6世紀前半)が出るころには、中国産の果樹はほとんど記述されており、果物の利用の広さがうかがわれる。これに続き唐の時代に入ると、南北果樹の交換も盛んになった。玄宗皇帝(685―762)は、楊貴妃(ようきひ)のために広東(カントン)から西安(せいあん/シーアン)に茘枝(レイシ)を早馬で運ばせて賞味させたという。中国で発達したこれらの果物が日本へ影響したことはいうまでもない。

 ヨーロッパの果物は神話に始まる。イチジクはアダムとイブの神話にも現れ、ローマの創始者といわれるロムルスとレムスのかくまわれていた洞穴はイチジクに覆われていたという。ローマ人は、古来イチジクを繁栄の象徴として古くから栽培し、生食ばかりでなく、乾燥果実として、またジャムとして利用してきた。ブドウも歴史は古く、生食のほか、ぶどう酒としてキリスト教に生彩を添えた。ザクロの果実はセム人にとって多産の象徴として貴ばれた。このように小アジアから近東、地中海にかけては、多くの果物が信仰とかかわりをもって発展した。

 熱帯の果物は個性豊かで、東南アジアの果物は早くからヨーロッパに伝えられた。バナナは、紀元前326年アレクサンドロス大王がインド攻略の際に初めて食べたのを機会に、地中海地域で栽培が始められたという。パンノキがイギリスのキャプテン・ブライによって、バウンティ号の反乱(1789)を経て苦難のすえ、タヒチから西インド諸島小アンティル諸島のセント・ビンセント島に導入されたのは1793年のことで、その後、この島の人々の重要な食糧となっている。アメリカ大陸との交流が盛んになってからは、熱帯アメリカのパイナップル、パパイヤ、カカオなども、既存のココヤシ、バナナ、レモン、オレンジなどとともに需要が拡大し、今日の企業的大農場の発展にあずかった。

 日本の果物の利用の歴史も古く、クリ、カヤ、クルミ、ナシ、ヤマブドウ、アケビ、グミ、キイチゴなど地域的に多くの種類が利用されたものと推測され、それらの一部は縄文時代の貝塚から出土している。しかし、よりよいものを大陸に求めていた。『日本書紀』によれば、垂仁(すいにん)天皇は田道間守(たじまもり)を常世国(とこよのくに)に遣わし、非時(ときじく)の香菓(かくのみ)(橘(たちばな))を求めさせたとある。奈良朝から平安朝前期にかけては、果物を菓子とよび嗜好(しこう)品的色彩が強かったが、クリやドングリなどの堅果(けんか)は救荒果実として重んじられた。平安朝初期に菓子の製法が伝わり、普及してくるにつれて、果物は「なりもの」、菓子は「唐菓子(からくだもの)」とよばれた。

 奈良時代から柑橘類が普及し始め、鎌倉時代になるとユズ、ユコウ、キンカン、ザクロなどが普及してきた。1186年(文治2)にみいだされた甲州ブドウは室町時代になると栽培も著しく進み、柑橘類ではコミカンが紀州(和歌山県)で栽培されていた。安土(あづち)桃山時代にはマルメロやスイカも導入された。江戸時代にはブッシュカンのような導入果樹だけでなく、ナツミカンのような国産果物も多く加わってきた。水菓子が果物を意味したのもこの時代で、果に菓をあてたのは明治の初めまで続いた。明治になって北海道開拓使などによって導入された多くの果樹のなかにリンゴやセイヨウナシなどがある。近年、ビタミン補給源としての果物の再検討、加えてより多彩なものへの嗜好も手伝って、キウイフルーツやブルーベリーも生産され、アボカド、マンゴー、ドリアン、マメイサポテなど、熱帯の果物も輸入され、食生活を豊かにしている。

[飯塚宗夫]

食味と栄養

食味の表現はむずかしいが、一般に甘味(糖の種類と濃度)と酸味(酸の種類と濃度)を主因とし、それに渋味(タンニンの作用)、果肉の舌ざわり(堅さ、ペクチン、石細胞の状態など)、香りなどの要素が加わり、そのうえ心理的な要因となる果色や果形なども影響し、総合されて食味となる。たとえば、他の条件はよくそろっていても、血の滴るような色の果肉や果汁のオレンジやミカンは食味をそぎ、需要の減少から血色系品種はなくなりつつある。食味を構成する諸成分は熟度によって変化するが、多くは樹上での完熟時が最高である。しかし、マンゴー、アボカド、バンレイシ、西洋ナシ、メロンなどのように、収穫後数日間の後熟によって初めて肉質、香り、甘味、酸味などが最高になるものもある。通常は過熟や収穫後の日だちで、諸成分が減少し、果肉にぼけ現象がおき食味が著しく低下する。このような貯蔵ぼけを防ぐには、果温を下げ、果内呼吸を抑えるのがよく、貯蔵庫内のガス組成を変えて低温貯蔵をするCA貯蔵法controlled atmosphereがもっとも有効であるとされている。

 栄養的に果物をみると、ビタミン補給源としてもっとも重要である。なかでも、柑橘類はビタミンCの含有量が多く、一般に果肉100グラム中に30~60ミリグラムを含む。イチゴ、カキ、パイナップル、パパイヤ、グアバ、キウイフルーツなどもビタミンCが多い。オレンジ色の強い果肉をもつ果物は、プロビタミンAであるカロチンを含み、ビタミンA効力は高い。カロチンを多く含んでいる果物には、マンゴー(100グラムあたり1600マイクログラム)、パッションフルーツ(1400マイクログラム)、アンズ(1000マイクログラム)などがある。果物は、ビタミンAやCに比してB1、B2、ニコチン酸などの含有量は少ない。また、無機質としてカルシウム、リン、鉄なども少量含んでいる。糖分は柑橘類で果肉100グラム中10グラム内外、その他では12グラム内外をもつ。多くの果物は、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸など有機酸類をもち、糖と調和し爽快(そうかい)な食味を出す。また食べる温度も食味を左右するが、10℃前後がよいといわれ、高温は甘味感覚を、低温は酸味感覚を助長する。

[飯塚宗夫]

利用

果物の利用は、種類により地方によってさまざまである。生食のほか乾燥果実の利用も多いが、堅果では菓子などに加工して利用するものが多い。液果は、ジュース、ジャム、プリザーブ、シロップ漬け、シャーベットなどに用い、柑橘類の果皮はマーマレード原料となる。また、多くの果実をアルコール飲料に漬けて果実酒をつくり、また果実そのものを発酵材料としてアルコール飲料をつくる。若い果実はピクルス用としたり、野菜的な利用法もされる。アボカド、ライム、ベルガモットなどは精油原料ともなる。

[飯塚宗夫]


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精選版 日本国語大辞典 「果物」の意味・読み・例文・類語

く‐だ‐もの【果物】

〘名〙 (「く」は木、「だ」は「けだもの」の「だ」と同じく「の」の意)
① 木や草になる食用の果実。水菓子。〔十巻本和名抄(934頃)〕
※虎寛本狂言・栗焼(室町末‐近世初)「『夫成らばくだ物のたぐひでは御座らぬか』『夫もいふて見よ』『只今時分の事で御ざるに依て、なしか柿などでは御座らぬか』」
② 女房詞で特に柑子(こうじ)や蜜柑をいう。〔禁裡女房内々記(1772か)〕
③ 菓子。間食用の食物。
※古今著聞集(1254)一八「御くだ物を参らせられたりけるに、をこし米をとらせ給て」
④ 酒のさかな。
蜻蛉(974頃)下「その蓋に酒、くだものといれて出す」

か‐ぶつ クヮ‥【果物】

〘名〙 くだもの。なりもの。
※米欧回覧実記(1877)〈久米邦武〉一「往来の回廊には商賈を縦(ゆる)し、果物器翫彩影新聞紙等を肆(つら)ねて店をはる」

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百科事典マイペディア 「果物」の意味・わかりやすい解説

果物【くだもの】

樹木につく果実で食用となるもの。その樹木は果樹という。〈木のなり物〉の意だが,メロン,スイカ,イチゴなど草本につく果実も広義に果物とされる。大部分の果物は水分が多くカロリーは低いが,ビタミン,ミネラル,繊維素などは比較的多い。世界で生産量の多い果物はブドウ,かんきつ類,バナナ,リンゴで,それぞれ温帯,亜熱帯から温帯南部,熱帯,温帯北部で栽培される代表的なものである。→
→関連項目農業

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デジタル大辞泉 「果物」の意味・読み・例文・類語

く‐だ‐もの【果物/菓物】

《「く」は「木」、「だ」は「の」の意》
木および草の実で、多汁でふつう甘味があり、食用になるもの。果実。水菓子。フルーツ。
柑子こうじをいう女房詞
菓子。間食用の食物。
「御―を参らせられたりけるに、おこし米をとらせ給ひて」〈著聞集・一八〉
酒のさかな。→唐菓物からくだもの
「その蓋に、酒、―と入れて出す」〈かげろふ・下〉
[類語]フルーツ水菓子果菜デザート

か‐ぶつ〔クワ‐〕【果物】

くだもの。

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動植物名よみかた辞典 普及版 「果物」の解説

果物 (クダモノ)

植物。柑子の別称(宮女詞)

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世界大百科事典 第2版 「果物」の意味・わかりやすい解説

くだもの【果物 fruit】

受粉,受精後,花の一部分が肥大したものを果実といい,樹木につく果実で食用のものを果物という。〈果〉とは木につく果実を意味する言葉である。したがって,スイカ,メロンなど,草本植物につく果実は果物に含まれないことになるが,実際には,このように厳密に分類されることは少ない。果物は一般に水分が多く甘みがあり,デザートやおやつとして食べることが多いので,草本植物につく果実でも,そのような特性をもっていれば,消費の段階では果物と呼ぶのが普通である。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「果物」の意味・わかりやすい解説

果物
くだもの

果実」のページをご覧ください。

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世界大百科事典内の果物の言及

【実】より

…果実ともいう。花が受粉・受精したあと,主としてめしべの子房が発達してできるもので,子房の内部では胚珠が生長して種子をつくる。それゆえ実は成熟した花ともいえる。被子植物だけに発達した器官で,熟すとさまざまな方法で種子を散布させる。このため実の形,大きさ,色,裂開の仕方など形態学的にたいへん変化に富んでいて,実を正確に定義することはきわめて難しい。狭義には子房の発達したものであるが,萼,花托など子房以外の部分が残存し,発達したものも多く,これらのものも広義には実と呼ばれる。…

【食用植物】より

…そのほか,木本性で,デンプン性の果実をつけるパンノキや幹からデンプンをとるサゴヤシなども,熱帯地方ではエネルギー源となる食用作物として重視されている。 食用とする園芸作物は,大きく野菜類と果物類とに分けられる。園芸作物には,集約的な栽培を必要とするものが多く,穀物にくらべると貯蔵および運搬性が悪い。…

※「果物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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