トリスタンとイゾルデ(ワーグナーの楽劇)(読み)とりすたんといぞるで

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

トリスタンとイゾルデ(ワーグナーの楽劇)
とりすたんといぞるで

ワーグナー中世の伝説をもとに作詞・作曲した楽劇(原題では「三幕の劇」Handlung in drei Aufzügen)。騎士トリスタンは、年老いたマルク王の花嫁と定められたアイルランド王女イゾルデを、王の居城コーンウォールへ護送する。イゾルデは船旅途上、かつて自分の許婚(いいなずけ)を殺したトリスタンとともに毒杯を仰ぐことによって復讐(ふくしゅう)を果たし、屈辱的な結婚を拒否しようとするが、侍女ブランゲーネが毒を媚薬(びやく)にすり替えていたために2人は激しい恋に陥る。やがて2人のあいびきは発覚し、トリスタンは王の従臣の剣で深手を負う。事情を知った王が許しを与えるためイゾルデとともにトリスタンの居城ブルターニュに到着したときはすでに遅く、彼は絶命し彼女も息絶える。「愛」が「死」や「夜」と深く結び付き、現世から解き放たれようとする憧憬(しょうけい)が強く表現されているこの作品は、19世紀ロマン主義の理想を端的に具現したものといえよう。また作曲技法の面では半音階を多用して、近代西洋音楽の基礎をなす「機能和声」を崩壊させたと評価されるほど斬新(ざんしん)な書法開発同時代後世に与えた影響には計り知れないものがある。作曲は1859年に完了しているが、演奏が困難なため、1865年にようやくミュンヘンで初演された。日本初演は1963年(昭和38)ベルリン・ドイツ・オペラの来日公演。

[三宅幸夫]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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