チチブコウモリ(読み)ちちぶこうもり(英語表記)eastern barbastelle

日本大百科全書(ニッポニカ) 「チチブコウモリ」の意味・わかりやすい解説

チチブコウモリ
ちちぶこうもり / 秩父蝙蝠
eastern barbastelle
[学] Barbastella leucomelas darjelingensis

哺乳(ほにゅう)綱翼手目ヒナコウモリ科の動物。中央アジアからインド北部、インドシナ半島、中国西部に分布し、日本では北海道と本州森林洞窟(どうくつ)などに生息する。1883年(明治16)に初めて埼玉県の秩父(ちちぶ)でとれたため、この和名がある。静岡、東京などで計3頭捕獲されてから、長い間記録がなかったが、1958年(昭和33)から北海道、東北地方、秩父などで捕獲されている。前腕長40ミリメートル、頭胴長50ミリメートル、体重10グラム前後。耳介は幅広くて大きく、その基部は結合し、耳珠(じしゅ)は三角形。吻(ふん)は幅広く、両側に毛を密生した腺(せん)状の隆起がある。体毛は上下面とも黒褐色で、霜降り状を呈する。普通単独ですむが、夏は小群で生活する。日中は洞窟、樹洞、岩の割れ目、ときに建造物などに潜み、夕刻飛び出す。虫食性で、高空を敏速に飛翔(ひしょう)しながらガなどの昆虫を捕食する。1産1子。東北地方では6月末から7月上旬にかけて出産する。

吉行瑞子]


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改訂新版 世界大百科事典 「チチブコウモリ」の意味・わかりやすい解説

チチブコウモリ (秩父蝙蝠)
Eastern barbastelle
Barbastella leucomelas

翼手目ヒナコウモリ科の哺乳類。トウブチチブコウモリともいう。全身黒色に近く,顔が扁平で中型の虫食性のコウモリ。日本では1883年埼玉県秩父郡で1頭初めて採集された。和名はこの地名に由来する。カフカスからインド北部,中国西部および日本(北海道・東北・関東・中部地方)に分布するが,どの地域でもきわめてまれである。日本では人家内,洞窟内に単独で冬眠し,夏の活動期にミズナラ,カラマツなどの混交林にすむ。前腕長40~42mm,頭胴長49~62mm,鼻孔が大きく,吻(ふん)の先に毛で覆われた球形の突起とその両側に深い溝をもち,三角形の耳介は頭頂部で合一し,体は濃い黒茶色を呈する。6月下旬から7月上旬にかけて1腹1子を生む。この属には2種しかなく,他の一つはヨーロッパ,モロッコなどに分布するクロチチブコウモリ(ヨーロッパチチブコウモリ)B.barbastellusである。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「チチブコウモリ」の意味・わかりやすい解説

チチブコウモリ
Barbastella leucomelas; Eastern barbastelle

翼手目ヒナコウモリ科。体長5~6cm,前腕長 3.5~4cm。鼻先は幅広く,耳介も大きく幅広く,左右の耳の内側は頭の上でぴったりと合わさっている。体色は黒褐色で,毛先が光沢のあるクリーム色。大群をつくらず,単独または数頭で生活している。地上 1.5~5m付近をジグザグに飛びながら昆虫類を捕食する。小アジア,インド,インドシナ地方,日本では北海道,本州に分布し,森林や洞窟,岩の割れ目などにすむ。

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