秩父(読み)ちちぶ

精選版 日本国語大辞典 「秩父」の意味・読み・例文・類語

ちちぶ【秩父】

[1]
[一] 埼玉県西部の地名。秩父盆地の中心。市街地は荒川の河岸段丘上に発達。江戸時代は絹市が立ち、秩父絹の集散地として知られた。セメント・製材・電子工業が行なわれる。秩父神社、金昌寺、黒谷の和銅採掘遺跡などがある。一二月の秩父夜祭は有名。旧称大宮。昭和二五年(一九五〇)市制。
[二] 埼玉県の西端の郡。また、(一)も含めた広域地名。荒川上流域の山岳地帯にあり、東京・山梨・長野・群馬の都県と接する。
[三] 能楽の曲名。秩父重忠(畠山重忠)はわが子重安(しげやす)が北条時政の妻槇(まき)の方のざん言によって、鎌倉の由比ケ浜で処刑されたことを聞き、怒って兵を挙げる。鎌倉方の討手の大将安房の佐久間が立ち向かうが、かえって重忠に生け捕られる。廃曲。
[2] 〘名〙
① 秩父産の織物。また、「ちちぶぎぬ(秩父絹)」「ちちぶじま(秩父縞)」などの略。
※落語・欲しい物覚帳(1896)〈四代目橘家円喬〉「少し裏は優雅(じみ)だったけれ共糸吉(いとよし)だから秩父𥿻(チチブ)を付けて八丈の袖口、仕立揚りが十三円五十銭」
秩父三十三所の霊場めぐりをすること。
※雑俳・柳多留‐二一(1786)「ちちぶの留守にはらんだで大おこり」

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デジタル大辞泉 「秩父」の意味・読み・例文・類語

ちちぶ【秩父】


埼玉県南西部の市。秩父盆地の中心地で、旧称は秩父大宮。秩父銘仙めいせんの産地。武甲ぶこう石灰岩を産し、セメント工業が盛ん。夜祭りで知られる秩父神社がある。人口6.7万(2010)。
埼玉県西部、秩父市および秩父郡の総称。養蚕が盛んで、コンニャクシイタケを特産。広く国や県の自然公園として指定。
秩父産の織物。また、「秩父絹」「秩父じま」の略。

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改訂新版 世界大百科事典 「秩父」の意味・わかりやすい解説

秩父[市] (ちちぶ)

埼玉県西部の市。2005年4月旧秩父市と吉田(よしだ)町,荒川(あらかわ)村,大滝(おおたき)村が合体して成立した。人口6万6955(2010)。

秩父市南部中央の旧村。旧秩父郡所属。人口6382(2000)。秩父山地の山間を占め,北部を東流する荒川沿いには河岸段丘が広がる。集落や耕地は河岸段丘上にあり,秩父鉄道も走る。贄川(にえがわ)は江戸時代に甲州裏街道(秩父往還)の宿駅で,三峰神社,札所巡りの参詣者でにぎわい,六斎市も開かれていた。林業と養蚕が主たる産業であったが,現在は,シイタケ,コンニャクイモの栽培に加え,ブドウ,栗を中心に観光農業の振興が図られている。秩父七湯といわれる鉱泉郷の中心で,日野,柴原,白久などに鉱泉宿がある。秩父鉄道三峰口駅は三峰山,二瀬ダム小鹿野方面への玄関口である。猪鼻熊野神社は甘酒をかけあう疫病流しの神事〈甘酒祭〉で知られる。

秩父市南部の中西部を占める旧村。旧秩父郡所属。人口1711(2000)。東京都,山梨県,長野県,群馬県と接する。荒川最上流域の山地を占め,甲武信ヶ岳こぶしがたけ),雲取山はじめ標高2000m級の山々が連なる。雁坂峠(甲州裏街道),十文字峠(信州往還)などの峠は江戸時代までは重要な交通路として使われ,その合流点の栃本には関所が置かれていた。荒川の支流中津川の奥には平賀源内が発見したといわれる秩父鉱山があり,昭和初期から鉄鉱石を中心に亜鉛,鉛,銅などを採掘してきたが,現在は石灰岩とケイ砂のみである。荒川総合開発計画により1961年,多目的の二瀬ダムが建設され,秩父湖が出現した。67年には秩父湖畔から三峰山山頂にある三峰神社に至る有料道路が完成し(現在は無料開放),観光開発が進んだ。雁坂峠で分断されていた国道140号線は,雁坂トンネル有料道路の開通(1998年)で山梨県側と結ばれた。1960年代以降人口流出が著しく,95年の人口数は60年当時の4分の1より少ない。過疎地域に指定されている。
執筆者:

秩父市東部の旧市で,秩父盆地の中心都市。1950年市制。人口5万9790(2000)。708年秩父郡から朝廷に銅が献上され,年号が和銅と改元されたが,その銅の産出地は市域北部の黒谷(くろや)とする説が有力である。妙見祭(秩父夜祭)で有名な秩父神社にちなんで,鎌倉時代から大宮郷とよばれ,江戸時代には忍(おし)藩の大宮陣屋(代官所)が設けられていた。荒川の河岸段丘上に発達したセメントと織物の町で,伝統的な養蚕は衰え,近年は観光ブドウ園も見られる。忍藩の保護を受けて盛んになった秩父絹は,1・6の六斎市や妙見祭の絹大市で人気を集め,明治以降,近代的な柄物の秩父銘仙へ転換して全国に知られたが,今は合成繊維による大衆向けの着尺地と夜具地が主製品である。市街地の南方にそびえる武甲山(1304m)は石灰岩の宝庫で,1914年熊谷方面から秩父鉄道が通じてから本格的な採掘が始まり,セメント工業は秩父の代表的な産業となった。国道140号線と299号線が市街で交わり,69年に西武秩父線が,82年には国道299号線の正丸トンネルが開通したので,都心との交通が便利になり,浦山渓谷,羊山公園,秩父三十四所の札所,和銅公園などを訪れる人が多い。91年オープンした秩父ミューズパークはリゾート開発の拠点となっている。
執筆者:

秩父市北部の旧町。旧秩父郡所属。人口5992(2000)。秩父盆地の北西部に位置し,荒川の支流吉田川が東流し,東縁を赤平(あかひら)川が北流する。町域の大部分は山地である。中心集落の下吉田は吉田川の谷口集落で,江戸時代には3・8の日に六斎市が立ち,絹やタバコの取引が行われた。農業は畜産が主で,コンニャク,シイタケなども産する。人口の減少が続き,過疎地域に指定されている。戦国時代に始まるといわれる竜勢花火で有名な椋(むく)神社は,秩父事件の際,蜂起した農民の集結地であった。北部は上武県立自然公園に属する。千鹿谷(ちがや)鉱泉(重曹泉,15℃)もあり,近年は観光ブドウ園など観光開発に力を入れている。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「秩父」の意味・わかりやすい解説

秩父
ちちぶ

埼玉県西部にある地方。行政的には秩父市および秩父郡皆野(みなの)、長瀞(ながとろ)、小鹿野(おがの)、横瀬(よこぜ)の4町と東秩父の1村よりなるが、一般的には秩父山地、秩父盆地を含む地域をいう。全体として山地が多く、平地は秩父盆地、荒川およびその支流の赤平(あかびら)川の沿岸にわずかに存在するにすぎない。秩父の名は『続日本紀(しょくにほんぎ)』に武蔵(むさし)国の郡名として載っているのが最初で、知知夫国造(ちちぶくにのみやつこ)の支配下にあったことに由来するといわれる。708年(和銅1)秩父郡からの和銅献上により年号を和銅(わどう)と改めたとされる古い歴史をもつ土地で、平安時代末から中世には秩父氏や武蔵七党の丹(たん)党や児玉(こだま)党に属する諸氏が活躍した。江戸時代、忍(おし)藩の保護と奨励により秩父絹の生産が盛んになり、一、六の市(いち)や秩父神社の大祭には絹市が立った。

 耕地は傾斜地が多いため、米、麦の生産は県下でもっとも少ない地域である。かつては養蚕が盛んで、比企(ひき)、大里(おおさと)、児玉の諸郡とともに埼玉県養蚕地帯の一翼を担っていたが現在は衰退している。おもな農産物はコンニャクイモ、シイタケなどである。また、観光客の増加に伴い、観光農園が盛んである。秩父でもっとも中心的な生産物は武甲山(ぶこうざん)(1295メートル)の石灰岩で、武甲山の東側に露頭があり、その埋蔵量は約2億トンといわれ、多くの企業によって採掘され、山容は著しく変化し、荒々しい山肌を示している。これらのうち太平洋セメントの三輪鉱山(みのわこうざん)がもっとも大規模で、露天掘りを行っている。石灰岩は秩父市内の工場のほか、熊谷(くまがや)・日高の工場でセメントにしている。もう一つの中心的な産業は観光である。広く連なる秩父の山々、清冽(せいれつ)な流れの荒川本支流の渓谷など、秩父の観光資源は数多く存在するため、国や県ではこの地域を自然公園として指定しており、秩父多摩甲斐国立公園(ちちぶたまかいこくりつこうえん)、県立武甲自然公園、県立長瀞玉淀(ながとろたまよど)自然公園、県立上武(じょうぶ)自然公園、県立両神自然公園、県立西秩父自然公園がある。このうち秩父多摩甲斐国立公園は、秩父市大滝地区、小鹿野町両神地区の西部を含むもので、三宝山(さんぽうざん)(2483メートル)や甲武信ヶ岳(こぶしがたけ)(2475メートル)の高峰をはじめ、雲取山(くもとりやま)、三峰山(みつみねさん)、両神山などや、雁坂(かりさか)峠、新緑や紅葉の名所として名高い中津峡などがある。武甲自然公園は武甲山をはじめ、橋立鍾乳洞(はしだてしょうにゅうどう)や秩父七湯(しちとう)といわれた鉱泉がある。長瀞玉淀自然公園には、荒川沿岸4キロメートルにわたって続く国指定名勝天然記念物の長瀞や、その下流の玉淀ダムの景勝地がある。これらの景勝地を訪れる観光客は、西武鉄道秩父線の開通(1969)により便利になり、増加している。また、上越新幹線、高崎線の熊谷駅から秩父鉄道で来訪することもできる。

[中山正民]


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