飛翔(読み)とびかける(英語表記)flight

翻訳|flight

精選版 日本国語大辞典 「飛翔」の意味・読み・例文・類語

とび‐かけ・る【飛翔】

〘自ラ四〙 空高くとんでいく。ひしょうする。
※書紀(720)仁徳四〇年二月・歌謡「隼は 天(あめ)に上り 等弭箇慨梨(トビカケリ) 斎槻(いつき)が上の 鷦鷯(さざき)捕らさね」

ひ‐しょう ‥シャウ【飛翔】

〘名〙 空中を飛びかけること。
※随筆・文会雑記(1782)附録「大鳥の海上に浮み来りしを、山中某鳥銃にて風きりの羽を打切しかば、飛翔する事よく能はず」 〔戦国策‐楚策〕

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「飛翔」の意味・読み・例文・類語

ひ‐しょう〔‐シヤウ〕【飛×翔】

[名](スル)空高く飛びめぐること。「大空を飛翔する」
[類語]飛ぶ翔る飛行飛来滑空天翔あまがけ高翔こうしょうする滑翔かっしょうする舞う舞い立つ舞い上がる舞い降りる

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「飛翔」の意味・わかりやすい解説

飛翔 (ひしょう)
flight

昆虫,鳥,コウモリなどの動物が行う飛翔には,さまざまな方法があるが,最も典型的なのは,はばたき飛行flapping flightであろう。そのほかにも,滑空glidingや空中停止飛行hovering(ホバリングともいう)などもよく見られる。はばたき運動はほとんどの飛翔動物に見られる。停止飛行は小さい昆虫類が得意とするが,顕花植物と共生関係にあるハナバチチョウの類ではとくにこの能力が重要である。鳥類ではハチドリの仲間が行う。これと対照的に,ワシやアホウドリなどの大きな鳥は,滑翔soaring(帆翔とも訳される)を得意とする。その原理は滑空と同じであるが,自然風のエネルギーを利用するのが特徴で,長時間はばたかずに滞空することができる。滑翔ができるためには,崖や太陽熱によって上昇気流があるか,風速が上空にいくにつれて速くなっていることが必要である。他方,主として滑空だけを行う動物としては,トビウオ,イカ,ムササビトビトカゲなどが知られている。このような飛翔動物に共通する体の特徴は,ほとんど例外なく翼面をもっていることである。動物はこれを使って揚力を得るばかりでなく,推進力をも得ている。

動物の進化史において,飛ぶ能力を最初に獲得したのは昆虫の仲間であり,約3億年前(石炭紀中期)の化石にすでに翅(はね)をもつものが見られる。この時期には,地球の歴史で初めて,丈の高い植物からなる森林が出現し,生物の生活圏が地上から三次元的世界に拡大した。この新しい空中の世界に適応するかのように,翅をもった昆虫が現れてきた。脊椎動物で最初に空に進出したのは中生代ジュラ紀翼竜で,これは爬虫類に属する。鳥類が出現したのは同じジュラ紀の末で,約1.5億年前のことである。哺乳類のコウモリの出現はさらに新しく,約5000万年前と考えられている。

 翼竜,鳥,コウモリの(つばさ)は前肢が転化したものであるが,構造は互いに異なっている。翼竜とコウモリの翼は,飛膜からなっているが,翼竜では第4指が大きく成長して皮膜を支えているのに対し,コウモリでは第1指を除いたすべての指および後肢,尾にまで皮膜が発達している。鳥の場合には,前腕骨と手骨,および第2指に風切(かざきり)羽と雨覆(あまおおい)羽が生えて翼を構成している。鳥の翼の性能がきわめて優れている点は,その羽毛構造にある。風切羽の重なりぐあいから,空気は翼の上側から下側へ羽毛の間を抜けて流れることができるが,その逆に下から上へは流れないようになっている。これは翼のはばたきのときに,空気力学的な力を効果的に得るのに役だっている。他方,昆虫の翅は肢が変化したものではなく,胸部のキチン質の側背板が伸びて扁平になったものである。

動物が翼を使って持続的なはばたき飛行をするとき,空気力学的に要求される条件は,体重につり合う揚力と,空気抵抗にうちかつ推力が得られることである。これが可能となるのは,翼が次のような空気力学的にみて好ましい性質をもっていることによる。典型的な翼の断面の特徴は,前縁が丸みをもち,後縁がとがった流線形をしていることである。このような翼が図1のように,迎え角αをもって速度Vで運動すると,翼は速度Vに直角に横力Lを受けると同時に,Vと反対向きに小さいながら抵抗力Dも受ける。重要なのは横力Lが発生することで(Lのことを揚力というときもある),この原因は,図1のような迎え角αをもつと,翼の下面を流れる空気の圧力が高くなると同時に,上面の空気の圧力は逆に低くなるという空気力学的現象があるからである。図1のLDを合成した力Fが翼に作用する全空気力となる。ふつうの翼では,Lの値はDの約10倍程度にまでなる。

 このような性質の翼をもった鳥が滑空しているときの力のバランスを示したのが図2である。水平と角度θをなして滑空しているとき,広げた両翼が横力L′を受け,翼と体が空気抵抗D′を受けているとし,体重はWとする。もしL′とD′の合力F′がWとつり合って打ち消し合い,その結果,全合力がゼロとなるときには,力学の基本法則から,鳥は一定の速度で直線的に滑空する。これが滑空の原理である。このときのF′が揚力となる。

 水平飛行の原理は,この運動の方向を角度θだけ右に回転して考えればよい。このとき,鳥は図2のTに相当する水平な推力が必要となる。このとき横力L′は真上を向くので,揚力となる。滑空では,体重Wの進行方向成分が推進力となり,体重の一部が推力に転化していた。飛行機は,プロペラあるいはジェットエンジンからこの推力Tを得ているが,飛翔動物は,はばたき運動からこの推力を得る。標準的なはばたき飛行を考えてみると,翼の内側1/3くらいまでは,はばたきの上下振幅は小さいので,もっぱら揚力が得られるが,先端1/3(風切羽)は大きな上下運動を行い,推進力の大部分が生じていると考えられる。図1で,角度αが大きくなると,横力Lの前進方向成分が大きくなり,推進力となる。この力はおもに翼の打下し運動で発生するが,打上げ運動でも,翼のひじや手首の屈曲,先端の風切羽の分離,羽軸の回転などによって,推進力が発生することになる。
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「飛翔」の意味・わかりやすい解説

飛翔
ひしょう
flight

動物が大気中を飛ぶこと。動物が初めて飛翔したのは約2億年前の中世代のことで,ゴキブリを大きくしたような昆虫と考えられている。脊椎動物では,翼竜のような爬虫類が知られている。現生の動物では鳥類のほとんど,コウモリなどの哺乳類の一部,昆虫類の大部分が翼や翅を使って巧みにはばたき,飛翔する。またトビウオなどの一部魚類,哺乳類のムササビや両生類のトビガエルなどは翼をもたないが,鰭や皮膜を使って滑空することが知られている。
飛翔には基本的に運動のエネルギーによるはばたき飛行 winged flightと,位置のエネルギーによる滑空 glidingの2種類がある。定温動物 (鳥類とコウモリ) がはばたき飛行をするためには,進化の過程で体の構造をさまざまに変化させる必要があった。鳥類を例にとれば,一対の前肢が翼に変形した。骨は中空になって軽量化するとともに,胴部の骨格が融合して箱型になり,はばたきの力を有効に使えるようになった。食べた物をすぐに排泄することで大腸を省略し,生殖器官も非繁殖期には縮小するなど,内臓の減量化に成功している。重心の面では,歯や顎の筋肉は嘴に置換され,頭部が軽くなったので安定が良くなった。また比較的重い消化器官を翼と脚の付根にくるように配置し,飛翔と歩行時の重心のずれを解決している。さらに,はばたきの力を生みだす心臓と胸筋の強化,安全に飛翔するための視覚や聴覚の発達などあらゆる面で変化が起った。一方,昆虫では翅が発達したが,これは肢が変化したものではなく,体表全体をおおっている角質が特殊化したものである。これらのはばたき飛翔する動物にもたらされた恩恵は大きい。種の多さや個体数の多さを考えてみると,昆虫,鳥類,コウモリは最も繁栄した動物グループといえるからである。
滑空には,いわゆる重力による滑空とソアリング (帆翔あるいは滑翔。 soaring) の2種類がある。さらに重力による滑空には,方向を定めて飛立つものと,水平の動きは風にまかせてゆっくり降下する受動的なものがある。方向を定める重力滑空を行う動物には,体のさまざまな部位に,翼の代りとなる特殊な器官を備えたものが多い。例えば,魚類では胸鰭を大きく発達させたトビウオ,両生類では大きな蹼 (みずかき) をもつトビガエル,爬虫類では伸縮自在の皮膜を体側にもつトビトカゲ,哺乳類では前肢と後肢の間に皮膜を発達させたヒヨケザルやムササビ,モモンガなどである。トビトカゲで約 60m,ヒヨケザルで 130m以上滑空できるといい,尾や手足が方向舵の役目をしている。ソアリングは長時間はばたかずに滞空することである。コンドルやアホウドリなどの大型の鳥とオオカバマダラなどの昆虫が,この方法を獲得した。風が一様に吹いているときにソアリングを試みる動物に必要なのは,自分の沈下速度を超える上昇速度をもつ気流を捉えることである。風の進路が妨げられて上昇気流が生れる山脈や海辺の崖縁付近,また太陽光によって大地が暖められ,大気中に熱の循環が起るときがソアリングに適した条件といえる。また大気中の小さな気流の乱れからも,鳥たちは飛翔のエネルギーを得ることができる。アホウドリの体重は約 7kgに達するが,翼開長約 2.4mという巨大な翼で海面近くの風速の勾配をとらえ,次々と旋回しながら上昇と降下を繰り返すことで,かなりの距離を滑翔することができる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

[日本酒・本格焼酎・泡盛]銘柄コレクション 「飛翔」の解説

ひしょう【飛翔】

山形の日本酒。「清泉川」の蔵元が精米歩合40%で造る吟醸生酒。原料米は美山錦。仕込み水は地下50mから汲み上げる天然水。蔵元の「オードヴィ庄内」は明治8年(1875)創業。所在地は酒田市浜中乙。

出典 講談社[日本酒・本格焼酎・泡盛]銘柄コレクションについて 情報

普及版 字通 「飛翔」の読み・字形・画数・意味

【飛翔】ひしよう

とぶ。

字通「飛」の項目を見る

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

世界大百科事典(旧版)内の飛翔の言及

【運動】より

…このような移動運動locomotionこそ動物を動物たらしめた基本的な特徴といってよい。移動運動の様式には遊泳,匍匐(ほふく),歩行,跳躍,走行,飛翔(ひしよう),帆翔,ジェット推進などいろいろあり,そのために使われる器官(運動器官)や機構もさまざまである。筋肉運動の場合は,関節をもつ骨格とそれに付着する伸筋・屈筋の組合せが一般的であり,骨格は無脊椎動物では外骨格,脊椎動物では内骨格になる。…

※「飛翔」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

靡き

1 なびくこと。なびくぐあい。2 指物さしものの一。さおの先端を細く作って風にしなうようにしたもの。...

靡きの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android