スクールソーシャルワーカー(読み)すくーるそーしゃるわーかー(英語表記)school social worker

デジタル大辞泉 の解説

スクール‐ソーシャルワーカー(school social worker)

エス‐エス‐ダブリュー(SSW)

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日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

スクールソーシャルワーカー
すくーるそーしゃるわーかー
school social worker

児童・生徒が学校や日常生活で直面する苦しみや悩みについて、児童・生徒の社会環境を構成する家族や、友人、学校、地域に働きかけ、福祉的なアプローチによって解決を支援する専門職。SSWと略す。社会福祉士精神保健福祉士などが就くことが多いが、専門資格はなく、教職や福祉の経験者がなる場合もある。配置型と派遣型があり、配置型は配属された学校の職員として勤務する。もう一方の派遣型は、市町村などの教育委員会を窓口として、依頼のあった学校に派遣されて活動し、複数の学校や生徒の問題を担当することもある。

 児童・生徒のいじめ、不登校、暴力行為、非行といった問題行動や児童虐待などの背景・原因を見極めたうえで、子供やその家庭に働きかけるだけでなく、医療機関や、児童相談所、福祉事務所、警察などと連携して問題を解決に導く点に特徴がある。学校で児童・生徒の問題解決を支援する職種としては、ほかにスクールカウンセラーがあるが、これは心理学的なカウンセリングによって問題解決を図るものであり、スクールソーシャルワーカーとは児童・生徒への支援のアプローチが大きく異なっている。

 スクールソーシャルワーカーは1900年代初頭のアメリカで、貧困地区における社会事業の一つとして誕生した。アメリカでは、1913年に学校制度として正式に採用され、訪問教師としての活動が始まって以来、制度の基本は変わっていない。一方、日本での歴史はまだ浅く、教育現場においては、文部科学省が2008年度(平成20)より「スクールソーシャルワーカー活用事業」を開始したのが始まりといえる。現代の児童・生徒は、いじめや不登校などといった従来の問題行動だけでなく、発達障害や、虐待、家庭の貧困など、福祉的な視点を必要とする問題を抱えているケースが多くみられる。そのため、活用事業が始まると、地方では積極的な導入がみられ、短期間で成果をあげた事例も多い。しかし、スクールソーシャルワーカーの活動内容が浸透していないため、学校内部で十分な連携が図れなかったり、スクールカウンセラーに比べて身分や報酬面での評価があいまいだったりと、定着のためにはさまざまな問題がある。専門職としての国家資格化や、人材育成のための専門教育体制などが必要とされる。

 2014年度に自治体が国の補助を受けて配置しているスクールソーシャルワーカーは、全国でおよそ1000人である。政府は2020年度までに人員を10倍に増やす方針で、貧困や虐待、発達障害などへの対応も含めた新たな活用方法を示している。また、教員制度改革を検討する自民党の教育再生実行本部は、福祉の専門家としてのスクールソーシャルワーカーとスクールカウンセラーを、教員と同じ基幹職員として学校に配置することを目ざし、法律の改正を視野に検討している。

[編集部]

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知恵蔵 の解説

スクールソーシャルワーカー

いじめや不登校、虐待、貧困など、学校や日常生活における問題に直面する子どもを支援する社会福祉の専門家。子ども本人だけでなく、家族や友人、学校、地域など周囲の環境に働きかけて、問題解決を図る。「SSW」と略すこともある。
専門の資格はないが、原則として、国家資格である社会福祉士や精神保健福祉士などの資格が必要となる。しかし、教員OBなど、教育・福祉現場での活動実績がある人がなる場合もある。
いじめや不登校などの問題は、家庭での虐待や貧困などが絡むケースがあるため、教育だけでなく社会福祉的な観点からも支援が必要となっている。このため、国は2008年度から、都道府県などに対し、学校や教育委員会などへのスクールソーシャルワーカーの配置を補助する「スクールソーシャルワーカー活用事業」を実施している。スクールソーシャルワーカーの活動形態は自治体によって異なり、学校に配置されて活動する「配置型」、教育委員会などに所属し、依頼があった学校に派遣される「派遣型」、複数の学校を掛け持ち、それぞれの学校の状況に合わせて訪問する「巡回型」がある。
学校で子どもの問題解決に取り組む専門家には、他にスクールカウンセラー(SC)があるが、スクールカウンセラーが、子ども個人の心のケアに重点を置くのに対し、スクールソーシャルワーカーは、子どもを取り巻く環境に働きかける。具体的には、学校や家庭、児童相談所、行政の福祉担当部署といった関係機関のつなぎ役となって情報提供や調整を行ったり、保護者や教員を支援したりするなどして問題解決の方法を探る。
文部科学省の統計によると、15年度に都道府県などが国の補助事業を活用し、配置したスクールソーシャルワーカーは1399人で、予算上の配置人数(2247人)の6割程度にとどまっている。スクールソーシャルワーカーの配置後、不登校の児童・生徒数が減少したなどの成果が挙がっており、国は19年度までに、約1万の全中学校区に配置する目標を掲げている。
スクールソーシャルワークはもともと、1900年代初めの米国で、貧困などにより学校へ通うことができない子どもたちを支援する活動として生まれた。海外では、米国以外にカナダや北欧、東欧、モンゴルなどで導入されている。

(南 文枝 ライター/2017年)

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