ガーター(詩句)(読み)がーたー(英語表記)gāthā

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ガーター(詩句)」の意味・わかりやすい解説

ガーター(詩句)
がーたー
gāthā

パーリ語あるいはサンスクリット語で詩句のことを意味する。漢訳仏典では伽陀(かだ)、伽他(かた)と音写したり、頌(じゅ)、諷頌(ふじゅ)、詩歌経と訳出したり、また単に偈(げ)ともいわれる。広義には詩句一般をさす。たとえば、「パーリ五部」のもっとも素朴な経典集録であるとされる『相応部経典』中の「有偈品(うげぼん)」には、「すると世尊(せそん)は、その意味を知ってそのときこのような偈(ガーター)を誦(ず)したまう」とあるあとに、2行または4行の詩句をもって経典を結んでいるのが、しばしばある。また狭義には、九分教、十二分教の第四支をさす。ブッダゴーサ(仏音(ぶっとん))によると、「法句経(ダンマパダ)、長老偈(テーラガーター)、長老尼偈(テーリーガーター)および経集(スッタニパータ)中のスッタ(経)のない純粋な偈が、ガーターであると知るべきである」といわれている。いずれにせよ、ガーターとは、散文にはない表現上の特殊な約束ごと、すなわち規範を媒介として表現される詩句のことであり、この詩句の形式を論ずるのが詩律論である。パーリ語に関する伝統的詩律論書としては、サンガラッキタ作といわれる『ブットーダヤ』がある。なお近年、パーリ語の詩律に関する研究が活発で、パーリ聖典成立史の研究や本文批判のために重要視されている。

高橋 壯]

『前田惠學著『原始仏教聖典の成立史研究』(1964・山喜房仏書林)』『高橋壯「パーリ詩律論試稿」(『名城大学人文紀要』第31集所収・1984・名城大学一般教育人文研究会)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例