日本大百科全書(ニッポニカ) 「風土(和辻哲郎の著書)」の意味・わかりやすい解説
風土(和辻哲郎の著書)
ふうど
和辻哲郎の主著の一つ。1935年(昭和10)刊。「人間学的考察」という副題が付されている。自然環境がいかに人間生活を規定するかという問題でなしに、人間存在の構造契機としての風土性を明らかにしたもので、深い哲学的人間学に貫かれていると同時に、豊かな詩人的直観と体験とに裏づけられた滋味あふれる好著である。アジアからヨーロッパに至る地域を、南アジアを中心とするモンスーン地帯、西アジアの砂漠地帯、ヨーロッパの牧場地帯の三つに分け、モンスーン地帯には受容的忍従的生き方と汎神(はんしん)論的世界観が、砂漠地帯には戦闘的で団結と服従を重んずる生き方が、牧場地帯には自然のなかに法則をみいだす合理的生き方が生まれたとしている。そして日本人はモンスーン地帯の受容的忍従的生き方を基調とするが、東アジアは南アジアより四季の変化が激しいので、激情と淡泊なあきらめが混じり合っている点にその精神的特徴があるとみている。あまりに詩的な着想を批判する声もある。
[古川哲史]
『『風土』(岩波文庫)』