顎口虫(がっこうちゅう)(読み)がっこうちゅう

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

顎口虫(がっこうちゅう)
がっこうちゅう
[学] Gnathostoma

線形動物門双腺(そうせん)綱旋尾線虫目顎口虫科Gnathostoma属の寄生虫総称。頭端は球状で頭球とよばれ多数の鉤(かぎ)が並び、ほかの体表にも小棘(しょうきょく)を備えていて、これらのかたちや並び方、卵の形態などにより種を分けている。日本には有棘(ゆうきょく)顎口虫Gnathostoma spinigerum、ドロレス顎口虫G. doloresi、日本顎口虫G. nipponicumの3種が分布する。

 有棘顎口虫は、アジアの熱帯から温帯にかけて分布し、成虫はネコやイヌなどの胃壁に腫瘤(しゅりゅう)をつくってその中に寄生している。体長は雄1~2.5センチメートル、雌1~3センチメートル。卵は宿主の糞便(ふんべん)とともに排出され、水中で孵化(ふか)した幼虫は第一中間宿主ケンミジンコに食べられてその血体腔(こう)で発育する。ケンミジンコが第二中間宿主の淡水魚(カムルチードンコドジョウなど)や両生類トノサマガエルなど)に食べられると、幼虫はその消化管から筋肉に侵入し、3~4ミリメートルの長さに成長して薄い袋に包まれる。第二中間宿主が固有宿主のネコなどに食べられると、幼虫は宿主の消化管を穿通(せんつう)して肝臓に入り、ある程度発育ののち胃の外側から胃壁へ入って成虫になる。第二中間宿主となる動物は第一中間宿主のケンミジンコを食べて感染する場合と、感染した第二中間宿主を食べて感染する場合とがあり、カムルチーはほかの魚や両生類を貪食(どんしょく)するので幼虫をもっていることが多い。

 ヒトがこのようなカムルチーを生食すると、幼虫は人体内で成虫になることができず、体内を移動しながら10年以上も生き続ける。幼虫が目に入って失明したり、脳に入って脳症状をおこした例もある。治療薬はなく、皮下に幼虫が現れてみみずばれができたとき、その部分を幼虫とともに摘出する方法があるが、完治するかどうかは確実ではない。

 ドロレス顎口虫は東南アジア、インド、台湾、日本に分布し、成虫はイノシシブタの胃に寄生していて、体長は雄1~1.3センチメートル、雌1.1~2.2センチメートル。第一中間宿主はケンミジンコ、第二中間宿主はブルーギルサンショウウオマムシなどで、イノシシやブタは第二中間宿主を食べて感染する。ヒトは第二中間宿主を生食して感染するが、ドロレス顎口虫は幼虫のまま体内を移動して腹部などに痒(かゆ)みや痛みを伴った線状の皮膚爬行症(ひふはこうしょう)をおこす。

 日本顎口虫は、イタチの食道に寄生し、体長は雄1.5~3センチメートル、雌2~4.2センチメートル。第一中間宿主はケンミジンコ、第二中間宿主はドジョウ、ナマズ、ウグイ、ヤマカガシなどで、ヒトが第二中間宿主を生食すると腹部などに皮膚爬行症をおこす。また、韓国、台湾、中国などから輸入されたドジョウのおどり食いから顎口虫症患者が発生している。この例ではブタを固有宿主とする剛棘(ごうきょく)顎口虫G. hispidumの幼虫が原因である。顎口虫症に感染しないためには、第二中間宿主となる動物の生食は絶対に避けるべきである。

[町田昌昭]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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