マムシ(読み)まむし(英語表記)pit viper

翻訳|pit viper

改訂新版 世界大百科事典 「マムシ」の意味・わかりやすい解説

マムシ (蝮)
pit viper

クサリヘビ科マムシ属Agkistrodonに含まれる危険な毒ヘビの総称。10種が日本を含むアジア全域および北アメリカに分布する。マムシ類はハブ,ガラガラヘビなどとともに,眼の前方赤外線に敏感なピット器官をもつ。頭部は長三角形で大型のうろこに覆われる。頸部(けいぶ)がくびれ,胴はむしろ太短く尾も短い。

 ニホンマムシA.blomhoffiは吐噶喇(とから)海峡以北の日本に産する唯一の毒ヘビで,北海道,本州,四国,九州および伊豆七島対馬大隅諸島に分布し,全長40~60cm,最大75cmほどで毒ヘビとしてはむしろ小型。体背面には暗褐色の銭形模様が並び,体色には変異が多い。平地から山地の森林,耕地周辺,やぶなどにすみ,夜行性で昼間は薄暗い場所に潜み,夜間のほか雨天や曇天には昼間でも行動する。動作はのろいが,人が接近すると逃げることなく身構え,音もなく体長の1/3ほどをのばしてとびかかる。昼間でも保護色のため見分けにくく,咬症(こうしよう)被害が多い。毒牙(どくが)は1対の可動管牙で鋭い。マムシの毒は患部に出血と壊死を起こさせる出血毒が主成分で,ほかに,神経毒,心臓毒をはじめとする諸成分が含まれる。毒性はむしろハブよりも強いが,平均注入毒量が少ないため,致命率はきわめて低い。しかし咬傷を受けた場合,応急処置の後,血清治療を受けることが望ましい。卵胎生で夏~秋に10匹前後の子を生む。

 ニホンマムシ以外には近縁の数種が朝鮮半島,中国から中近東まで広く分布し,東南アジアの森林には毒性の強いマレーマムシ(カレハマムシA.rhodostomaが生息する。〈かみつかれると百歩歩かないうちに倒れる〉という意味の名をもつヒャッポダは,かつてはマムシ属に入れられていたが,最近は別属のDeinagkistrodon acutusとされる。全長1~1.5m,台湾,中国南部,インドシナに分布し,吻端(ふんたん)に角状突起をもつ。アメリカ合衆国産ヌママムシA.piscivorus(英名water moccasin)とメキシコ産メキシコマムシA.bilineatus(英名Mexican moccasin)は全長1~1.5m,胴が太くともに危険種で,前者はとくに攻撃的。アメリカマムシA.contortrix(英名copper head)は全長1~1.2m,色彩,斑紋が美しい。マムシ類は日本や南アジアで薬用酒や民間薬としても利用される。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「マムシ」の意味・わかりやすい解説

マムシ
まむし / 蝮
pit viper

爬虫(はちゅう)綱有鱗(ゆうりん)目クサリヘビ科マムシ亜科マムシ属に含まれるヘビの総称。この属Agkistrodonの仲間は有毒で、左右の目の前下方に赤外線に敏感なピット器官pit(頬窩(きょうか))があり、12種が日本を含むアジア全域および北アメリカに分布する。クサリヘビ科の毒ヘビは、ピット器官をもつマムシ、ハブ、ガラガラヘビなどがマムシ亜科、ピット器官を欠くものがクサリヘビ亜科に分けられる。

 マムシ属の毒牙(どくが)は注射針と同じ構造の管牙で、きわめて短い上顎骨(じょうがくこつ)に接続し、通常は上顎と平行に倒れていて、獲物を攻撃するとき大きく口を開くと、上顎と直角におきてかみつくことになる。毒腺(どくせん)は大きく両頬部にあり、そのため頭部は幅広くほぼ三角形をしている。毒は細い導管によって毒腺から管牙の基部に送られる。頭頂部はよく分化した鱗板に覆われ、頸部(けいぶ)は細くて頭部から明瞭(めいりょう)にくびれている。胴はやや太く尾は短い。

 ニホンマムシA. blomhoffiは北海道、本州、四国、九州および伊豆七島、対馬(つしま)、大隅諸島(おおすみしょとう)に分布し、吐噶喇海峡(とからかいきょう)以北の日本に産する唯一の陸生毒ヘビとなっている。全長40~60センチメートル、最大75センチメートルほどで、むしろ毒ヘビとしては小形である。体色は茶褐色から赤褐色まで変異が多く、暗褐色の銭形斑紋(はんもん)が並ぶが、赤みの強い個体は俗にアカマムシとよばれ八丈島産に多く、黒化型もある。ニホンマムシは平地から山地の森林、耕地周辺、やぶなどにすみ、夜行性で昼間は薄暗い場所に潜むが、雨天や曇天には昼間でも行動する。瞳孔(どうこう)は縦長で、明るい場所では細く絞られる。暗夜でも、獲物や人間から放出される体温を1対のピット器官によって立体的に感知し、的確に攻撃することができる。動作は鈍(のろ)いが、人間が接近しても逃げることなく、その場で自衛の攻撃姿勢をとり、体長の3分の1ほどを伸ばして、音もなく飛びかかる。昼間でも保護色のため見分けにくく、また生息密度も高いため咬症(こうしょう)被害が多い。主成分は出血毒で、毒性はむしろハブよりも強いが、平均注入量が少ないため、致命率はきわめて低い。しかし応急処置ののち、血清治療を受けることが望ましい。卵胎生で夏から秋にかけて10頭前後の子ヘビを産む。

 ニホンマムシの近縁種は中国から中近東にかけて数種が分布し、東南アジアには森林性で毒の強いマレーマムシA. rhodostomaを産する。アメリカ合衆国産のヌママムシA. piscivorusとメキシコ産のメキシコマムシA. bilineatusは全長1~1.5メートル、胴が太くともに危険種で、とくに前者は攻撃的である。マムシ類は日本や南アジアで薬用酒や民間薬用として用いられる。

[松井孝爾]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マムシ」の意味・わかりやすい解説

マムシ
Agkistrodon halys

トカゲ目クサリヘビ科。体長 45~60cm。体はやや太く,褐色の地色に黒い縁どりのある暗色の銭形紋が並んでいる。頭部は長三角形で頸部は細く,鼻孔と眼の間に大きな頬窩がある。上顎に1対の管状の毒牙をもつ。毒は比較的強力で,咬傷により命にかかわる例もある。治療には血清が用いられる。奄美群島以南を除く日本全土に分布する。

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世界大百科事典(旧版)内のマムシの言及

【毒腺】より

…毒ヘビ類の毒腺は唾液(だえき)腺の唇腺が変形したもので,毒牙に連絡している。ヘビの毒腺からは,呼吸中枢に作用し呼吸麻痺をおこさせる神経毒(コブラのオフィオトキシン,ガラガラヘビのクロトキシンなど),血管壁からの出血をおこし赤血球をこわす溶血毒(マムシのクロタロトキシン)などさまざまの毒素が分泌される。両生類,魚類には皮膚腺が毒液を分泌するものがある。…

※「マムシ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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