家庭医学館 「門脈圧亢進症」の解説
もんみゃくあつこうしんしょう【門脈圧亢進症 Portal Hypertension】
正常な人の門脈(もんみゃく)(コラム「門脈とは」)内の圧(門脈圧(もんみゃくあつ))は、あおむけに寝た状態(背臥位(はいがい))で、水柱圧で100~150mmH2Oです。この圧が200以上のときを、門脈圧が亢進(こうしん)しているといいます。
門脈圧は腹圧(ふくあつ)、体位、歩行、食事、せきなどの影響を受け、生理的にも変動しますが、門脈圧亢進症という場合は、門脈系におこる血流の循環障害(じゅんかんしょうがい)によって、門脈内の圧が高くなり、いろいろな症状が現われた場合を指します。
つまり、肝臓(かんぞう)を中心とした血液循環の異常として理解されるべき病態で、原因となる病気としては肝硬変(かんこうへん)(「肝硬変」)がもっとも多いものです。
門脈圧亢進症は、それをおこした原因となる部位から、肝前性(かんぜんせい)、肝内性(かんないせい)、肝後性(かんごせい)に分類されています。肝前性には門脈血栓症(もんみゃくけっせんしょう)(「門脈血栓症」)が、肝内性には肝硬変症が、肝後性にはバッド・キアリ症候群(しょうこうぐん)(「バッド・キアリ症候群」)があげられます。
また、肝内性で原因が不明な特発性門脈圧亢進症(とくはつせいもんみゃくあつこうしんしょう)があります。
[症状]
門脈の正常な血流が障害される結果、静脈血(じょうみゃくけつ)が肝臓を迂回(うかい)して大静脈系(だいじょうみゃくけい)に流入するようになります。門脈系と大静脈系との間に側副血行路(そくふくけっこうろ)という血液の通り道(循環系)が形成されます。症状は、その形態異常(けいたいいじょう)によるものと、肝臓の機能不全(きのうふぜん)にともなうものとに分けられます。
形態異常による症状は、食道(しょくどう)・胃静脈瘤(いじょうみゃくりゅう)およびその破裂(はれつ)による消化管出血(しょうかかんしゅっけつ)(吐血(とけつ)、下血(げけつ))、腹壁静脈怒張(ふくへきじょうみゃくどちょう)、直腸(ちょくちょう)・痔静脈瘤(じじょうみゃくりゅう)などで、ほかに最近注目されているのが門脈圧亢進症性胃症(もんみゃくあつこうしんしょうせいいしょう)です。これは門脈圧亢進によって胃粘膜(いねんまく)の血流が門脈に円滑に還流(かんりゅう)されなくなった状態で、胃粘膜にびらん(ただれ)や出血巣(しゅっけつそう)がみられるものです。
肝臓機能の低下による症状には、肝性脳症(かんせいのうしょう)といわれる意識障害があります。さらに、形態異常と肝機能低下が複雑にかかわっておこる腹水(ふくすい)と脾腫(ひしゅ)(脾臓(ひぞう)の腫(は)れ)があります。
以上のように、腹水による腹部膨満感(ふくぶぼうまんかん)、下肢(かし)の浮腫(ふしゅ)(むくみ)、消化管出血にともなう黒色便(こくしょくべん)、意識障害、腹部の血管怒張などが主症状となります。
脾腫による貧血(ひんけつ)がもたらす動悸(どうき)や息切れは、貧血が徐々に進行するせいか、それほど強くないようです。
[検査と診断]
血液検査を行なうと、赤血球(せっけっきゅう)・白血球(はっけっきゅう)・血小板(けっしょうばん)の減少がみられ、肝機能検査値にも異常がみられますが、その程度は原因となった病気によってさまざまです。
食道や胃の病変を調べるために、X線検査または内視鏡検査(ないしきょうけんさ)が行なわれます。とくに内視鏡は診断の確定と静脈瘤の治療方針の決定に不可欠です。
そのほか、腹部超音波検査(ふくぶちょうおんぱけんさ)やCT検査などの画像検査が簡便で有用であり、外来で実施されます。さらに血管造影が必要な場合もあります。
[治療]
食道静脈瘤と胃静脈瘤の治療、腹水の治療、脾腫の治療とに分けて述べます。
●食道静脈瘤と胃静脈瘤の治療
内視鏡検査の結果、静脈瘤が大きく、また発赤(ほっせき)(赤らみ)がある場合は破裂しやすいため、予防措置として血管を固める薬剤を注入する方法(硬化療法(こうかりょうほう))や、血管を縛(しば)る結紮療法(けっさつりょうほう)、さらに両者の併用法が行なわれ、良好な治療成績を収めています。
●腹水の治療
肝硬変による腹水には、減塩食と利尿薬(りにょうやく)の使用が有効なことが多いのですが、体内のアルブミンが減ってくると反応しません。そこで、点滴(てんてき)などの非経口的(ひけいこうてき)な方法でアルブミンを補います。
●脾腫の治療
肝硬変の際、脾腫が貧血の原因になっているとの想定から、脾臓を摘出(てきしゅつ)したり、部分的に梗塞(こうそく)(血管の閉塞(へいそく))をつくって改善させる方法(経脾動脈的部分脾塞栓術(けいひどうみゃくてきぶぶんひそくせんじゅつ))があります。しかし、脾腫は肝硬変の病状進展と密接に関連しているため、問題がないわけではありません。
[日常生活の注意]
定期的に検査を受けることです。また、肝硬変は慢性肝炎(まんせいかんえん)が進行してなるものですから、肝炎の治療が最大の予防法でもあります。