連合(政治学)(読み)れんごう(英語表記)coalition

翻訳|coalition

日本大百科全書(ニッポニカ) 「連合(政治学)」の意味・わかりやすい解説

連合(政治学)
れんごう
coalition

連合とは以下の4点について同意した複数のプレイヤー間の協働関係である。(1)明確に規定された共通目標の追求、(2)目標達成資源の共同提供、(3)目標・目標達成手段に関する積極的情報交換、(4)連合形成時に受け取るペイオフ分配(E・W・キリーの説による)。思想一致政策合意を基礎とせず「数の論理」だけで二つ以上の集団が結集する「野合」でもないし、複数集団が自己解体し統一ラベルの下に合体する「合同」でもない。また、権力レベルだけで複数の集団が暫定的に協働関係を樹立する「連立」でもない。連合(政治)とは、市民レベル、選挙レベル、議会レベル、権力レベルで複数集団間の協働関係が一つの(政治)スタイルとして定着・構造化しているシステムの(政治)スタイルである。

 連合を形成することによってプレイヤーが獲得できる利得を「連合ペイオフ」という。連合ペイオフ(たとえば、閣僚ポスト、院内重要ポスト、知識・情報・専門技術、政治献金パイプ、コミュニケーション・チャネルなど)は、連合を実際に形成するプレイヤーだけが獲得できる利得であり、連合パートナーは一定のルールに従って(たとえば、議席数に比例して)分配することができる。

 連合は、形成される連合の規模から三つのパターンに分類できる(L・ドッドの説による)。(1)過大規模連合――これは連合から排除しても一定の勝利基準(たとえば、議会政治では議会内議席の50%プラス一議席)を達成・確保するうえで別段支障のないパートナー(つまり「余分なパートナー」)を少なくとも一つ含んでいる連合である。「余分なパートナー」の数が多いほど、その連合はいっそう過大になる。「余分なパートナー」にも連合ペイオフを分配しなければならないので、ペイオフをめぐる不満が蓄積されるし、イデオロギー距離も大きくなるので、一般に、安定度は想像されるほど高くない。大連合はこのパターンの一変形である。(2)過小規模連合――これは、二つ以上のパートナーが連合してもなおかつ一定の勝利基準を達成できない連合である。つまり、勝利基準を確保するうえで必要なだけのパートナーを含んでいない連合である。この連合は、ペイオフの分配ではパートナーを十分に満足させるが、その運命、業績達成力を連合外勢力にゆだねなければならないので不安定・弱体になる傾向がある。(3)最小勝利連合――これは一定の勝利基準を達成するうえで必要なパートナーを含んでいるが、不必要なパートナーはいっさい含んでいない連合である。連合ペイオフの公平な配分が可能で、パートナー間のイデオロギー距離も極端に大きくならないので、安定度が高く、すべてのプレイヤーは原則としてこのタイプの連合を形成しようと努力する。

 また、形成される連合のパートナーの基本的思想、全体的な勢力分布上の位置を基準にして、(1)隣接同盟型連合と(2)ブリッジ型連合、に分類できる。前者は、思想基盤が隣接しているパートナー間の連合であり、規模がどうであれパートナーに要求される妥協の幅が小さいので、安定度が高い。後者は、思想基盤があまり接点をもたぬパートナー間の連合であり、パートナーの一部に大きな妥協を要求する連合であるため、ペイオフの過剰配分で懐柔できぬときには不満を蓄積させる。連合外勢力は野合という非難を浴びせるであろう。

 連合理論は、連合の形成・維持(経営)・解消(消滅)の全過程を視野に入れ、実証的・体系的な理論を展開しているが、現時点では解消論(連合の寿命論)に研究業績が集中する傾向がある。一般的には、次のような法則が現実的説明能力をもっている。(1)連合の規模――過大規模連合、過小規模連合は、最小勝利連合に比べ安定度が低い。(2)連合パートナー間のイデオロギー距離――イデオロギー距離が大きいほど、思想的親和力が小さくなるので、安定度は低下する。(3)連合パートナーのイデオロギーへの感情移入度――思想的純度を最優先する非妥協的なイデオロギー指向の組織は、思想的純度よりもポストなどの連合ペイオフを重視するプラグマティズム指向の組織に比べ、連合維持の阻止要因となりやすい。思想的妥協を要求しない連合などありえない。(4)連合パートナーの数――連合パートナーの数が多いほど、連合交渉・調整が困難になる。連合ペイオフの分配、政策合意の形成をめぐる不満が累積し、連合離脱宣言をバーゲニング(相手側から有利な条件を引き出すこと)の武器として活用しようとするパートナーが出現する可能性が大きくなるからである。(5)運動の方向――ジュニア・パートナーの地位に甘んずべき小規模のパートナーがポストや政策への不満から遠心的運動に傾斜し、連合外勢力に接近しようとする傾向を備えているとき、連合に必要な求心性が低いため連合維持が困難になる。(6)外的条件――連合を要求・促進する事態(たとえば、絶対多数政党の欠如、戦争、経済危機など)が継続している場合に比べ、それが消滅したときのほうが連合維持は困難になる。

[岡沢憲芙]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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