追い星(読み)おいぼし

日本大百科全書(ニッポニカ) 「追い星」の意味・わかりやすい解説

追い星
おいぼし

産卵期を中心に、主として淡水産の硬骨魚類の雄の体表に現れる白色で瘤(りゅう)状の小突起物。表皮細胞が異常に肥大・増成した二次性徴であり、その出現は性ホルモンの分泌によって促進される。雄性ホルモンを与えた雌にもよく発達し、反対に精巣を除去した雄では消失する。追い星は、コイ科の魚に出現することがよく知られているが、それに近縁のカトストマス科の魚、アユ、カジカ科のカマキリアユカケ)、北米淡水魚のスズキ類Etheostomatinaeなどにもみられる。吻端(ふんたん)や目の周辺、鰓蓋(さいがい)などの頭部、鱗(うろこ)、ひれなどに散在する。普通、雄に発達するので、雌雄の判定に使われるが、淡水魚のコイ、ウグイオイカワワタカタモロコホンモロコムギツク、アユなどでは雌にもわずかではあるが出現する。

 追い星のうち、表面が角質層で覆われたものを真珠器(または繁殖粒)、瘤状突起の中心に硬い骨質物を備えたものを接触器という。真珠器はもっとも普通の追い星であり、急流にすむか、または急流で繁殖する淡水魚と、少数の海水魚に限って発達する。このような魚類の大部分では体の鱗は円鱗(えんりん)である。櫛鱗(しつりん)で体を保護された魚は、鱗上の小棘(しょうきょく)が追い星の役割を果たしていると考えられている。コイ科の魚類には真珠器をもったものが多いが、サケ科の仲間、アユ科、キュウリウオ科、スズキ類にも認められる。接触器は、鱗やひれの上に発達する追い星である。ダツ科の仲間、メダカ類、カラシン類、カジカ科の魚類にみられる。

 追い星の機能は種類によって異なる。産卵のための巣や縄張りテリトリー)をつくるものでは、侵入者に体をぶっつけて追い星で傷を与えて追いやる効果がある。また、雄が雌を突っついて性的刺激を大きくする。さらに、産卵中に速い流れの中で雌雄が体の接触を維持するのに役だてられる。そのほか、追い星によって同種または異性の認知をすることが知られている。

落合 明・尼岡邦夫]

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