ワタカ(読み)わたか

改訂新版 世界大百科事典 「ワタカ」の意味・わかりやすい解説

ワタカ (黄錮魚)
Ischikauia steenackeri

ワダカワタコ琵琶湖沿岸),ウマウオ(馬魚,奈良)などとも呼ばれる。コイ目コイ科の淡水魚。日本特産種で天然の分布は琵琶湖・淀川水系に限られる。奈良東大寺境内にある鏡池の馬魚はワタカであるが,これは天理市にあった旧永久寺境内の本堂池から1919年に移されたものである。本堂池の馬魚には〈後醍醐天皇の御乗馬の首が斬り落とされてこの魚になった〉との伝説がある。津田松苗によればこの伝説の馬魚はおそらく江戸時代に琵琶湖・淀川水系より移殖されたものと推定されている。琵琶湖では湖南部の水草の繁茂した温水域に多く,数尾ずつ小群をなして水面近くを泳ぐ。雑食性であるが水草や水辺の陸草を好み水田に入って冠水した稲を食害することもある。産卵期は6~7月。形はオイカワに似るが体は側扁し,腹びれとしりびれとの間の腹面は側扁して隆起縁になっている。口は小さく眼は大きい。成魚の全長20~30cm。近年島根県松江地方や関東平野にも移殖され繁殖している。江戸川下流ではよく投網で漁獲される。食用になるが美味ではない。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ワタカ」の意味・わかりやすい解説

ワタカ
わたか / 黄錮魚
[学] Ishikauia steenackeri

硬骨魚綱コイ目コイ科に属する淡水魚。ワタコ、セムシともよぶ。琵琶湖(びわこ)淀川(よどがわ)水系の特産種であったが、近年は関東、中国、四国、九州など各地に広がりつつある。口は斜め上を向き、側線下方へ湾曲している。肛門(こうもん)より前方の腹面に船の竜骨状の隆起がみられる。琵琶湖では南部沿岸や内湖の水草帯内とその周辺に多く、全長10センチメートル以下のものは小動物や藻類を、10センチメートル以上のものは水草類を、それぞれ主食とする。奈良地方の方言ウマウオ(馬魚)は、この草食性と背面の盛り上がりに由来したものである。食用として、それほどまずくはないらしいが、鮮度が落ちるのが早いので、市場には出ない。なれずしの材料にも用いられる。

[水野信彦]

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世界大百科事典(旧版)内のワタカの言及

【琵琶湖】より

…それが他水域では絶滅してしまい,今では琵琶湖だけに残ってすんでいるものがいる。その典型例は草食魚のワタカである。そして,魚食魚のハス(福井県三方湖にもすむ),底生動物食のスゴモロコとデメモロコ(濃尾平野にも),数が減ったために天然記念物に指定されたアユモドキ(岡山県にも)もまた,近縁種ないし亜種が大陸に広く分布する。…

※「ワタカ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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