近世人(読み)きんせいじん

改訂新版 世界大百科事典 「近世人」の意味・わかりやすい解説

近世人 (きんせいじん)

江戸時代の人々を指し,これまで主に都市部(江戸や大坂博多など)から多くの人骨が出土して,その身体的特徴のほか,各種の疾病の罹患状況なども明らかにされている。一般的にまだ中世人的な特徴の名残りもみられるが,より現代人に近付く傾向が認められ,例えば頭型では中世人に比べるとやや長頭性が弱まり,顔面の幅の減少と高さの増加なども確認できる。ただ,現代人ほどの高狭顔傾向は見られず,歯槽性突顎(いわゆるそっ歯)も比較的強くて,歯並びの悪い人(乱杭歯)が多い。また,非常に背が低く,平本嘉助が調べた関東地方の江戸時代人は,男性で155~156cm,女性は147~148cmで,日本の歴史上もっとも背が低くなった時代とされる(1971)。手足の骨も前時代の人々に比べてより華奢になる傾向が見られるが,頭蓋形態も含めて社会階層や都市と農村間などでも少し違いがあることも明らかにされている。こうした中で,貴族階級の人々や一部の庶民の中には,面長で鼻幅なども狭い現代人的容貌の人(貴族形質)が現れはじめることも指摘されている。またその一方で,江戸などの都市部の庶民の人骨には,鉄欠乏性貧血によるクリブラオルビタリア(眼窩壁多孔症。すなわち骨内部の造血組織が過剰に増殖して,眼窩上壁に小孔が開く現象)や,重篤な疾病などによるエナメル質減形成などのストレスマーカーが高頻度で観察され,梅毒結核などの事例も多く,歴史人口学において〈蟻地獄〉に例えられるような,かなり厳しい生活環境にあったことが骨からも窺える。
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