質(しち)(読み)しち

日本大百科全書(ニッポニカ) 「質(しち)」の意味・わかりやすい解説

質(しち)
しち

現代では、質とは債権の物的担保の一つであり、占有を移転することにより成立する物であり、移転しないで成立する抵当とは明らかに区別されるが、歴史的には時代により異なる意味をもつ。

 古代で質ということばは今日の質(占有質)と抵当(無占有質)とを含んだ。中世でも質が占有質と無占有質とを含むことばであったことは変わりはないが、両者を区別するときは、占有質を入質(いれじち)、無占有質を見質(みじち)または差質(さしじち)とよんだ。中世の動産質は明らかに占有質であり、債務不履行のときは流質となる帰属質であった。当時、質屋のことを土倉(どそう)、庫倉(くら)、蔵本(くらもと)とよんだ。不動産の入質は、債権者が目的不動産を占有し、収益する質である。したがって利子を付することができず、一般に流質とならなかった。収益は利子に充当する場合と、利子と元本消却に充当する場合があった。前者の場合、債務者は元本を別に弁済しなければならなかったが、室町幕府は1440年(永享12)に、債務者保護のために、質地からの収益が元本と同額に達すると、その田畑は債務者に返還すべきことに定めた。奴婢(ぬひ)や当該不動産の権原ないし伝承の由来を示す手継(てつぎ)文書の入質もあった。

 近世では、中世の見質に相当する無占有質は一般に書入(かきいれ)といわれ、質ということばは占有質だけを意味することになった。動産質は主として質屋で行われた。質入れに際しては、質屋は置主・証人両者の印形をとり、質置主に質札を渡した。質物が盗難または火災で滅失したときは、前代以来の例で債務も消滅したが、それ以外の事由で質物が紛失したときは、質屋は元金の倍額を返済しなければならなかった。田畑の質入れは質入証文の文言により、(1)年季明け後流地となる質、(2)年季明け後請け戻す質、(3)年季の定めがなく債務者がいつでも請け戻せる質に分けられるが、江戸中期では(2)、後期では(1)が普通であった。江戸時代には、土地の質入れについて、とくに厳格な規定が設けられており、法律の定める要件を欠く質地の訴えは受理されず、あるいは書入とみなされ、ときには関係者は処罰された。その要件のうち、とくに重視されたのは名主(なぬし)の加印であるが、これは質契約の適法性を証明するものであった。質地からの収益は、債務元本の利子にかわるものであるから、質取主は利子を徴収できなかった。なお、家質は質とは称するものの、家屋敷の抵当であって、質(占有質)ではない。

[石井良助]

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