脳血栓(読み)ノウケッセン

デジタル大辞泉 「脳血栓」の意味・読み・例文・類語

のう‐けっせん〔ナウ‐〕【脳血栓】

脳動脈に動脈硬化などによって生じた血液の塊が詰まるために起こる疾患。片麻痺へんまひ失語などの症状がみられ、時間がたつにつれて強くなる。脳血栓症。→脳梗塞

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内科学 第10版 「脳血栓」の解説

脳血栓(血管障害)

定義・概念
 脳血流にて供給されるグルコースと酸素により,脳は活発な神経活動を行うが,自らはグリコーゲンなどのエネルギーの備蓄をしていない.したがって脳血管閉塞により脳血流が正常の30%以下になるとシナプス機能障害が発生,10~20%に至ると血流再開が短時間で得られなければ,脳実質に非可逆的障害すなわち神経細胞死や梗塞に至る.脳血管の狭窄や閉塞の部位,それによる虚血の深度,虚血部への側副血行路の程度,再灌流を得た時間により梗塞巣の大きさや脳梗塞による症状が規定される.脳梗塞のうち脳主幹動脈の粥腫 (atheroma)または穿通枝動脈の微小粥腫(microatheroma)を基盤として血栓による脳血管が閉塞する病態を脳血栓症とよぶ.高齢者に頻発し,片麻痺や失語,認知症という難治性の後遺症をのこし本人や家族を悲憾に暮れさせ,健康寿命の短縮すなわち要支援・要介護となる社会的・医療経済的な問題を露呈する.
分子病態
 血流低下や途絶により酸素とグルコース供給欠乏によりミトコンドリア電子伝達系におけるATP産生停止からのNa/Kイオンポンプ停止,神経細胞膜の脱分極持続が生じる.興奮性アミノ酸がシナプス間隙に大量放出され,そのシナプス受容体が過興奮し細胞内へカルシウムイオンが破綻的に流入する.カルシウムにより活性化された種々の酵素が,血管内皮・ミトコンドリア・細胞膜脂質を連鎖変性せしめ,同時に血管内や細胞内で産生された活性酸素とともに,蛋白質・脂質・核酸など細胞構成分子を破壊する連鎖反応を生じ,壊死やアポトーシスを介して神経細胞は死に至る(図15-5-5).しかし,血流再開が早いと神経細胞は回復しさらに耐性現象(ischemic tolerance)を獲得,損傷されたシナプスの再生(resynaptogenesis)や神経幹細胞による再生(neurogenesis)が働き,脳梗塞後の機能回復に関与するといわれ,現在のニューロリハビリテーションにおける研究トピックスとなっている.
病態生理と治療概念
 血管閉塞急性期には,梗塞から免れない虚血中心部(ischemic core)の周辺に脳血流の低下が解除されれば回復する虚血性ペナンブラ(ischemic penumbra)がある(図15-5-6).一刻も早く閉塞血栓を溶解して局所脳血流を回復させ,ペナンブラ領域の救援により脳機能保護を目指すのが超急性期再灌流療法の基本治療理念である(Time lost is Brain function lost.).
疫学
 わが国には脳卒中を罹患した患者は150万人おり,日本脳卒中データバンク2009によると急性期脳卒中の半数が脳血栓症である.厚生労働省平成22年国民生活基礎調査によると介護が必要となった原因として脳卒中が全体の21%第1位を占める.
発生機序による分類
 脳梗塞は塞栓源性心疾患や不整脈を有する心原性脳塞栓症と脳血栓症に分類され,後者は穿通動脈病変によるラクナ梗塞と脳血管主幹動脈病変による局所血栓性閉塞または遠位への血栓の塞栓による梗塞症をまとめてアテローム血栓性脳梗塞に分類される.また,脳主幹動脈閉塞や高度狭窄により灌流領域の血流低下により梗塞に至るのを血行力学的脳梗塞とよぶ.画像上梗塞巣が出現しても神経症候が24時間以内に消失すれば,現時点では一過性脳虚血発作(transient ischemic attack:TIA)と定義するが,その発生機序を確認して脳梗塞と同様に再発予防策を講ずる.[大槻俊輔・松本昌泰]

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「脳血栓」の意味・わかりやすい解説

脳血栓
のうけっせん

脳動脈硬化による血管内腔(ないくう)の狭窄(きょうさく)を基盤として閉塞(へいそく)が生じ、血流が遮断される結果、閉塞された動脈領域に壊死(えし)をおこし、脳梗塞(こうそく)が形成される疾患をいう。

[荒木五郎]

症状

しばしば一過性脳虚血発作が前駆症状としてみられる。一般に症状は徐々に経過し、言語障害や片麻痺(へんまひ)などの神経症状は数分ないし数時間、あるいはそれ以上かかって出そろい、また段階的に進行する。頭痛はないか、あっても軽度である。意識障害もないか軽度であるが、片麻痺、失語症、半盲症などの神経症状が明らかに把握できる。高血圧は脳出血ほど密接な関係がなく、半数は正常血圧か低血圧である。腰椎穿刺(ようついせんし)によって採取した髄液は、水様で透明である。

 脳血栓は、閉塞する血管の部位によって症状ならびに予後も異なる。大脳半球では、内頸(ないけい)動脈、中大脳動脈、前大脳動脈、後大脳動脈などの主幹動脈の閉塞による皮質枝梗塞と、線条体動脈、視床膝(しつ)状体動脈などの穿通枝動脈の閉塞による基底核梗塞とに分けられる。内頸動脈や中大脳動脈領域の障害では、片麻痺(上肢が下肢より麻痺が強い)、失語症、半盲症(右または左半分の視野欠損)、失行(行為錯誤)、失認(認知不能)などの症状がみられる。前大脳動脈領域では、種々の精神症状、尿閉、尿失禁、片麻痺(上肢より下肢が強い)がみられ、後大脳動脈領域では、半盲症や、字は書けるが読めない現象がおきる。また脳幹では、椎骨(ついこつ)・脳底動脈系の血管閉塞によって、小脳、延髄、橋(きょう)などに脳梗塞がおこる。この領域では、めまい、眼振(他覚的に容易に認められる眼球の律動的運動)、平衡障害などがくるのが特徴である。なお、穿通枝動脈領域では、片麻痺と知覚鈍麻だけがくる。脳血栓は一般に生命の予後はよいが、合併症で死亡することがある。

[荒木五郎]

治療

血圧は急性期には下げないのが原則である。ウロキナーゼで血栓を溶かそうとする線維素溶解(線溶)療法をはじめ、血小板凝集抑制剤、脳循環改善剤、赤血球変形能改善剤などが用いられているが、効果はなお明らかではない。リハビリテーションは発病1、2週から始める。

[荒木五郎]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「脳血栓」の意味・わかりやすい解説

脳血栓
のうけっせん
cerebral thrombosis

脳梗塞にしばしば認められる現象で,脳動脈に粥状動脈硬化や梅毒性動脈炎があって,血栓症を起すものをいう。一般に老人に多く,突発することは少く,徐々に段階的に進行し知覚,運動の障害を起す。急性期の死亡率は脳出血に比べて少いが,脳卒中の主因になる。

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生活習慣病用語辞典 「脳血栓」の解説

脳血栓

脳の血管で動脈硬化が進むにつれ、徐々に血管の通路が狭くなります。狭くなった通路を通らなければならない血液は固まりやすい状態になり、やがて血の塊 (血栓) ができます。この血栓が、脳の血管に詰まって起きる病気で、脳梗塞の 1 つです。

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改訂新版 世界大百科事典 「脳血栓」の意味・わかりやすい解説

脳血栓 (のうけっせん)

脳梗塞(のうこうそく)

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栄養・生化学辞典 「脳血栓」の解説

脳血栓

 脳内血管に血栓が生じること.

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