動脈硬化(読み)どうみゃくこうか(英語表記)Arteriosclerosis

六訂版 家庭医学大全科 「動脈硬化」の解説

動脈硬化
どうみゃくこうか
Arteriosclerosis
(循環器の病気)

どんな病気か

 体のすみずみまで酸素や栄養素を運ぶ重要な役割を果たしているのが動脈です。この動脈が年齢とともに老化し、弾力性が失われて硬くなったり、動脈内にさまざまな物質が沈着して血管が狭くなり、血液の流れが滞る状態を動脈硬化といいます。

 動脈硬化は、①粥状(じゅくじょう)硬化、②細動脈(さいどうみゃく)硬化、③中膜(ちゅうまく)硬化の3種類に分類されます。動脈は内膜、中膜、外膜の三層からなっていますが、①は太い、または中等度の太さの動脈の内膜に、③は中膜に主に変化が起きます。一方、②は末梢の細い動脈が硬化するものです。臨床的に問題になるのは①と②です。

原因は何か

 臨床的に最も重要である粥状硬化は、大動脈、脳動脈、冠動脈など比較的太い動脈に起こる硬化で、動脈の内膜にコレステロールなどの脂肪からなる粥腫(じゅくしゅ)(アテローム)ができ、次第に肥厚することで動脈の内腔が狭くなります(図26)。粥腫が破れると血栓がつくられ、動脈は完全にふさがります。

 粥腫のもとになる悪玉コレステロール(LDLコレステロール)は、動物性脂肪に多く含まれています。一方、善玉コレステロール(HDLコレステロール)は、動脈硬化を抑える作用があります。中性脂肪も動脈硬化を促すといわれています。中性脂肪値は、糖分やアルコールの摂取などで上昇します。

 細動脈硬化は、脳や腎臓のなかの細い動脈が硬化して血液が滞る動脈硬化です。高血圧が長く続いて引き起こされます。

 動脈硬化を起こしたり、進めたりする原因を“危険因子”と呼びます。脂質異常症高脂血症)、高血圧糖尿病、喫煙、高尿酸血症(こうにょうさんけっしょう)、肥満、運動不足、ストレス、遺伝素因などがあげられます。

 また、これらの危険因子は相互に関係しており、因子が増えれば雪ダルマ式に動脈硬化の危険性が高まります。治療にも予防にも、これらの危険因子を減らすことが大変重要です。

動脈硬化が起こりやすい病気

 動脈硬化は全身の動脈で起こりますが、とくに起こりやすい部位と病気を簡単に説明します。

 詳しくは、それぞれの病気の項をみてください。

脳卒中(のうそっちゅう)

 脳卒中は、脳梗塞(のうこうそく)脳出血(のうしゅっけつ)など脳の血管の血流障害によって起こる病気の総称です。

 脳の動脈硬化により血流障害が起こると、めまい、頭痛、耳鳴りが生じ、記憶力が低下し、気が短くなったり、怒りっぽくなります。ボケなどの症状も現れやすくなります。完全に血流が途絶えると脳梗塞に、もろくなった血管が破れて出血すると脳出血になります。

狭心症(きょうしんしょう)心筋梗塞(しんきんこうそく)

 心臓に酸素や栄養素を運んでいる冠動脈に動脈硬化が起こると、心臓の血流量が減るため、運動時に胸の痛みや息苦しさを感じるようになります。これが狭心症です。さらに粥腫が破れて冠動脈が血栓で完全に詰まった状態になった場合を心筋梗塞といいます。

大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう)

 動脈硬化により胸部や腹部の大動脈の一部がふくれてこぶのようになったものを大動脈瘤といいます。こぶが徐々に大きくなり、ついに破裂して大出血を起こし、死亡することがあります。

腎硬化症(じんこうかしょう)

 高血圧が長期間続くと腎臓のなかの細い動脈に硬化が起こり、腎機能が衰えてきます。夜間に何度も小便に起きるようになり、色の薄い尿がたくさん出ます。高血圧が急にひどくなることもあります。

閉塞性動脈硬化症(へいそくせいどうみゃくこうかしょう)

 動脈硬化が下肢の動脈に起こり、血流が滞ると、足がしびれたり、冷たく感じたり、歩行中に痛くなったりします。

検査と診断

 危険因子の検索を行います。まず、血圧測定で高血圧の有無を調べます。血液検査では、血液中のコレステロール、中性脂肪、糖、尿酸の量を測定し、脂質異常症糖尿病高尿酸血症などがあるかどうかを調べます。血液の流れる速度(脈波伝搬(みゃくはでんぱん)速度)を測定することにより動脈硬化の程度を推定することができます。

 さらに、動脈硬化の起こっている部位を特定するための検査を行います。眼底検査により網膜の動脈の変化をみます。網膜に細動脈硬化がみられる場合は、ほぼ同程度の細動脈硬化が脳の動脈にも起こっている可能性があります。

 (けい)動脈、大動脈、腎動脈や下肢動脈の粥状硬化は、CT、MRIや超音波検査で調べます。血管造影検査が必要な場合もあります。冠動脈の硬化は、運動負荷検査や心臓カテーテル検査で調べます。

治療の方法

 まず、食事や運動などの生活習慣を変えることで、危険因子を除去することが、動脈硬化による病気の治療、予防に重要です。

①運動

 肥満は動脈硬化の進行を早めるので、食べすぎに気をつけるとともに、日ごろから体を動かすことが大切です。ウォーキングや軽いジョギングを毎日続けると中性脂肪が減り、善玉コレステロールが増え、動脈硬化に対する予防的、あるいは治療的な効果があります。運動は高血圧糖尿病の予防にもなります。

②食事療法

 動脈硬化の発症、進行を早める肉、卵、バターなどの動物性脂肪をとりすぎないように注意します。マーガリンやサラダ油などの植物性脂肪からできたものを利用し、蛋白質では魚肉や大豆を増やすようにします。

 イワシ、サバ、サンマなどの青魚には、血液中のコレステロールや中性脂肪を低下させて、血液が固まりにくくする作用があります。また、食物繊維は小腸でコレステロールの吸収を妨げて、排泄する作用があります。ゴボウなどの野菜、海藻類、キノコ類、コンニャクなどに多く含まれていて、肥満防止にもなります。

 塩分のとりすぎは高血圧、糖分のとりすぎは糖尿病などの原因になるため、注意が必要です。アルコールはほどほどにして、たばこはやめるのがいちばんです。

③薬物治療

 動脈硬化の薬物治療としては、コレステロールを低下させる薬剤が最も重要です。最近は、HMG­CoA還元酵素阻害薬のような、確実にコレステロールを低下させる薬剤が広く使われています。また、血管が詰まるのを防ぐために、抗血小板薬も用いられます。高血圧糖尿病高尿酸血症に対する薬物治療も大切です。

④外科的治療

 粥腫で血管内腔が狭くなっている場合には、バイパス手術やカテーテルによる血管拡張療法で血流を回復する治療も行われます。

池田 宇一


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百科事典マイペディア 「動脈硬化」の意味・わかりやすい解説

動脈硬化【どうみゃくこうか】

動脈が肥厚・硬化して弾力性が失われた状態。老化現象の一種だが,若年者に起こる場合は遺伝的関係が濃い。脂質,特にコレステロールが動脈壁内面に沈着し,粉瘤(ふんりゅう)を形成するアテローム(粥状)硬化症や,動脈の中膜に石灰沈着などを呈する中膜硬化症のほか,本態性高血圧の際,おもに腎臓など内臓の細動脈・小動脈に発生して動脈壁が肥厚し,内腔が狭くなる細小動脈硬化症がある。最も有害なアテローム硬化症は脳動脈,冠状動脈などに起こりやすく,脳動脈硬化では頭痛,めまい,精神異常などを呈し,脳梗塞(こうそく)の原因となる。冠状動脈硬化では心臓部疼痛(とうつう)や不整脈などを呈し,狭心症心筋梗塞などの原因となる。治療は薬物による原因の除去のほか食事療法が必要。極端に血管が細くなっている場合は,手術で血管の内膜や粥腫を除いたり,人工血管やバイパス術,バルーン療法などを行う。
→関連項目ウェルナー症候群高コレステロール血症小児成人病成人病大動脈瘤テオフィリン動脈瘤脳溢血不眠症老人病

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精選版 日本国語大辞典 「動脈硬化」の意味・読み・例文・類語

どうみゃく‐こうか ‥カウクヮ【動脈硬化】

〘名〙
※真理の春(1930)〈細田民樹〉手形の手品師「動脈硬化(ドウミャクカウクヮ)を進ませまいとして」
② 物の流れが悪くなった状態。転じて、物の考え方や感受性などに柔軟なところがなくなっている状態。
※芸術・歴史・人間(1946)〈本多秋五〉四「彼等の多くはすでに覆(おほ)ひがたい動脈硬化の兆候を見せてゐる」

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生活習慣病用語辞典 「動脈硬化」の解説

動脈硬化

動脈の壁にコレステロールなどの脂肪を含む物質が沈着し、血管が狭くなったり、固くなったりして弾力が失われた状態。このため、血液の流れが悪くなり、血管の弾力性が失われ固くなるため血管がもろく壊れやすくなります。全身どの動脈にも発生します。

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デジタル大辞泉 「動脈硬化」の意味・読み・例文・類語

どうみゃく‐こうか〔‐カウクワ〕【動脈硬化】

動脈硬化症」の略。
考え方や感受性などが柔軟でなくなるたとえ。

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栄養・生化学辞典 「動脈硬化」の解説

動脈硬化

 動脈が固くなることで,血栓などを起こしやすい状態を作る.

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世界大百科事典 第2版 「動脈硬化」の意味・わかりやすい解説

どうみゃくこうか【動脈硬化 arterial sclerosis】

動脈壁の肥厚,硬化,構造変化,機能低下による動脈病変の総称。動脈硬化が進むと血流が妨げられたり,血管壁の壊死によって出血するなど,循環障害を起こし,また脳動脈硬化は脳卒中(脳出血や脳梗塞(こうそく)),冠状動脈硬化は虚血性心疾患などの原因となる。
[動脈硬化の分類]
 動脈硬化は病理形態学的には粥状硬化,中膜硬化,小・細動脈硬化の3型に分類される。(1)粥状硬化 アテローム硬化ともいう。3型のうち最も多くみられ,脳,心臓,末梢血管の循環障害をひき起こし,脳卒中や虚血性心疾患などの原因となるので,臨床上重要である。

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世界大百科事典内の動脈硬化の言及

【血管系】より

…血管では重複大動脈弓,右側大動脈弓,大動脈弓分枝異常,重複下大静脈など大血管にも大きな形成異常が知られているが,高年齢まで生存する者も多い。 動脈硬化は動脈の長年にわたる障害の結果で,老人性変化の一つである。動脈壁の肥厚,硬化,改築を示す限局性病変の総称で,粥状硬化,中膜硬化,細動脈硬化などがあるが,一般に動脈硬化といえば粥状硬化を指す。…

【糖尿病】より

…(4)口の渇き,多飲,多尿,急速な体重減少が生じやすく,重症になると昏睡におちいる。(5)細い小血管が障害されるために,網膜,腎臓,神経が侵されやすく,動脈硬化も促進される。(6)適当量の食事,適度の運動,インシュリンや経口糖尿病薬などの投与で病態は改善できる。…

【脳梗塞】より

…脳梗塞は次の四つに大きく分けられる。すなわち,動脈硬化であるアテローム硬化を伴う脳血栓症,脳塞栓症,他の原因による脳梗塞,原因不明の脳梗塞である。(1)アテローム硬化を伴う脳血栓症 頸動脈や脳動脈にアテローム硬化をきたし,その部に凝血塊(血栓)を生じるもので,俗に脳血栓ともいわれる。…

【鼻血】より

…原因が不明な特発性のグループは鼻出血総数の約80%を占め,なんの心当りもないのに突然に,しかも出血の時間は短時間(数分から10分以内)に限られる特徴がある。原因が明らかな症候性のものには,外傷,鼻の腫瘍,高血圧症,動脈硬化症,白血病,貧血などさまざまな病気がある。小児の鼻出血に多い原因は外傷で,頭や顔を打った,鼻炎や副鼻腔炎でくしゃみや鼻をかむ回数が多い,鼻腔に異物を入れた,鼻をこすったりほじったりした,などがよくみられる。…

※「動脈硬化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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