病巣感染(読み)びょうそうかんせん(英語表記)focal infection

翻訳|focal infection

改訂新版 世界大百科事典 「病巣感染」の意味・わかりやすい解説

病巣感染 (びょうそうかんせん)
focal infection

扁桃などの炎症性疾患が原因となり,リウマチなどのような全身性二次的疾患をひき起こすことをいう。この現象は古くから知られてきたが,ビリングJ.S.Billingが初めてこの現象を〈病巣感染〉と名づけた(1912)。すなわち身体のどこかに限局した慢性の炎症性病巣(これを原病巣focusという。たとえば慢性扁桃炎など)があり,それ自体はほとんど無症状か,もしくはときに軽い症状を呈するといった程度にすぎないのに,病巣から離れた各種臓器(たとえば腎臓)に障害,すなわち二次的疾患(たとえば腎炎)を起こすことをいう。

 原病巣として最もよく知られているのが扁桃,次いで歯牙関係疾患であり,それぞれ60%,30%を占めるという。ほかに副鼻腔,中耳,気管支胆囊,虫垂,大腸,前立腺,子宮付属器,リンパ節などが挙げられる。これら病巣が存在することにより,ひき起こされる疾患に腎炎などの腎臓疾患(糸球体腎炎,腎盂(じんう)腎炎,ネフローゼ,亜慢性腎炎,特発性腎出血など),リウマチ熱などのリウマチ性疾患ならびに各種膠原(こうげん)病があり,ほかに手のひらや足の裏に膿疱を形成する掌蹠膿疱症を中心とした各種皮膚疾患ならびに不明熱(内科的精査で原因のはっきりしない慢性の微熱)などが挙げられる。原病巣が扁桃の場合は早期に扁桃のくぼみである陰窩(いんか)を洗浄するか,手術で扁桃を摘出することによって完全治癒あるいは症状の寛解が期待される。

 本疾患成立の機序は以前,敗血症のように,扁桃などの病巣にかくれている細菌あるいは細菌の出す毒素が直接血管に入って遠く離れた臓器に感染あるいは中毒現象を起こすものと考えられたが,そうではなく,扁桃などの病巣において溶連菌またはブドウ球菌が慢性的炎症ならびに急性増悪(急性化)を繰り返すことにより,原病巣をつくって組織の変性をきたし,この変性した組織から産生される異種物質が抗原(外界からとり込んだ抗原でなく,自己抗原に属する)となってアレルギー性反応を起こし,腎臓,関節,皮膚または他の遠隔臓器に自己抗体病としての腎炎などの二次的疾患を起こすものと考えられ,蛍光抗体法など各種免疫組織学的検索によって立証されている。このようにいったん腎炎やリウマチなどの二次疾患が病巣感染によってひき起こされたと認められる場合,病巣である扁桃などの除去に努めなければいけない。当然事前に両者の関連性を追求すべきであるが,まずこのような病巣性扁桃は肥大より埋没型が多く,陰窩は栓子(遊離した白血球剝離(はくり)した上皮細胞,リン酸石灰,細菌,食物残屑などからなる米粒状のもろい灰白色物質),膿汁などで充満され,舌圧子で圧迫すると出血しやすい。また生検で組織の一部をとって病理検査に出すことが考えられたが,この方法は不確実で患者にも苦痛を与えるので,むしろ中山将太郎が考案(1976)した炎症性扁桃陰窩細胞診を駆使し,陰窩の中に蓄積した細胞成分を分析して扁桃実質の病変を予測するとよい。そのほか,血液,尿,心電図などの所見を参考にするが,起因菌である溶連菌に対する抗体ASO(antistreptolysin-O)を調べたり,CRP(C-reactive protein。炎症や組織の変性,とくに壊死があるとき,血清に出る一種の異種タンパク質),RA試験(リウマチ因子を調べる)などが重要なきめ手となる。なお,だいじな検査に扁桃誘発試験がある。これはマッサージ法や超短波装置などを用い,扁桃に刺激を与え,一時的に局所性の軽い炎症を起こさせ,試験前後の体温,血沈値,白血球数などを比較して病巣の有無を予測するもので,本法とは逆の意味での打消試験(扁桃洗浄やインプレトール注射などにより,症状の寛解ならびに血,尿諸所見の改善度を比較する)とともに重視されている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「病巣感染」の意味・わかりやすい解説

病巣感染
びょうそうかんせん
focal infection

身体の一部に慢性の炎症があり,それ自体の症状は軽いけれども,これが原因となって他の臓器に反応性の病変をつくることをいう。もとになる病巣としては,口蓋扁桃炎,虫歯,副鼻腔炎,中耳炎,胆嚢炎,虫垂炎などが知られており,関係する細菌として溶血性レンサ球菌が注目されている。腎炎,リウマチ熱のほか,慢性の微熱,関節リウマチ,ある種の膠原病,特発性腎出血などには,病巣感染によるものが少くないと考えられている。

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