六訂版 家庭医学大全科 「虫垂炎」の解説
虫垂炎
ちゅうすいえん
Appendicitis
(食道・胃・腸の病気)
どんな病気か
虫垂炎は、虫垂に化膿性の炎症が起こる病気です。虫垂は、
虫垂炎は、一般には「盲腸」あるいは「盲腸炎」という通称で知られていますが、これは昔、虫垂炎の発見が遅れ、炎症が盲腸まで広がった状態で発見されたケースが多かったためです。
急に激しい腹痛を訴え、外科的な治療を必要とする病気を総称して「急性腹症」といいますが、虫垂炎はそのなかでも最も頻度の高いもので、15人に1人が一生に一度この病気にかかるといわれます。虫垂炎の発症のピークは10~20代ですが、小児や高齢者も含めてどの年齢層でもみられます。男女差はありません。
虫垂炎は適切に治療されれば予後のよい病気ですが、治療しないまま放置しておくと、虫垂は破裂し、細菌を含んだ腸の内容物が腹腔内へ漏出して
原因は何か
虫垂炎の原因はまだ完全にはわかっていませんが、糞便(糞石)や異物、リンパ組織の過形成、まれには腫瘍などで虫垂の入り目がふさがったり、狭くなることがきっかけになると考えられています。これにより、虫垂の内圧が上昇して血行が悪くなり、そこに細菌が進入して感染を起こし、急性の炎症が起こると考えられています。
炎症の程度により、カタル性(粘膜層の軽い炎症)、
症状の現れ方
腹痛、食欲不振、発熱、吐き気、嘔吐が主な症状です。典型的な経過としては、上腹部やへそのまわりが突然痛み出し、次に発熱、吐き気や嘔吐、食欲不振が起こります。数時間もすると吐き気は止まり、数時間から24時間以内に痛みが右下腹部に移ってきます。この部分を押して離した時に痛みがひどくなります(
発熱は37~38℃の微熱のことが多く、39℃以上の場合は穿孔性腹膜炎や膿瘍形成を考える必要があります。
検査と診断
疼痛が腹部全体やみずおち(みぞおち)に始まり、次第に右下腹部に移動して、吐き気、嘔吐、発熱を認めた場合、虫垂炎の可能性が考えられます。しかし、こうした症状は虫垂炎に特有というわけではなく、尿路結石、急性腸炎、
触診は、右下腹部の圧痛(押した時の痛み)がポイントとなります。虫垂炎が進んで虫垂壁に穴があいて(穿孔)、急性腹膜炎を起こすと、腹壁の緊張が増して板のように硬くなります(
採血では、炎症の程度を表す白血球数や反応蛋白(CRP)の値が問題となります。炎症が起こると、早期に白血球が増加し、急性虫垂炎の場合では約90%の人で10000/μ以上の値を示すといわれます。この値も治療の方法を決定するひとつの指針となります。高齢者では反応が出にくいことがあります。
典型的な虫垂炎の場合は、診断は症状、おなかの所見、血液検査から臨床的に行います。所見が非典型的または不確かな場合、とくに訴えのあいまいな子どもや精神障害者、炎症の進行にもかかわらず症状や発熱、白血球増多などの現れにくい高齢者では、腹部超音波検査やCT検査で虫垂の形態的な変化を確認して診断することがあります。これらの画像検査は、ある程度炎症が進行した虫垂炎の診断に有効で、大きくはれた虫垂や虫垂壁の肥厚を確認します。また、虫垂内部の糞石や、虫垂のまわりのうみ(膿瘍)や腹水、腸管の麻痺像も確認できます。
虫垂炎は約10%ほどの誤診があるといわれています。鑑別診断を要する病気として、女性では、骨盤内炎症性疾患(PID)、卵巣出血、卵巣
治療の方法
急性虫垂炎の病期は、前述したように大きく3段階に分かれており、軽いほうからカタル性、蜂窩織炎性、壊疽性と分類されています。かつては虫垂炎との診断が得られれば、すべて手術していました。しかし最近では、薬物療法が進歩し、カタル性のものについては、抗生物質による内科的治療で治るようになっています。よく「虫垂炎をちらす」といういい方をしますが、これは薬剤で炎症を緩和することを指します。ただし、薬物療法の場合、10~20%の割合で再発します。
腹膜刺激徴候が明らかな場合や、画像検査で虫垂が1㎝以上に
手術方法としては、従来から行われている「開腹手術」と、「腹腔鏡を用いる手術」の2通りがあります。まず、開腹手術ですが、これには「交差切開法」と「
腹腔鏡による手術は、おなかに小さな穴をあけるだけですから、傷が極めて小さく、入院期間も2~3日で短くてすみます。
それぞれの方法には、メリット、デメリットがありますので、手術を受ける場合には、医師の説明を十分に聞いてから選択することが大事です。
病気に気づいたらどうする
腹痛、嘔吐、発熱という虫垂炎の主症状がそろっている場合にはもちろんですが、典型的な症状が出ていなくても、虫垂炎を疑った場合には、ともかく医師の診察を早く受けるべきです。虫垂炎は自然によくなることはなく、放っておくと、穿孔して腹膜炎を起こし命にかかわります。とくに小児の場合は、症状が出現してから穿孔を起こすまでの時間が短いので注意しなくてはなりません。
武田 宏司
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報