現・顕(読み)うつつ

精選版 日本国語大辞典 「現・顕」の意味・読み・例文・類語

うつつ【現・顕】

〘名〙
① 世に実際に存在していること。また、その存在しているもの。多く、観念世界、死、虚構のものなどに対して用いられる。
(イ) (観念世界に対して) 目ざめた意識に知覚される現実。実際。
書紀(720)神功九年一〇月(北野本訓)「御孫尊、若し宝の国を得まく欲(おもほ)さば、現(ウツツ)に授けまつらむ
万葉(8C後)一七・三九七八「敷栲(しきたへ)の 袖反しつつ 寝(ぬ)る夜おちず 夢には見れど 宇都追(ウツツ)にし 直(ただ)にあらねば 恋しけく 千重(ちへ)に積りぬ」
(ロ) (死に対して) 生きて存在している状態。なまの身。
源氏(1001‐14頃)葵「ひたすら、世になくなりて後に、うらみ残すは世の常のこと也。〈略〉うつつ我身ながら、さるうとましきことをいひつけらるる」
(ハ) (仮作物語などの虚構に対して) 現実に存在していること。実在
※源氏(1001‐14頃)蛍「うつぼのふぢはら君のむすめこそ〈略〉女しき所なかめるぞひとやうなめる、とのたまへば、うつつの人もさぞあるべかめる」
② 目ざめていて、知覚がはっきりしている状態。また、正常な精神状態であること。正気。→うつつない
※源氏(1001‐14頃)葵「かのひめ君と思しき人の、いと清らにてある所にいきて、とかくひきまさぐり、うつつにも似ずたけく厳(いか)きひたぶる心いできて、うちかなぐる」
③ (「夢うつつ」と続けていうところから誤用して) 夢か現実かはっきりしないような状態。また、そのような状態にあるもの。
(イ) 夢を見ているような心理状態。夢見ごこち。夢。まぼろし
太平記(14C後)二五「大塔宮を始め進(まゐら)せて、我慢、邪慢の小天狗共に至るまで『いしくも計ひ申たる哉』と、一同に皆入興(じゅきょう)して幻(ウツツ)の如に成にけり」
(ロ) うっとりとした状態。
浮世草子・好色一代女(1686)二「万事頼(たのみ)あげるなどいへば、住持はや現(ウツツ)になって」
(ハ) 正気のないこと。魂のぬけたからだ。
※浮世草子・好色五人女(1686)一「いつとなくおなつ清十郎に思ひつきそれより明暮心をつくし魂身のうちをはなれ清十郎が懐に入て我は現(ウツツ)が物いふごとく」
(ニ) 仮睡して、うつらうつらしている状態。
※浮世草子・傾城色三味線(1701)江戸「大分ささによふて、うつつで居た私をとらへて、ささやかしやるとはおもふたが」

うつ‐し【現・顕】

〘形シク〙
① 姿が見えている。実在する。この世に生きている。
② 正気である。理性がある。真実である。
※万葉(8C後)一五・三七五二「春の日のうら悲しきに後れゐて君に恋ひつつ宇都之家(ウツシケ)めやも」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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