燃料油汚染損害の民事責任条約(読み)ねんりょうゆおせんそんがいのみんじせきにんじょうやく

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

燃料油汚染損害の民事責任条約
ねんりょうゆおせんそんがいのみんじせきにんじょうやく

船舶燃料油バンカーオイル)の流出による損害に対する適正で迅速かつ効果的な補償を目的とする条約。正式名称は「2001年の燃料油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約(International Convention on Civil Liability for Bunker Oil Pollution Damage, 2001)」である。バンカー条約とよばれることもある。国際海事機関IMO)において2001年3月23日に採択され、2008年11月21日に発効した。2021年9月時点で締結国は103か国である。

 締約国の領土領海および排他的経済水域において発生した損害に適用される。損害とは、流出や排出の場所にかかわらず、船舶から流出または排出された燃料油によって引き起こされた汚染により当該船舶外で生じた損失または損害を意味する。それに加えて、汚染除去費用および当該除去活動によって生じた損害も含まれるが、逸失利益以外の環境損害への補償は合理的な回復措置の費用に限定される。

 その責任内容は改正油濁民事責任条約のものと類似しており、船舶所有者の無過失責任(故意または過失がなくても負う責任)、保険・金銭保証、保険者に対する賠償支払いの直接請求、他の締約国の裁判所が下す判決承認などが定められている。保険または金銭保証(銀行もしくは類似の金融機関の保証)については、1000総トン超の船舶に対して、その所有者の汚染損害責任を引き受けるため、責任限度に関する適用可能な国内法または国際法制度の下の限度額に等しい金額(ただし、海事債権責任制限条約に基づいて計算される金額を超えない範囲)を義務づけている。

 この条約の採択にあわせて、海事債権責任制限条約の1996年議定書の締約国となるよう要請する決議、関連国内法整備や人員訓練を含む技術協力を要請する決議、および、汚染除去作業にあたる人物に対してその作業から生じる責任を免除する法制度を整備するよう要請する決議も採択された。

 国内では、2020年(令和2)7月1日の加入書の寄託、7月2日の公布を経て、10月1日に発効した。

[磯崎博司 2021年10月20日]

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