漢文の影響

ことわざを知る辞典 「漢文の影響」の解説

漢文の影響

日本の文化は、古代から中国文化の圧倒的な影響を受けながら発展してきました。日本人が初めて出会った文字は、いうまでもなく漢字で、かな文字は漢字から派生したものです。現在でも、国語辞典見出しのおよそ半数は漢語が占めているといわれています。

■ことわざも、やはり中国文化の大きな影響を受けてきました。現存する日本最古のことわざ集は『世俗諺文』(一〇〇七年)ですが、これは貴族の子弟教育用に漢文のことわざや成句を集めたものでした。古代の学問は、まず漢字を学び漢籍を読むことでしたから、おそらく、かなり古い時代からこの種のものが編まれていたものでしょう。

■こうした教育を受けられたのは、古代には貴族や僧侶などの知識人にかぎられていましたが、時代がくだると、下級官吏武士なども漢文を学ぶようになり、近世には、庶民寺子屋読み書きを習うようになって、漢文のことわざがしだいに浸透していきます。その結果、今日使われていることわざのなかにも、たとえば、「井の中の蛙」や「きゅう猫を噛む」「郷に入っては郷に従え」「朱に交われば赤くなる」などのように、漢文をルーツとする表現が数多くみられるようになりました。ただし、その受容過程では、当然のことながら取捨選択が行われ、表現を省略し、改変されることもありました。それでも比較的よく原形をとどめているものが多いのは、近代に至るまで漢文の読み下し文による日本独自の教育がなされてきたせいでしょう。

■また、中国の故事も古くから親しまれ、近世には庶民の間にもひろまって、「さいおうが馬」や「ふくすい盆に返らず」のように、実質的にことわざとして使われてきたものも少なくありません。

■とはいえ、このようにして伝承されてきた漢文由来の表現は、基本的に古代中国のもので、それも儒教的なものが中心でした。かつては、庶民レベルでの交流は皆無でしたから、これらは現在中国で使われていることわざの大半とは別ものと思ったほうがよいでしょう。

漢文教育が衰退し、漢文由来のことわざも、しっかり根づいたもの以外は、しだいに使われなくなる傾向にあります。しかし、その一方で、中国語学習者は飛躍的に増え、中国人留学生が珍しくなくなって、ことわざの領域でも新たな交流がすでに始まっているものと思われます。

出典 ことわざを知る辞典ことわざを知る辞典について 情報

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